このところずっと堅めの文章が続きました。ここで、ちょっとコーヒー・ブレイクを。
大瀧詠一の「指切り」をお聴きください。以下は、本楽曲を聴きながら読んでいただければ幸いです。
Eiichi Ohtaki - 指切り
本楽曲は、1972年11月25日に発売された大滝詠一のソロ・ファーストアルバム『大瀧詠一』の収録曲です。『大瀧詠一Writing & Talking』(白夜書房)から、『大瀧詠一』制作の背景に触れた大瀧自身の言葉を引用します。
(1971年11月20日に発売されたはっぴいえんど通算2作目のスタジオ・アルバムである――引用者補)『風街ろまん』をやってたときに三浦光紀が「大瀧くん、ソロをやらないか」って言ってきてね。で、リーダーの細野(晴臣――引用者補)に「ソロやらないかって話、来たんだけど」って聞いたら「話があるうちにやっといた方がいい」って言ったから、それでやる事にしたんだよね。巷では大瀧がソロの野望をむき出しにして、とか言われたけど(笑)。
今にして思えばベルウッドへのはっぴいえんど引き抜き作戦であったということがわかりますね。そのダシにオレが使われたんだな結局。ファースト・アルバム発表以降見かえりがありませんでしたけどね(笑)。
引用文中の三浦光紀は、はっぴえんどが所属するURCレコードの制作現場に出入りしていた、キング系レコード会社ベルウッド所属の人物です。
次は、本楽曲についての大瀧自身の解説です。引用は、1995年3月24日発売のリマスター版添付のライナー・ノーツから。
これは一番〈はっぴいえんど〉的ではないサウンドとでも言いましょうか、まさに今言われるところの〈ポップス〉作品第一号でした。テーマは(はっぴいえんどの楽曲で、大瀧がヴォーカル担当の――引用者補)「かくれんぼ」と同じ〈恋愛の不毛〉風のものでしたが、サウンド(コード進行)がポップスしていました。(同じテーマは次の松本作品「VELVET MOTEL」(1981年3月21日発売の『A LONG VACATION』収録――引用者注)に引き継がれます)そのサウンドのキーとなったのがフルートと女性コーラスでした。フルートを担当したのは吉田美奈子です。69年ぐらいに細野を通じて知り合いましたが、71年春頃には「五月雨」でベースを担当していた元・ブルース・クリエイションの野地義行と〈PUFF〉というグループを結成し、そこで確かフルート演奏もしていたように記憶しています。エンディングが長いのは、彼女のフルートの演奏を十分に聞かそうという配慮からです。「夢で逢えたら」のエンディングが長いのも彼女の歌を十分に聞いてもらおうという配慮からですヨ)
またここで初登場したのが〈女性コーラス〉です。当時のフォーク・ロック系に女性コーラスが使われると言うことは全くない時代でしたし、当時のバンドは演奏は自給自足ですから特に女性コーラスがセッションで起用されるということは非常に稀でした。(もちろん女性がいるグループは別ですよ)ここで初めてシンガーズ・スリーの〈伊集加代子〉さんと出会います。この後このアルバム、サイダー・シリーズ、ナイアガラの一連もの、80年代のソニー時代から「怪盗ルビー」(1988年小泉今日子の楽曲、作曲は大瀧――引用者注)まで、殆どの大瀧作品に参加することになるのですが、この頃はまだお互いに全くの手探り状態で、これほどの長いツキアイになるとは当時思いもしませんでした。一つ言い切れるのは、彼女達とこのようなサウンドとの組み合わせの第一号はこの曲である、ということだけは確かです。
そしてこの曲は74年に〈ナイアガラ第一号アーティスト〉となったシュガー・ベイブによってカバーされ、デモ・レコーディングやステージでと随分演奏されました。更に90年にはピチカート・ファイヴによってもカバーされ、〈大瀧詠一→山下達郎→田島貴男〉と歌い継がれた歌となりました。
このボーカル・テイクは一番最初にテスト的に歌ったものでしたが、吉野ミキサーが異常に気に入り、冗談ながらも「これを使わないならこの仕事を降りる」とまで言われたのでそれを使うことになりました。まだ歌を掴んでいないあやふやな感じが良かったのだと思います。(もちろん、何度歌ってもこれ以上のことはなかったと思います)
ちなみに、ボーカリストとして名高い吉田美奈子は、このときフルート&ピアノプレイヤーとして公式に初登場したことになります。印象に残る魅力的なフルート演奏ですね。抜群のセンスの良さを感じます。中学時代からの親友Sの一押しアーティストだけのことはあります。Sは、大学生のころから約40年間、山下達郎と吉田美奈子を相当に聴きこんでいます。
また、山下達郎は、とあるラジオ番組で大瀧詠一に向って、「指切り」が大瀧作品のなかで一番好きという旨の発言をしています。『大瀧詠一』を聴くまでは洋楽一辺倒だったが、本アルバムをきっかけに、日本のポップスもきちんと聴くようになったそうです。
パーソネルは、以下の通りです。
作詞:松本隆
作曲&アレンジ:大瀧詠一
ドラムス:松本隆
ベース:細野晴臣
ピアノ&フルート:吉田美奈子
コーラス:シンガーズ“Sexy”スリー
パーカッション:江戸門、宇野、多羅尾
「多羅尾」は大瀧詠一の変名、というのはわかるのですが。「江戸門」と「宇野」がだれなのか、よく分かりません。お分かりの方、教えていただけませんか?
一言だけ、個人的な感想を述べれば、大瀧詠一の肩の力の抜けきった繊細な歌声は、とても魅力的です。
ところで、Wikipediaによれば本楽曲は、アル・グリーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」を意識して作られた曲だそうですが、ベースまでそのままでは面白くないので、ザ・ステイプル・シンガーズの「リスペクト・ユアセルフ」風にしたとの由。参考までに、当2曲も紹介いたします。
Al Green - Let's Stay Together
The Staple Singers - Respect Yourself