徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:下村敦史著、『真実の檻』(角川文庫)

2019年01月07日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『真実の檻』(2016、文庫は2018年発行)は冤罪をテーマにしたミステリーです。大学生の石黒洋平は母の遺品を整理中、本当の父親・赤嶺信勝が「赤嶺事件」と呼ばれる殺人事件を犯した死刑囚であることを知ります。事件について調べるうち、冤罪の可能性を指摘する雑誌〈社会の風〉の記事を見つけ、担当記者の夏木涼子に会いに行き、彼女を通して「赤嶺事件」の関係者や他の冤罪事件に関わって行きます。洋平の実の父親は無罪なのか、もしそうなら真犯人は誰なのか。当時のつじつまの合わない「証拠」を調べる一方で、死刑が執行される前に再審請求するよう赤嶺信勝を説得するという時間との戦い。

無罪判決が検察官の失点と評価される日本の制度の問題点に切り込み、冤罪が発生するメカニズムを明らかにします。テーマはヘビーですが、ストーリー展開がテンポよく進み、読者をぐいぐい引っ張っていく筆致が素晴らしいです。また、葛藤の末に誰かの犠牲の上に成り立つような平穏な生活ではなく、真相を究明することを選択する主人公の真摯さが感動的です。

参考文献の数は『闇に香る嘘』に負けず劣らず大量です。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

書評:下村敦史著、『闇に香る嘘』(講談社文庫)~第60回江戸川乱歩賞受賞作


書評:奥田英朗著、『ナオミとカナコ』(幻冬舎文庫)

2019年01月07日 | 書評ー小説:作者ア行

ナオミとカナコ』(2017)は奥田英朗の作品としては珍しいサスペンスドラマです。望まない職場で憂鬱な日々を送るOLの直美は、あるとき、親友の加奈子が夫・達郎から酷い暴力を受けていることを知り、その顔にドス黒い痣を見て義憤に駆られ、達郎を排除する完全犯罪を夢想し始めます。「ナオミ」の章では、完全犯罪の計画と実行までが描かれ、「カナコ」の章でその後の展開が描かれます。彼女たちが考えた【完全犯罪】は、実は穴だらけで、後半大分追い詰められていきます。彼女らが逃げ切れるかどうかハラハラしながら一気に読めます。

DV夫から解放されるには、別居や離婚では往々にして十分とは言えず、シェルターに逃げ込んだりしてもいつか見つかってしまうのではないかと不安を抱えながら生きなけらばならないことがあります。だからいっそのこと二度と追いかけてこれないように夫を排除してしまおうとする発想はよく理解できます。しかしそれを本当に実行に移すとなると大ごとです。その大ごとを果たした彼女たちの堅い友情に畏敬の念を持つと同時に、最初から海外逃亡してもよかったのではないかと思わなくもないです。

購入はこちら

書評:奥田英朗著、『イン・ザ・プール』(文春文庫)

書評:奥田英朗著、『空中ブランコ』(文春文庫)~第131回直木賞受賞作品

書評:奥田英朗著、『町長選挙』(文春文庫)

書評:奥田英朗著、『沈黙の町で』(朝日文庫)

書評:奥田英朗著、『ララピポ』(幻冬舎文庫)

書評:奥田英朗著、『ヴァラエティ』(講談社)

書評:奥田英朗著、『ガール』(講談社文庫)

書評:奥田英朗著、『マドンナ』(講談社文庫)

書評:奥田英朗著、『ウランバーナの森』(講談社文庫)


書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

2019年01月07日 | 書評ー小説:作者ア行

八月は冷たい城』(2018)は、夏流城(かなしろ)で4人の少年が緑色感冒に侵された肉親の死と向き合うために「林間学校」に参加します。主人公光彦(てるひこ)、二年ぶりに再会した幼馴染みの卓也、大柄でおっとりと話す耕介、そして唯一かつて城を訪れたことがある勝ち気な幸正(ゆきまさ)を迎えに来た【夏の人】または【みどりおとこ】。

子どもたちは緑色感冒にかかった親に会うことは許されないが、死を間近に控えた患者はわが子を見ることができるようになっています。その体面が可能になるように、鐘が3度鳴ると子どもたちはお地蔵様の前に行くよう指示されます。

一度城に入ると、参加者の肉親が全員死亡するまで出られないことになっている中、彼らの命を狙っている何者かがいる気配があり、不安にさいなまされながら、光彦は【みどりおとこ】の正体やこの「林間学校」の意味について考え、幼馴染で女子部の方に参加している蘇芳と壁越しに議論します。はたして彼らは無事に城から出てくることができるのか?

奇妙な設定のサスペンスミステリーで、描写される子どもたちの会話や行動は青春ドラマのようですが、みんなが肉親の死に直面しているのでかなりヘビーです。それぞれがどのように親の死と向き合うかが問われています。【みどりおとこ】の正体に関してはホラーで、グロテスクですね。このため読後感はいまいちでした。

購入はこちら

三月・理瀬シリーズ

書評:恩田陸著、『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『黒と茶の幻想』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『黄昏の百合の骨』(講談社文庫)

関根家シリーズ

書評:恩田陸著、『Puzzle』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『六番目の小夜子』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『象と耳鳴り』(祥伝社文庫)

神原恵弥シリーズ

書評:恩田陸著、『Maze』&『クレオパトラの夢』(双葉文庫)

書評:恩田陸著、『ブラック・ベルベット』(双葉社)

連作

書評:恩田陸著、常野物語3部作『光の帝国』、『蒲公英草紙』、『エンド・ゲーム』(集英社e文庫)

書評:恩田陸著、『夜の底は柔らかな幻』上下 & 『終りなき夜に生れつく』(文春e-book)

学園もの

書評:恩田陸著、『ネバーランド』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『夜のピクニック』(新潮文庫)~第26回吉川英治文学新人賞受賞作品

書評:恩田陸著、『雪月花黙示録』(角川文庫)

劇脚本風・演劇関連

書評:恩田陸著、『チョコレートコスモス』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『中庭の出来事』(新潮文庫)~第20回山本周五郎賞受賞作品

書評:恩田陸著、『木曜組曲』(徳間文庫)

書評:恩田陸著、『EPITAPH東京』(朝日文庫)

短編集

書評:恩田陸著、『図書室の海』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『朝日のようにさわやかに』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『私と踊って』(新潮文庫)

その他の小説

書評:恩田陸著、『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎単行本)~第156回直木賞受賞作品

書評:恩田陸著、『錆びた太陽』(朝日新聞出版)

書評:恩田陸著、『まひるの月を追いかけて』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『ドミノ』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『上と外』上・下巻(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『きのうの世界』上・下巻(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『ネクロポリス』上・下巻(朝日文庫)

書評:恩田陸著、『劫尽童女』(光文社文庫)

書評:恩田陸著、『私の家では何も起こらない』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『ユージニア』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『不安な童話』(祥伝社文庫)

書評:恩田陸著、『ライオンハート』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『蛇行する川のほとり』(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ネジの回転 FEBRUARY MOMENT』上・下(集英社文庫)

書評:恩田陸著、『ブラザー・サン シスター・ムーン』(河出書房新社)

書評:恩田陸著、『球形の季節』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

書評:恩田陸著、『月の裏側』(幻冬舎文庫)

書評:恩田陸著、『夢違』(角川文庫)

書評:恩田陸著、『七月に流れる花』(講談社タイガ)

書評:恩田陸著、『八月は冷たい城』(講談社タイガ)

エッセイ

書評:恩田陸著、『酩酊混乱紀行 『恐怖の報酬』日記』(講談社文庫)

書評:恩田陸著、『小説以外』(新潮文庫)

書評:恩田陸著、『隅の風景』(新潮文庫)


書評:今野敏著、『同期』(講談社文庫)

2019年01月07日 | 書評ー小説:作者カ行

同期シリーズ第1弾の『同期』(2009年、文庫は2012年発行)では主人公、警視庁捜査一課の宇田川が、暴力団のガサ入れ現場から何かを持ち出して逃げた組員を負う途中で発砲されるも、偶然同期で公安に属する蘇我に救われます。しかし、蘇我はその数日後に謎の懲戒処分となり、行方不明となります。宇田川は蘇我の懲戒処分の理由や行方を追おうとしますが、不可解なほどに何もわからず、「ゼロ」と呼ばれる公安のエリート部署から圧力がかかります。

一方2件の殺人事件は暴力団同士の抗争として捜査されることになり、捜査本部は組対4課主導で運営されますが、宇田川を始めとする数少ない刑事らはその捜査方針に疑問を抱きます。組織の壁に抗い、真相を究明し、友を救おうとする刑事の闘いを描いたストーリー。公安部の特殊性に関する描写やCIAとのかかわりなど、ちょっとスパイ小説みたいな要素があり、純粋な警察小説とは一味違った面白さがあります。

また、最初どちらかというと事なかれ主義の宇田川が先輩刑事からいろいろ学び、本気を出して捜査し、同期を救い、刑事としての自覚を新たにする成長物語としての側面もあり、ドラマ性・エンタメ性が高く、ストーリー展開のテンポがよく、あっという間に読破できました。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『イコン 新装版』講談社文庫

書評:今野敏著、『隠蔽捜査』(新潮文庫)~第27回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:今野敏著、『果断―隠蔽捜査2―』(新潮文庫)~第61回日本推理作家協会賞+第21回山本周五郎賞受賞

書評:今野敏著、『疑心―隠蔽捜査3―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『初陣―隠蔽捜査3.5―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『転迷(隠蔽捜査4)』、『宰領(隠蔽捜査5)』、『自覚(隠蔽捜査5.5)』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『去就―隠蔽捜査6―』&『棲月―隠蔽捜査7―』(新潮文庫)

書評:今野敏著、『廉恥』&『回帰』警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ(幻冬舎文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 エピソード1<新装版>』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 毒物殺人<新装版>』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 黒いモスクワ』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 青の調査ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 赤の調査ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 黄の調査ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 緑の調査ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 黒の調査ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 為朝伝説殺人ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 桃太郎伝説殺人ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 沖ノ島伝説殺人ファイル』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 プロフェッション』(講談社文庫)

書評:今野敏著、『ST 警視庁科学特捜班 エピソード0 化合』(講談社文庫)