11/10、今、名古屋に来てから読んだ本は992冊です。
990冊目は「宇宙の片隅で」石垣りんさん、
詩集です。
図書館に行ったら、
今月のテーマという棚に詩集などが並んでいて
そのうち いろんな方の4冊を借り出してきました。
病院の待合室で読みました。
一番好きなのは、
「朝のパン」です。
朝のパン
毎朝
太陽が地平線から顔を出すように
パンが
鉄板の上から顔を出します
どちらにも
火が燃えています
私のいのちの
燃える思いは
どこからせり上がってくるのでしょう
いちにちのはじめにパンを
指先でちぎって口にはこぶ
大切な儀式を
「日常」と申します
やがて
屋根という屋根の下から顔を出す
こんがりとあたたかものは
にんげん
です
それから「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」も
なるほどと思いました。
私の前にある鍋とお釜と燃える火と
それはながい間
私たち女のまえに
いつも置かれてあったもの
自分の力にかなう
ほどよい大きさの鍋や
お米がぷつぷつとふくらんで
光り出すに都合のいい釜や
劫初からうけつがれた火のほてりの前には
母や 祖母や またその母たちがいつも居た
その人たちは
どれほどの愛や誠実の分量を
これらの器物にそそぎ入れたことだろう
ある時はそれが赤いにんじんだったり
くろい昆布だったり
たたきつぶされた魚だったり
台所では
いつも正確に朝昼晩への用意がなされ
用意の前にはいつも幾たりかの
あたたかい膝や手が並んでいた
ああその並ぶべきいくたりかの人がなくて
どうして女がいそいそと炊事など
繰り返せたろう?
それはたゆみないいつくしみ
無意識なまでに日常化した奉仕の姿
炊事が奇しくも分けられた
不幸なこととは思われない
そのために知識や 世間での地位が
たちおくれたとしても
おそくはない
私たちの前にあるものは
鍋とお釜と 燃える火と
それらなつかしい器物の前で
お芋や 肉を料理するように
深い思いをこめて
政治や経済や文学も勉強しよう
それはおごりや栄達のためでなく
全部が
人間のために供せられるように
全部が愛情の対象あって励むように
要するに、ははは食いしん坊。
よく鍋をこがす おっちょこちょいの。