落款に用いる印泥は、量からしたら実際は1個あれば一生間に合うものなのです。ヤフオクで際限なく出品される印泥のうち、大多数が未使用かほとんど減っていないことがその証です。世の中で最も印泥の消費量が多いのは、実は相撲の関取ではなかろうか、と密かに思っています。いや、あれは正確には印泥では無く、印肉や朱肉の類かも知れません。人一倍大きな手のひらを朱肉に押し付け、何百枚も色紙に手形を押します。あれが何千円かで売れるのですから朱肉をどれだけ消費しても元は取れるので、惜しげもなく使うと思いますね。
職業として篆刻家をされている人や、ごく一部の書道家さんは、印泥を使う頻度が高いし、印の色合いを作品によって変えるので数種類かを使い分けます。そうでない一般の書道愛好家や篆刻好きは、作品など年に何枚かを作って落款を入れる程度なのでほとんど減りません。
ただし、印泥は、基本的には長期間劣化や変質はしないのですが、未使用のまま薄いセロファン紙みたいなもので封をされていても、徐々に固く、つかいづらくなっていきます。本来は、温度差が少なく湿気がない冷暗所に保管し、数か月に一度は、かき混ぜて品質を一定に均質に保つのが長持ちさせる秘訣です。
とはいえ、最高級の印泥は1両装(30g)で大観印泥の貢品は約15千円、北京栄寶斎黄磦2万円前後など大変高価なものです。毎月混ぜたりしていると骨ヘラや手に付着した印泥はその分減っていくことになるので、もったいないのです。
自称印泥研究家のワタシも、比較的高級と言われる印泥を主体に40個ほど所有しており、当然実用としては死ぬまで到底使いきれない量があります。集めた印泥の中で、それなりのお値打ちものは「栄寶斎」の七宝印合入り、漳州八宝印泥最上位の「特級貢品」、北京一得閣八宝印泥、高式熊上品、そしてちょっと見つからない缶盧(うろ)印泥「珍品」があります。缶盧は中国の近代芸術家のなかで最も偉大な書道の大家、呉昌碩さんの雅号でもあり、この名を冠した印泥も最高水準なのです。
そして、これからもっとも高価なそれらの印泥を惜しげもなく使って自作篆刻印30個を捺していきます。倅の結婚式に配るために印にその印を捺した紙を貼り付けます。記念なので、一番きれいに発色するとっておきの印泥を使うのです。好きなのを選んでもらうのに、まさか式場に印泥を持ち込んで、皆さんの晴れ着やワタシ達の貸衣装などに朱肉でもついたらえらい騒ぎになります。現地では絶対に印を捺させてはなりません。
せっかく心を込めて彫った印でもありますので、ワタシの「印譜」として残しておきたいのです。とりあえず全部半紙にシャチハタで試して、気になるところを「補刻」して仕上げます。出来たら後ほどこちらのブログに追加で掲載いたしましょう。
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