★★ 「或るホームレス歌人を探る~その二十二」 ★★ 松井多絵子
「2010短歌年鑑」の<今年の世相をあらわす>という特集で、明治の歌人石川啄木の作品が
一位に選ばれたことに注目したい。朝日歌壇の初代の選者は石川啄木(1886~1913)なのである。一位に推された作品は、
❤ はたらけどはたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり じっと手を見る 『一握の砂』
❤ こころよく 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ
啄木が27歳で夭折したのは100年も前である。その後、多くの有名歌人が活躍した。にもかかわらず「はたらけどはたらけど」の歌はまるで懐メロのように、短歌にかかわらない人びとにも愛誦されている。明治末期も現在のような経済不況であったらしいが、大正も昭和も平成も、富める人はごく少数であり、大多数は経済的に恵まれていない。「はたらけどはたらけど」は庶民の「ぼやき」なのだ。実感がこもり調べのよいこの歌に私たちは酔う。啄木は夭折したが、この歌は不滅だ。
この歌をただの「ぼやき」ではなく「名歌」にしたのは結句の「じっと手を見る」であろう。辛いとき、哀しいとき、淋しいとき、私たちは下を向く。うつむきながら手を見ている。手違い、手遅れ、手には様々なイメージが凝縮されている。手の表情を見ながら自分の手と語りあう。
(あと3回で終わります。最後まで読んでくださった方には???きっといいことが。)
思わせぶりに笑っている松井多絵子