植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

ありがとー 節子さん

2021年03月05日 | 篆刻
 昨日紹介した石川啄木、その奥さんの名前は「節子さん」でした。明治の方ですが、ワタシらの世代にも節子さんという名前の人は多く、人気度の高い女子名だったように思いますね。
 ぱっと思いつくのが月の家圓鏡( 八代目橘家 圓蔵 )さんの若い頃の口癖が「うちの節子が」でありました。高校の時の同級生にも節子さんは数名いました。なかでも、あこがれのマドンナだった節子さんは、バイオリンが堪能で音楽の道に進んだようです。今はたしか同級生の医師の奥方です。

 昨日ヤフオクで4100円で落札した篆刻印(ほぼ全部が刻印)30個が届きました。市販される新品の普及品(ほとんどが青田石)はだいたい一個200円程度であります。すると、単純には割安になりますが、実際に使ったものは傷があったり、何度も作り直して高さが短くなるというデメリットもありますし、印面を潰す(紙やすりで磨る)という手間があります。人の作ったものをわざわざ集めなくても、とも思われます。が、そこには楽しみがあります。

 ワタシの印材集めの目的は、未使用のものは勿論自作用になりますが、①彫ってあるものも潰して、新たに彫る ②側款があるようなプロの作、彫のすばらしさ、デザインなどを勉強材料にする ③持ち手の飾り彫りー紐(鈕)の見事なものや石自体が美しく貴重なものはコレクションとして保存する、であります。側款 には、篆刻した作者名だけでなく、作成した場所や年月、漢詩など様々な字句が刻まれています。手に取って、印面に彫られた字を含め、前の持ち主が、(生前)どういう人で、どんな関りで印を作ったのか等を想像し推理しながら眺めるのがまた楽しいのです。

 それで、今回の印の持ち主は「節子」さんでありました。いくつか他にも情報が刻まれていますが、個人情報ですから記しません。30個全部が彫られていることや、ほとんどに複数の別の人による側款が刻まれているので、自分では彫っておらず、人に作って貰っています。蝶や花をモチーフにしたもの、装飾された絵文字様の遊印も多く、なかなか風流な印でありました。引首印、雅号印が無いので「書道家」さんとも違うようです。また、昔名家のみが伝統的に使った「花押」も一つありました。

 花押(かおう)は、昔は武将や高貴な人がサイン代わりに使ったもので、明治以降も政財界、宗教界・教育・文化・伝統芸術の名士が好んで作成、所蔵していたようです。今でも、大臣の署名に使うと聞きますし、茶・華道等の家元やら各「士業」と言われる上級国民やお金持ちが「風雅・趣味」で持つということもあるのです。

 してみると、この節子さんは、かなりの資産がある大家の奥様で、日本画とか茶道か華道、あるいは雅楽の世界の人だったかもしれません。少なくとも裕福な方であったことは間違いありません。篆刻家に印の作成を頼めば、一個数万円いたします。また、その石の素材・種類もなかなかのものでした。それが、ワタシの目を引いたので、わずか4千円で落札できたのは幸運であったと思います。

 中でも、オークションの紹介写真で目立ったのが丸みを帯びた印で、鮮やかな朱がいくつも走っている大きめの篆刻印でした。ひょっとすると「鶏血石」か?と思わせる外観だったのです。

 中国「印石三宝 」と言われるのが「鶏血石」「田黄石」「芙蓉石」であります。その超高級な印材は一個数万円から数十万円と聞きます。中でも「鶏血石」は希少で、赤みが美しいので日本でも珍重されているのです。これはパリン(巴林)石(モンゴル)と昌化石 に分類され、前者は乳白色系の下地に落ち着いた赤みがあり、後者は本当の血の色に似ています。灰色・黄土色・黒色などの混色に朱の辰砂が点在しているのが一般的です。

 ワタシは、篆刻印集めを始めてその存在を知ったくらいで、本物がどれかは知りませんでした。しかし、集めてるうちに、まぁ・・・「欲しくなる」のです。で、幾度かオークションで落札してみました。その「もどき」が下の写真です。
 確か、ヤフオクで落札した3点1万5千円のなど右の5個くらいが鶏血石として出品されていました。 
 どうも本物かは自信がありません。なにせ本物を見たことが無いのですから。

 左は一点もので4千円弱で落札、そして、勉強代わりにと、ネットで正規に買ったのが右側1個1万3千円のこれ、厚さ 5㎜、幅12㎜ほどの小さなものです。どうやらこれが鶏血石の一般的なもの、本物であろうと判断しました。

 そして、節子さんの印のうち二つがこれであります。
 一瞬「やったー」と小躍りしましたな(笑) これが、本物だったら軽く50万円はいたします。特に右側の赤い色は鮮やかでこれぞ、銘品「鶏血石」と見まごうばかりでした。ただ、よくよく子細に見てみると、赤い部分が少し「剥がれ」ているのですよ。あ!これは、普通の石材に朱色を塗った透明なフィルムを張りつけた真っ赤な偽物であります。中国で印材専門店で売られているものうち90%が偽物というものの一つでしょうね。節子さんは一杯食わされたのかもしれません。

 しかしながら、左の小さなものは印面まで赤い部分が貫通した自然石です。持ってみるとヒンヤリとして本物の石の手触りです。光沢も明らかに違います。朱の部分は少ないですが、真正の鶏血石で間違いなさそうです。

 ワタシの推理ですが、節子さんは旅行か、あるいは業界の会議か何かで中国に行ったのです。現地の方の案内で「信頼のおける」印刻店に赴き、記念に自分の名前を刻字した鶏血石を注文したのでしょう。多分5万円以上したと思います。その時、店主がこの模造品を出してきて「これはレプリカだが見分けがつかないので、話のタネでいかかでしょうか」と勧められ、ついでに調製したのではなかろうかと思います。宝石の世界ではよくある話です。高貴な人、資産家が指にはめていると、スワロフスキーのガラスの指輪も、ダイヤモンドに見える、というやつです。

 数十万円もする印材に、その場で名前を彫ってもらうのは考えられません。しかも側款もありません。もし、本物と言われて大枚はたいたなら、帰国してしばらく眺め、印を作るとしても、折を見て名高い篆刻家に依頼するのが自然であります。

 かくして、節子さんのおかげで、ワタシはわずかなお金で、バラエティーに富んだ印の数々を手にしました。「鶏血石」に関わる知見を広め、妄想をたくましくし、小ぶりながら高価な鶏血石を期せずしてゲットした(つもり)、とブログには書いておきましょう。

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