MAINITI 「毎日歌壇賞」KADANN
2012年「毎日歌壇賞」が発表された。例年よりかなり遅いのではないか。受賞者は、水野真由美、大平真理子、野上卓、橋本英之の四氏である。
▲加藤治郎推薦の言葉 (一年間コンスタントに若々しい短歌を投稿していただいた作者である。この作品には愛情と好奇心がある。謎めいてもいる。古本という個性的な比喩で自らの感覚を表現した。
★三毛猫の背中に鼻を押し当てて古本みたいな匂い吸い込む (横浜市) 水野真由美
※<古本みたいな匂い>という新鮮な表現は22歳の作者だからできたのかもしれない。
▲米川千嘉子推薦の言葉(思春期の子供と日常を大らかに楽しく、勢いをもってうたう世界が鮮やかだった。「宿題をやらぬ息子に近づいて腹へ戻すと耳打ちをせり」などもある。ユーモアは力だ。
★おのが母の手作り鍋には並ばない豚汁会の思春期の距離 (川崎市) 大平真理子
※思春期の息子さんへの距離をおもう作者は47歳、これからのあなたの歌が楽しみです。
▲篠弘推薦の言葉(退職という領域を拓いた一首。難しい人間関係に挑んだ努力を認めたい。不況下にあえぐ後輩への目配りが温かい。とかく辞した後は虚脱感が漂いがちだが、克服されている。
★後任が努力かさねて遣り遂げし成果にこころ揺さぶれてゐる (東京) 野上 卓
※短歌をはじめて三年目、お見事ですね。企業人としてもご活躍されたことでしょう。
▲伊藤一彦推薦の言葉(3・11から2年近く過ぎてなお多くの避難生活者がいるが、困難を特に強いられている高齢者の生活を捉えて詠った。福島県の人々の現実を鋭く詠い続けている作者である。
★ 土に慣れし身には避難所の砕石の上を歩くは辛しと老女 (郡山市) 橋本英之
※砕石の上を、しかも避難所。3・11の後遺症はいつまでつづくのでしょうか。
松井多絵子