コスラエ州ごみ処分場の濱崎SVです。
コスラエのごみ処分場に新たな動きが出てきました。
ここでは、月曜から金曜日の午前8時から午後3時までは入退場の監視を行っています。このため平日の就業時間外及び土、日曜日の休日は職員が休業となり管理不在の状態です。現在入退場門がないため、この就業時間外では場内への出入りが勝手に出来ました。
就業時間外でのごみの無分別投棄は従来も発生していましたが、翌日(または翌々日)の就業時に担当者がその後始末をして辛うじて凌いでいました。ところが2010年1月20日(水)の夜間に発生した大量の無分別投棄は、後始末の限界を超え、現地職員達の呻きが挙がったのです。「アッタマ(頭)に来た!」ということです。この事件がトリガーとなり彼等の変革が精力的に始まりました。
その内容は以下の四つです。
1)平日の監視時間変更などの制度改正
2)分別案内板の取り換え
3)入退場ストッパーの新設
4)ラジオでの啓蒙活動
以下それぞれについて紹介します。
1)平日の監視時間変更などの制度改正
平日の監視時間の延長(午後3時から6時まで3時間延長する)と休日の土曜日に新たに監視員を充てることです。(敬虔なクリスチャンが多いこの島では、日曜日は島全体が安息日になり、ごみ処分場に来る人はいませんので、日曜日については監視員は不要です。)
条例の改正に加え、監視者の新規採用、給与の手当てなど新たな課題が発生しますが、この制度改正をスピーディに決めたことは途上国では極めて珍しいと思われます。
就業時間変更に伴う条例の改正、給与手当の新設とその財源、などなど通常は、改正の提案、議会承認、州知事の承認、条例の公布などの手順を経ると思われます。そして数カ月後やっとスタートするのでしょうが(または廃案)、何と二か月後にはスタートしました。
2)分別案内板の取り換え
案内板は従来からありましたが、古ぼけて、よれよれの状態でした。
そのことが赴任時から気がかりで、入れ替え(または修復)の提案をしていましたが、彼等が変える気にならなければ本物にはならないとも思い、強く主張せず、彼らが動く機会をじっと待っていました。
それがこのタイミングに「案内板を替える!」と彼らが言い出したのです。
正に「待っていました!」のチャンス到来でした。
生憎、彼らには取り換え工事全体の資金調達が出来ず、JICAでの一部負担をお願いする必要となりました。JICAに相談した結果即OKがでました。JICA負担分は板、ペンキ、スプレー等の機材関係で比較的少額ではありましたが、彼等にとっては、自らの発案物件が実行に移せる、正に有効で貴重な資金だったのです。JICAの素早い反応に感謝しています。
案内板の字句の議論が始まりました。
今まではコスラエ語、英語の折衷でしたが、議論の結果はコスラエ語を主体とする考え方になりました。
ごみを捨てに来る人はコスラエ人が大半で、英語が公用語とは言え、中には英語を理解できない人がいるというのがその理由です。
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<従来の案内板です。コスラエ語と英語の折衷案内です>
<出来上がった案内板の一つです。上の写真と同じ場所で、同じ意味+αの案内板です。この案内版は全てコスラエ語です>
NOという表現もコスラエには不似合いだと彼らは言いました。
日本流には「--するべからず(NO)」が当り前ですが、コスラエでは「--協力ください、ありがとうございます」の文化だというのが彼らの主張で、NOの表現を避けることになりました。
<従来の案内板です。英語が主体でかつNOが全面に出ています>
表現方法も「単語の羅列」ではなく「協力依頼のお願い文章表現」に変えることになりました。
大きさも従来の4倍(縦122.5cm、横245cm)もする大きなものも取りそろえ、来場者に文字がはっきりわかる大きさにすることとしました。
文章は何度も局長と打ち合わせを重ね、練り上げてゆきました。
(生憎コスラエ語が理解できなかったのですが、カウンタパートが準備した文章の素案は、局長との議論の都度青ペンでぐしゃぐしゃに修正させられていました)
文字型版を使った案内板作成の作業開始です。
ペンキ、スプレーで手が赤、青、緑に染まりながらの共同作業です。
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<案内板作りの共同作業です>
<出来上がったでかい案内板です。全てコスラエ語で、文章表現になっています>
出来上がった案内板の文章表現の一部を紹介します。
「この処分場はあなたと私のものです。良い行いをすれば、この処分場はきれいになるでしょう。あなたの協力に感謝します」
この作業を通じて、物に対する考え方などお互いの違いを強く感じました。
3)入退場ストッパーの新設
現在入退場門がないため、就業時間外になっても入場可能で結構多くの人が処分場に来ます。
入退場門のことを私は「(gate)ゲート」と言いましたが、彼等は「違う、ゲートじゃない!それは(stopper)ストッパーだよ」と言って譲りません。侵入を止める意味では同じことだよと言っても彼等は違うというのです。「???」。
デザインをスケッチしてもらって初めてその違いが理解できました。
ゲートは通常鉄の格子で出来ており、使用しない時は施錠するため開閉できなくなり、基本的には入場を許さないものです。
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<ゲートです。いったん閉めて施錠すると中へは入れません>
これに対しストッパーは一時的に入場を停止するものの、入場者の操作による開閉が自由なため、基本的には入場を許すものです。
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<ストッパーです。閉める時は一方の端をひもでくくります。自分で開閉できます>
ゲートの場合は侵入が拒否された状態ですから、ごみを捨てるためにわざわざ来た人にとっては、持ち帰るか、ゲートの前で投棄するかのどちらかを選択しなければなりません。コスラエ人は持ち帰ることをせず、必ずこのゲートの前に捨てると彼らは主張します。
これに対し、ストッパーは入場可能ですから所定の所への投棄が可能となります。
問題が発生したのは所定の所へ分別しなく、大量に投棄したためのことであり、入退場門の問題ではない、ストッパーの処に「分別お願いの案内板」を設置すれば、入場者は必ずこれに目を通すため、その場での教育にも効果があり一石二鳥だということです。
おまけにコスラエにはどの家屋にもゲートはありません。オープンの状態です。
そのコスラエで処分場がゲートを作った!という訳にはいかないと彼等は主張しました。
案内板と同様に「NO」ではなく「WELCOME」の世界だなと改めて思いました。
こういう議論を通じてストッパーの建設が始まりました。
4)ラジオでの啓蒙活動
ごみ処分場にとって最も重要な啓蒙活動は、島民のごみ処分に対して、適切な分別と投棄をするよう理解と協力をもらうことです。そしてこれを繰り返し継続することが重要です。
一過性のキャンペーンではなく長続きするやり方を、コスラエ風に、この土地になじむ方法でやるというのが議論のポイントになりました。
それがラジオを使った「お願い放送」でした。
コスラエで広く利用されているカーラジオ。このメディアに彼等は着目しました。
局長自ら放送用の原稿を書いて「困ったことが起きた。皆さんの分別の協力を是非仰ぎたい」と呼びかけるもので(本人の肉声ではありません。あくまで原稿だけです)、これを二度放送しました。これが放送された後、例の無分別大量投棄はピシャリと止みました。
これで全てがうまくいったかというとそうではありません。
分別もまだ思うようになされていません。
コスラエは人口約8000人の狭い島です。
役職名が付いた責任ある人(ここでは局長)が島民に対し直接訴えるやり方は、いい方法かもわかりません。放送代は無料ですし、有料TVよりラジオが多く普及していると思われるこの島では、原稿を書く知恵と労力さえ惜しまなければこの方法は持続可能で有効な方法です。
環境問題の啓蒙のむつかしさの一つは、無関心者に対する啓蒙がキーであることです。
いかに多くの無関心者を集められるかがキーとなるにもかかわらず、実際のキャンペーンでは、キャンペーンの理解者、協力者ばかりが集まり、肝腎の無関心者を動員できないところにあります。私は、このいやな経験をいく度か味わって来ました。
その意味では、ラジオでの放送は、関心者、無関心者に係らず、知らず知らずの内に、本人の承諾なしに耳に勝手に入っていきますから、有効な手段の一つかと思われます。これが完全な方法ではないかもわかりませんが、有効な一手段にはまちがいありません。このメディアでの効果を観測しながら今後いろいろな提案をしていきたいと思っています。
<コスラエで広く利用されているカーラジオ。このメディアに彼等は着目しました>
コスラエのごみ処分場に新たな動きが出てきました。
ここでは、月曜から金曜日の午前8時から午後3時までは入退場の監視を行っています。このため平日の就業時間外及び土、日曜日の休日は職員が休業となり管理不在の状態です。現在入退場門がないため、この就業時間外では場内への出入りが勝手に出来ました。
就業時間外でのごみの無分別投棄は従来も発生していましたが、翌日(または翌々日)の就業時に担当者がその後始末をして辛うじて凌いでいました。ところが2010年1月20日(水)の夜間に発生した大量の無分別投棄は、後始末の限界を超え、現地職員達の呻きが挙がったのです。「アッタマ(頭)に来た!」ということです。この事件がトリガーとなり彼等の変革が精力的に始まりました。
その内容は以下の四つです。
1)平日の監視時間変更などの制度改正
2)分別案内板の取り換え
3)入退場ストッパーの新設
4)ラジオでの啓蒙活動
以下それぞれについて紹介します。
1)平日の監視時間変更などの制度改正
平日の監視時間の延長(午後3時から6時まで3時間延長する)と休日の土曜日に新たに監視員を充てることです。(敬虔なクリスチャンが多いこの島では、日曜日は島全体が安息日になり、ごみ処分場に来る人はいませんので、日曜日については監視員は不要です。)
条例の改正に加え、監視者の新規採用、給与の手当てなど新たな課題が発生しますが、この制度改正をスピーディに決めたことは途上国では極めて珍しいと思われます。
就業時間変更に伴う条例の改正、給与手当の新設とその財源、などなど通常は、改正の提案、議会承認、州知事の承認、条例の公布などの手順を経ると思われます。そして数カ月後やっとスタートするのでしょうが(または廃案)、何と二か月後にはスタートしました。
2)分別案内板の取り換え
案内板は従来からありましたが、古ぼけて、よれよれの状態でした。
そのことが赴任時から気がかりで、入れ替え(または修復)の提案をしていましたが、彼等が変える気にならなければ本物にはならないとも思い、強く主張せず、彼らが動く機会をじっと待っていました。
それがこのタイミングに「案内板を替える!」と彼らが言い出したのです。
正に「待っていました!」のチャンス到来でした。
生憎、彼らには取り換え工事全体の資金調達が出来ず、JICAでの一部負担をお願いする必要となりました。JICAに相談した結果即OKがでました。JICA負担分は板、ペンキ、スプレー等の機材関係で比較的少額ではありましたが、彼等にとっては、自らの発案物件が実行に移せる、正に有効で貴重な資金だったのです。JICAの素早い反応に感謝しています。
案内板の字句の議論が始まりました。
今まではコスラエ語、英語の折衷でしたが、議論の結果はコスラエ語を主体とする考え方になりました。
ごみを捨てに来る人はコスラエ人が大半で、英語が公用語とは言え、中には英語を理解できない人がいるというのがその理由です。
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<従来の案内板です。コスラエ語と英語の折衷案内です>
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<出来上がった案内板の一つです。上の写真と同じ場所で、同じ意味+αの案内板です。この案内版は全てコスラエ語です>
NOという表現もコスラエには不似合いだと彼らは言いました。
日本流には「--するべからず(NO)」が当り前ですが、コスラエでは「--協力ください、ありがとうございます」の文化だというのが彼らの主張で、NOの表現を避けることになりました。
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<従来の案内板です。英語が主体でかつNOが全面に出ています>
表現方法も「単語の羅列」ではなく「協力依頼のお願い文章表現」に変えることになりました。
大きさも従来の4倍(縦122.5cm、横245cm)もする大きなものも取りそろえ、来場者に文字がはっきりわかる大きさにすることとしました。
文章は何度も局長と打ち合わせを重ね、練り上げてゆきました。
(生憎コスラエ語が理解できなかったのですが、カウンタパートが準備した文章の素案は、局長との議論の都度青ペンでぐしゃぐしゃに修正させられていました)
文字型版を使った案内板作成の作業開始です。
ペンキ、スプレーで手が赤、青、緑に染まりながらの共同作業です。
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<案内板作りの共同作業です>
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<出来上がったでかい案内板です。全てコスラエ語で、文章表現になっています>
出来上がった案内板の文章表現の一部を紹介します。
「この処分場はあなたと私のものです。良い行いをすれば、この処分場はきれいになるでしょう。あなたの協力に感謝します」
この作業を通じて、物に対する考え方などお互いの違いを強く感じました。
3)入退場ストッパーの新設
現在入退場門がないため、就業時間外になっても入場可能で結構多くの人が処分場に来ます。
入退場門のことを私は「(gate)ゲート」と言いましたが、彼等は「違う、ゲートじゃない!それは(stopper)ストッパーだよ」と言って譲りません。侵入を止める意味では同じことだよと言っても彼等は違うというのです。「???」。
デザインをスケッチしてもらって初めてその違いが理解できました。
ゲートは通常鉄の格子で出来ており、使用しない時は施錠するため開閉できなくなり、基本的には入場を許さないものです。
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<ゲートです。いったん閉めて施錠すると中へは入れません>
これに対しストッパーは一時的に入場を停止するものの、入場者の操作による開閉が自由なため、基本的には入場を許すものです。
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<ストッパーです。閉める時は一方の端をひもでくくります。自分で開閉できます>
ゲートの場合は侵入が拒否された状態ですから、ごみを捨てるためにわざわざ来た人にとっては、持ち帰るか、ゲートの前で投棄するかのどちらかを選択しなければなりません。コスラエ人は持ち帰ることをせず、必ずこのゲートの前に捨てると彼らは主張します。
これに対し、ストッパーは入場可能ですから所定の所への投棄が可能となります。
問題が発生したのは所定の所へ分別しなく、大量に投棄したためのことであり、入退場門の問題ではない、ストッパーの処に「分別お願いの案内板」を設置すれば、入場者は必ずこれに目を通すため、その場での教育にも効果があり一石二鳥だということです。
おまけにコスラエにはどの家屋にもゲートはありません。オープンの状態です。
そのコスラエで処分場がゲートを作った!という訳にはいかないと彼等は主張しました。
案内板と同様に「NO」ではなく「WELCOME」の世界だなと改めて思いました。
こういう議論を通じてストッパーの建設が始まりました。
4)ラジオでの啓蒙活動
ごみ処分場にとって最も重要な啓蒙活動は、島民のごみ処分に対して、適切な分別と投棄をするよう理解と協力をもらうことです。そしてこれを繰り返し継続することが重要です。
一過性のキャンペーンではなく長続きするやり方を、コスラエ風に、この土地になじむ方法でやるというのが議論のポイントになりました。
それがラジオを使った「お願い放送」でした。
コスラエで広く利用されているカーラジオ。このメディアに彼等は着目しました。
局長自ら放送用の原稿を書いて「困ったことが起きた。皆さんの分別の協力を是非仰ぎたい」と呼びかけるもので(本人の肉声ではありません。あくまで原稿だけです)、これを二度放送しました。これが放送された後、例の無分別大量投棄はピシャリと止みました。
これで全てがうまくいったかというとそうではありません。
分別もまだ思うようになされていません。
コスラエは人口約8000人の狭い島です。
役職名が付いた責任ある人(ここでは局長)が島民に対し直接訴えるやり方は、いい方法かもわかりません。放送代は無料ですし、有料TVよりラジオが多く普及していると思われるこの島では、原稿を書く知恵と労力さえ惜しまなければこの方法は持続可能で有効な方法です。
環境問題の啓蒙のむつかしさの一つは、無関心者に対する啓蒙がキーであることです。
いかに多くの無関心者を集められるかがキーとなるにもかかわらず、実際のキャンペーンでは、キャンペーンの理解者、協力者ばかりが集まり、肝腎の無関心者を動員できないところにあります。私は、このいやな経験をいく度か味わって来ました。
その意味では、ラジオでの放送は、関心者、無関心者に係らず、知らず知らずの内に、本人の承諾なしに耳に勝手に入っていきますから、有効な手段の一つかと思われます。これが完全な方法ではないかもわかりませんが、有効な一手段にはまちがいありません。このメディアでの効果を観測しながら今後いろいろな提案をしていきたいと思っています。
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<コスラエで広く利用されているカーラジオ。このメディアに彼等は着目しました>
素晴らしいことですね。
押し付けだと、なかなか現地の人は動いてくれず、こっちばっかりいらいらしてしまいますが、彼ら自身が必要だと思って動くことは、けっこう素早く動くものなのですね。
こうやって、ブログを通して、同じ国の遠く離れた違う州で他のボランティアの活動状況が分かって、励みになるし勉強にもなります。
昨年末の環境分野関係者会議でも話に出たように、廃棄物対策に関しては、ミクロネシア4州の中でもコスラエ州が一番進んでいるように思えます。
今後、日本の支援で発展しつつあるコスラエ州の廃棄物対策がモデルとなり、コスラエ州での成功例・失敗例が他州の廃棄物対策において随所に活かされていければいいのかなと思います。
ゴミ収集のほうはどうなったのかなど、気になるところもあります。
今後のブログの更新も楽しみにしています。