昼の部ですが・・
演目は
第一 佐々木高綱(ささきたかつな)
佐々木高綱は合戦での約束を守らない主君・源頼朝に対して
憤懣やる方ない思いを抱いていました。そしてもう一つ心にかかるのは、
先の挙兵の際に馬欲しさに馬士を手にかけたこと。
それを後悔し今も供養を続けていました。
折しも初上洛する頼朝一行が領地へ近づきます。
進退を決める時とばかり、武士としての憤りが募る高綱は、
悟らずして世を捨てる決心をするのでした。
佐々木高綱 梅 玉 馬飼子之介 翫 雀
佐々木小太郎定重 愛之助 鹿島与一 薪 車
高綱娘薄衣 梅 枝 高野の僧智山 東 蔵
子之介姉おみの 秀太郎
第二 一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
平家全盛期の世のこと。公家の一條大蔵卿は、能狂言にうつつをぬかし、
人々からは阿呆と噂される人物。その大蔵卿の妻で、
かつて源義朝の妻であった常盤御前の心底を探るため、
義朝の旧臣・吉岡鬼次郎は妻のお京を潜入させ、まんまと奥殿へ忍び込みます。
そして楊弓に遊びふける常盤御前に詰め寄るのでした。その真意と、
大蔵卿の隠された素顔とは......。
一條大蔵長成 菊五郎 吉岡鬼次郎 松 緑
女房お京 菊之助 勘解由女房鳴瀬 吉 弥 八剣勘解由 團 蔵 常盤御前 時 蔵
第三 お祭り(おまつり)
鳶頭松吉 仁左衛門
山王祭と神田祭は江戸の二大祭と呼ばれ、この二つの祭礼を題材にした
清元の舞踊曲が作られ、ともに歌舞伎の人気舞踊となっています。
この『お祭り』は、山王祭を終えた鳶頭の松吉が、ほろ酔い気分で賑やかに踊る
舞踊劇です。
第四 恋飛脚大和往来
玩辞楼十二曲の内 封印切(ふういんきり)これは良かったです。
新町井筒屋の場亀屋忠兵衛 藤十郎 傾城梅川 秀太郎
槌屋治右衛門 左團次 井筒屋おえん 玉三郎
丹波屋八右衛門 仁左衛門
近松門左衛門の3大心中狂言のひとつ、「恋飛脚大和往来(こいひきゃくやまとおうらい)」が、
2000年6月の国立劇場で上演されましたので、
少し触れることにします。主人公の遊女・梅川は片岡愛之助(松島屋)、
もう一人の主人公亀屋忠兵衛は中村扇雀(成駒屋)という若手コンビした。
この「恋飛脚大和往来」は、もともとは人形浄瑠璃のために書き下ろされた
「冥土の飛脚(めいどのひきゃく)」という狂言を、歌舞伎向けに
アレンジして出来た作品です。ですから義太夫狂言ということになります。
現在では大きく分けて、前段部分が心中しなくてはならなくなった原因を
描いている「封印切」で、後段部分が雪の降りしきるなか心中に赴く二人を
描く「新口村(にのくちむら)」という2段構成になっているのが普通です。
さて「封印切」ですが、これは大坂の亀屋という飛脚屋の養子“忠兵衛”が、
恋人である新町の遊女“梅川”の身請けを、敵役である“八右衛門”と
張り合ううちに心ならずも為替の金の封を切ってしまうというものです。
飛脚屋というのは、いわば江戸時代における私立の郵便事業者で、
主として江戸と上方間で手紙や現金の輸送に従事しました。忠兵衛は、
その預り物の現金の封を切ったという罪で、金額の多寡に拘わらず
死刑というのが幕府の定めたお仕置きでした。信用秩序を維持するために、
使い込みには極刑で臨んだ訳です。(使い込まなくても封を切っただけで死刑です。)
現代でいえば、公金横領罪ということになるのでしょう。
愛する女のために悪いこととは知りながら、
ついつい他人の金に手をつけるという、私たちの身の回りでも
日常的に発生している事件で、現代社会にも通じるテーマが描かれているのがこの「封印切」なのです。
余談ですが、この飛脚は10日おきに、つまり月に3度定期的に
江戸・上方間を往復したそうです。三度飛脚とも呼ばれていますが、
この飛脚が東海道を往来する際に被った菅笠(すげがさ)を
「三度笠(さんどがさ)」というのです。
どの位の日時を要したのかといえば、京都-江戸間で10日、
大坂-江戸間で12日というのが、普通便。速達だと72刻
(つまり144時間、=6日)で運んでしまうのだそうで、
速達便の場合、手紙の表に「正六」と朱書きされたということです。
現代の郵便でも速達便では手紙の表に赤で「速達」と書きますが、
これは江戸時代の飛脚の名残だそうです。