[書籍紹介]
今期の直木賞受章作。
舞台は戦国時代末期の石見銀山↓。
秀吉の唐入りへの徴用で民衆が苦しめられていた時代。
貧しさに耐えかねた一家が村の隠し米を盗んで夜逃げする。
しかし追っ手に見つかり、幼い少女・ウメは両親とはぐれてしまう。
道に迷ったウメが入り込んだのは、
石見国、仙ノ山と呼ばれる銀山の間歩(坑道)だった。
ウメはそこで、カリスマ的山師の喜兵衛に拾われる。
喜兵衛はウメに銀山の知識と鉱脈の在処、
そして山で生きる知恵を授け、
自らの手子(雑用係)として間歩に出入りさせた。
石見銀山は、戦国時代から江戸時代前期にかけて、
世界を動かすほどの銀の産出を誇った。
海外にもイワミの名が知られ、
一時は世界の銀の産出量の三分の一をこの石見銀山が賄ったという。
ゴールドラッシュならぬシルバーラッシュで、
報酬を求めて人が集まり、町が作られる。
自然に左右され、収穫したものも年貢で取り上げられてしまう農夫に比べ、
銀山の掘子となれば米の飯が食べられる。
もちろん危険と隣り合わせの仕事だし、
厳しい規律や統制は当然だが、
金の匂いのするところに、自動的に人は集まって来る。
夜目の利くウメは暗い間歩の中で重宝されるが、
本来、銀掘は男の仕事。
女性として成長していく中、
ウメは女であるがゆえに制限されることの多さに悩むことになる。
やがて初潮が訪れた時、ウメは間歩に入ることを禁じられてしまう。
成長したウメに卑猥な目が向けられ、乱暴もされる。
幼い頃から知っている隼人から結婚を申し込まれる。
女の使命は子どもを生むこととされる現実をウメは知る。
「銀山やまのおなごは三たび夫を持つ」
と言うのは、
粉塵と瘴気の中で仕事をする掘子たちは長生きできない。
遅かれ早かれ肺を患って死んでいく。
夫に先立たれた女は他の男に嫁ぐ
将来の働き手となる子を産むためなのだ。
「女は男の庇護の許にしか無事でいられないのか」
という女の位置。
関が原の戦いの噂が届き、
時代は徳川の世に。
役人が送り込まれ、
採掘はシステム化される。
従来のやり方が続けられなくなり、「職人芸」は途絶え、
時代の変化についていけない喜兵衛は、佐渡金山に向かう。
ウメを残して。
やがて喜兵衛も死に、隼人も死に、
次々と男たちは死んでいく。
それを見送る女たちは、
その現実を受け入れ、生き続ける。
外国船の奴隷だったのを喜兵衛に買われ、懐刀となったヨキ、
混血で碧眼を持つ龍という、海の向こうから来た男、
男と同じ早死にする女郎たち、
女でありながら男装で踊ることを思いつく旅芸人のおくに
(出雲阿国のこと)
など、ウメに、それぞれ異なる人生の形を見せる。
古い職人気質で、山に生きる喜兵衛の姿が魅力的。
父親のような存在だが、
ウメは男としても慕っている。
しろがねの葉とは、
銀を吸って光る、
銀のありかを教える羊歯のこと。
戦国時代から江戸時代初期を生きた一人の女性の生きざまを通じて、
時代と世界の有り様を描く千早茜初の時代小説。
スラスラと進める本ではないが、
読みごたえがあった。
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