ブログ原稿≪推理小説『まだらの紐』と英語≫
(2021年12月21日投稿)
今回のブログでは、推理小説『まだらの紐』について、解説してみよう。
参考としたのは次の文献である。
〇皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]
『まだらの紐』は<ストランド・マガジン>1892年2月号に載ったホームズ譚を代表する作品の一つである。密室殺人にダイイング・メッセージを絡めた作品である。
イギリスの作家アーサー・コナン・ドイルにより、1887年から1927年にかけて発表された一連の推理小説は、当時の読者に熱狂的な人気をもって迎え入れられた。シャーロック・ホームズという魅力的な探偵が、奇異なる謎に満ちた事件を解決する冒険譚は、世界で好評を博した。
皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』(宝島社、2009年[2010年版])に収録された映像は、そのホームズの活躍する小説を原作とした、イギリス製のテレビドラマである。イギリスのグラナダTVにより製作され、1984年から10年にわたって全41話が放送され大ヒットした。このドラマ・シリーズの長所は、映像化にあたって可能な限りドイルの原作を基準としたことにある。つまり原作の物語世界を損なわず、きちんと映像化した作品はこれが初だったとされる。原作を“正典”と称する熱烈なファン層「シャーロキアン」にさえ“正典を投影した世界”として受け入れられた。原作を愛読したファンには懐かしくも新鮮である(皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]、1頁)。
【『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社はこちらから】
シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 (宝島MOOK)
『まだらの紐』は謎解きを主眼とする本格ミステリの傑作として有名な物語で、ホームズのファンはもとより推理小説ファンにも人気の高い作品である。またドイル自身がホームズの物語の中でベストに挙げた作品としても知られ、正にホームズ譚の代表格の一編とされる。
筋立ても人物設定も魅力に満ちており、事件の核心を彩る怪奇なムードと、奇態な凶器や密室のからくりには興奮すら覚える人もいる。一方、ホームズの論理的思考と現実性を尊重する読者の中では、『まだらの紐』に違和感を覚える人もいる。というのは、『まだらの紐』がはらむ矛盾、要となるトリックが合理的でないというのである。
種明かしになるので、読んだことのない人は、ここから先は読まないでほしいのだが、不合理さの最大のポイントは、『まだらの紐』に登場するような生態を示す蛇は、これまで確認されたことがないというものである。
具体的にその特徴を挙げれば、
①既知の蛇は音は認識せず、振動により反応するので、口笛で操れる蛇はいない
②蛇がミルクを積極的に飲むことはあまりなく、餌付けには不向き
③自然の木の枝の凹凸に体を引っ掛けて伝う蛇が滑らかなロープを這ったり、まして方向転換し這い登ることはできない
④蛇に限らず、金庫で飼って窒息しないものか?
口笛やミルクについては、インドに行ったことのないドイルが、インド関連の文献等で見知った誤解ではないかとの見解もあるという。
ともあれ、映像化にあたって、原作のままに描こうとし、クルーたちは原作の記述がはらむ矛盾を根気よく対処し、現実とうまく折り合いをつけ、ドラマを作りあげた。そして蛇の撮影はクルーの想像を絶する根気と工夫によって進められたそうだ。ドラマのクライマックスを再現したエンド・タイトルこそ、その証しで、特にエンド・タイトルの冒頭は必見である(皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]、14頁~15頁)。
推理小説では、まだらの紐が次のように登場する。
≪原文≫
Round his brow he had a peculiar yellow band, with
brownish speckles, which seemed to be bound tight
round his head. As we entered he made neither
sound nor motion.
“The band! The specked band!” whispered Holmes.
I took a step forward : in an instant his strange
headgear began to move, and there reared itself
from among his hair the squat diamond-shaped
head and puffed neck of a loathsome serpent.
“It is a swamp adder!” cried Holmes. “The dead-
liest snake in India. He has died within ten seconds
of being bitten.
(コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険 The Adventures of Sherlock Holmes』講談社英語文庫(Kodansha English Library)、1994年[2004年版]、pp.141-142.)
≪訳文≫
そのひたいにくるりと巻きついているのは、奇妙な茶色の斑点のある黄色の紐、それがどうやら博士の頭をかたく締めつけているようだ。私たちがはいっていっても、博士は声もたてなければ、動きもしなかった。
「紐だ! まだらの紐だ!」ホームズが押し殺した声でささやいた。
私は一歩前へ出た。と、その瞬間、博士の奇妙な鉢巻きが動きだしたかと思うと、髪のなかからにゅっと伸びあがったのは、ずんぐりした菱形の頭と、ふくれあがった首―忌まわしい毒蛇だった。
「沼蛇だ!」ホームズが叫んだ。「インド産のもっともおそるべき蛇だよ。咬まれてから、おそらく十秒とたたずに死んだだろう。(後略)」
(アーサー・コナン・ドイル(深町真理子訳)『シャーロック・ホームズの冒険』創元推理文庫、2010年、341頁)。
DVDでは、先の蛇の件は次のような科白で出てくる。英日対訳による。
時間48分18秒
It’s the band, the speckled band.(まだらのヒモの正体だ)
時間48分22秒
It is a swamp adder, the deadliest snake in India.(インドで最も恐れられている猛毒のヘビだ)
時間49分55秒
The Doctor had trained the snake, probaly with the milk, to return at the sound of a whistle.(牛乳を餌に口笛で戻るよう仕込んだのでしょう)
(皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]、47頁)。
《参考文献》
アーサー・コナン・ドイル(深町真理子訳)『シャーロック・ホームズの冒険』創元推理文庫、2010年
コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険 The Adventures of Sherlock Holmes』講談社英語文庫(Kodansha English Library)、1994年[2004年版]
皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]
カットした部分(2021年12月21日)
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
《推理小説『まだらの紐』について》
(2015年5月3日)
2021年12月12日に英語学習法にコピペ
アガサ・クリスティー(山本やよい訳)『オリエント急行の殺人』早川書房、2011年
Agatha Christie, Murder on the Orient Express: A Hercule Poirot Mystery, Harper Collins Publishers, 2011.
DVD『オリエント急行殺人事件』(パラマウント・ジャパン、1975年公開、シドニー・ルメット監督、アルバート・フィニー主演)
(2021年12月21日投稿)
【はじめに】
今回のブログでは、推理小説『まだらの紐』について、解説してみよう。
参考としたのは次の文献である。
〇皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]
『まだらの紐(The Speckled Band)』
『まだらの紐』は<ストランド・マガジン>1892年2月号に載ったホームズ譚を代表する作品の一つである。密室殺人にダイイング・メッセージを絡めた作品である。
イギリスの作家アーサー・コナン・ドイルにより、1887年から1927年にかけて発表された一連の推理小説は、当時の読者に熱狂的な人気をもって迎え入れられた。シャーロック・ホームズという魅力的な探偵が、奇異なる謎に満ちた事件を解決する冒険譚は、世界で好評を博した。
皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』(宝島社、2009年[2010年版])に収録された映像は、そのホームズの活躍する小説を原作とした、イギリス製のテレビドラマである。イギリスのグラナダTVにより製作され、1984年から10年にわたって全41話が放送され大ヒットした。このドラマ・シリーズの長所は、映像化にあたって可能な限りドイルの原作を基準としたことにある。つまり原作の物語世界を損なわず、きちんと映像化した作品はこれが初だったとされる。原作を“正典”と称する熱烈なファン層「シャーロキアン」にさえ“正典を投影した世界”として受け入れられた。原作を愛読したファンには懐かしくも新鮮である(皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]、1頁)。
【『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社はこちらから】
シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 (宝島MOOK)
『まだらの紐』は謎解きを主眼とする本格ミステリの傑作として有名な物語で、ホームズのファンはもとより推理小説ファンにも人気の高い作品である。またドイル自身がホームズの物語の中でベストに挙げた作品としても知られ、正にホームズ譚の代表格の一編とされる。
筋立ても人物設定も魅力に満ちており、事件の核心を彩る怪奇なムードと、奇態な凶器や密室のからくりには興奮すら覚える人もいる。一方、ホームズの論理的思考と現実性を尊重する読者の中では、『まだらの紐』に違和感を覚える人もいる。というのは、『まだらの紐』がはらむ矛盾、要となるトリックが合理的でないというのである。
種明かしになるので、読んだことのない人は、ここから先は読まないでほしいのだが、不合理さの最大のポイントは、『まだらの紐』に登場するような生態を示す蛇は、これまで確認されたことがないというものである。
具体的にその特徴を挙げれば、
①既知の蛇は音は認識せず、振動により反応するので、口笛で操れる蛇はいない
②蛇がミルクを積極的に飲むことはあまりなく、餌付けには不向き
③自然の木の枝の凹凸に体を引っ掛けて伝う蛇が滑らかなロープを這ったり、まして方向転換し這い登ることはできない
④蛇に限らず、金庫で飼って窒息しないものか?
口笛やミルクについては、インドに行ったことのないドイルが、インド関連の文献等で見知った誤解ではないかとの見解もあるという。
ともあれ、映像化にあたって、原作のままに描こうとし、クルーたちは原作の記述がはらむ矛盾を根気よく対処し、現実とうまく折り合いをつけ、ドラマを作りあげた。そして蛇の撮影はクルーの想像を絶する根気と工夫によって進められたそうだ。ドラマのクライマックスを再現したエンド・タイトルこそ、その証しで、特にエンド・タイトルの冒頭は必見である(皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]、14頁~15頁)。
まだらの紐の登場場面
推理小説では、まだらの紐が次のように登場する。
≪原文≫
Round his brow he had a peculiar yellow band, with
brownish speckles, which seemed to be bound tight
round his head. As we entered he made neither
sound nor motion.
“The band! The specked band!” whispered Holmes.
I took a step forward : in an instant his strange
headgear began to move, and there reared itself
from among his hair the squat diamond-shaped
head and puffed neck of a loathsome serpent.
“It is a swamp adder!” cried Holmes. “The dead-
liest snake in India. He has died within ten seconds
of being bitten.
(コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険 The Adventures of Sherlock Holmes』講談社英語文庫(Kodansha English Library)、1994年[2004年版]、pp.141-142.)
≪訳文≫
そのひたいにくるりと巻きついているのは、奇妙な茶色の斑点のある黄色の紐、それがどうやら博士の頭をかたく締めつけているようだ。私たちがはいっていっても、博士は声もたてなければ、動きもしなかった。
「紐だ! まだらの紐だ!」ホームズが押し殺した声でささやいた。
私は一歩前へ出た。と、その瞬間、博士の奇妙な鉢巻きが動きだしたかと思うと、髪のなかからにゅっと伸びあがったのは、ずんぐりした菱形の頭と、ふくれあがった首―忌まわしい毒蛇だった。
「沼蛇だ!」ホームズが叫んだ。「インド産のもっともおそるべき蛇だよ。咬まれてから、おそらく十秒とたたずに死んだだろう。(後略)」
(アーサー・コナン・ドイル(深町真理子訳)『シャーロック・ホームズの冒険』創元推理文庫、2010年、341頁)。
DVDでは、先の蛇の件は次のような科白で出てくる。英日対訳による。
時間48分18秒
It’s the band, the speckled band.(まだらのヒモの正体だ)
時間48分22秒
It is a swamp adder, the deadliest snake in India.(インドで最も恐れられている猛毒のヘビだ)
時間49分55秒
The Doctor had trained the snake, probaly with the milk, to return at the sound of a whistle.(牛乳を餌に口笛で戻るよう仕込んだのでしょう)
(皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]、47頁)。
《参考文献》
アーサー・コナン・ドイル(深町真理子訳)『シャーロック・ホームズの冒険』創元推理文庫、2010年
コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険 The Adventures of Sherlock Holmes』講談社英語文庫(Kodansha English Library)、1994年[2004年版]
皆川慶一『宝島MOOK シャーロック・ホームズの冒険 DVD BOOK vol.1 美しき自転車乗り・まだらの紐』宝島社、2009年[2010年版]
カットした部分(2021年12月21日)
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
《推理小説『まだらの紐』について》
(2015年5月3日)
2021年12月12日に英語学習法にコピペ
アガサ・クリスティー(山本やよい訳)『オリエント急行の殺人』早川書房、2011年
Agatha Christie, Murder on the Orient Express: A Hercule Poirot Mystery, Harper Collins Publishers, 2011.
DVD『オリエント急行殺人事件』(パラマウント・ジャパン、1975年公開、シドニー・ルメット監督、アルバート・フィニー主演)
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