徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:島田荘司著、『犬坊里見の冒険』(光文社文庫)

2019年01月13日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『犬坊里見の冒険』(2006、文庫は2009年発行)は御手洗潔シリーズ第24弾で、タイトルの通り犬坊里見が主人公で、『龍臥亭幻想』のすぐ後、里見が弁護士としての修習で関わる事件が描かれます。衆人環視の総社神道宮の境内に、忽然と現れて消えた一体の腐乱死体。容疑者として逮捕・起訴されたホームレスの冤罪を晴らすために里見が奮闘するのですが、司法試験に受かったにしては里見の無知さが際立ち、彼女の劣等感や恐怖などリアルと言えばリアルなのかもしれませんが、かなりイラつきます。

この龍臥亭三部作は御手洗潔シリーズというより、石岡和己シリーズと言った方がよく、御手洗の天才的な推理とは無縁の作品群です。里見が苦労して行き着く推理は前作2作の石岡よりはさえているとは思いますが、御手洗潔の対極にある凡才の勇気を讃えるようなストーリー展開をじれったく感じずにはいられません。日頃自分の無能さに悩み劣等感を抱いて落ち込んでるような人たちにはもしかしたら励みになるのかもしれませんけど、正直私の好みではありません。使われたトリック自体は面白いと思いますが。

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2019年01月13日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

御手洗潔シリーズ第20作の『龍臥亭幻想 上・下』(2004、文庫は2007年発行)は『龍臥亭事件』から8年後に関係者がまた龍臥亭に集まり、雪に閉ざされた中、奇妙な事件に巻き込まれるというストーリーです。『龍臥亭事件』同様、御手洗潔の出番はほとんどなく、ウプサラから電話で短く石岡和己の質問に答える程度です。

犬坊里見が龍臥亭に帰省する途中で雪の中行き倒れになったホームレスの「ナバやん」を見つけ、法仙寺にその死体を運び込むことから事件が始まります。その3か月前に衆人環視の神社から、神隠しのように消えた巫女・大瀬真理子の謎を解けないか、彼女の彼氏だという黒住が石岡に相談します。龍臥亭や法仙寺のさらに山の上にある神社の神主である菊川には黒い噂があり、いなくなった真理子にも金を貸し、体の関係を迫っていた疑いがあったため、石岡たちが現場検証と事情聴取を兼ねて神社へ行くと、地震があり、地割れを起こした神社の駐車場の隙間に大瀬真理子と思われる死体が発見されます。大雪の上に地震が起きたことで雪崩が起き、県警が現場に駆け付けるには少なくとも1日以上かかるような状況のため、現場の写真を撮ってから真理子の死体を引き上げて法仙寺に安置します。

下巻は龍臥亭にお手伝いに来ていた櫂という女性が雪の中自宅の様子を見に行くと言って出て行ったまま連絡が取れなくなったため、彼女の様子を見に石岡たちが出て行きますが、彼女の家は雪で倒壊しており、彼女が持って出た龍臥亭のスコップはそこで見つかったものの、彼女自身はどこにも見つかりませんでした。翌朝、法仙寺に安置されていたはずのナバやんの死体が頭部と足が切断された状態で龍臥亭前で発見されます。死体に着せられていた服のポケットから、その死体を森孝の具足のうちに葬らないと災いが起こると書かれた和紙が見つかります。貝繁村に伝わる「森孝魔王」の伝説になぞらえて何者かが何事かを起こそうとしているらしいのですが、雪に閉ざされて応援を呼べない状況の中、ひと先ずその要求の通りにすることにします。森孝の具足(鎧兜)は法仙寺に供養のために保管されており、死体を整えるための地下室の隣にあったため、その作業はさして難しいことでもなかったのです。その後法仙寺の日照和尚が殺され、頭と足が発見され、その頭と足をまた森孝の具足に入れるように要求する紙が見つかります。女子供の安全が脅かされていたため、石岡たちは要求通りの死体処理をしますが、その行き着く先は?

石岡和己は事件の立会いと当事者として多少行動の方針を決め、黒住が菊川神職に復習をすることを阻止するなどで貢献しますが、謎解きには一切貢献していません。御手洗が与えたヒントで大瀬真理子消失の謎を解いたのは警視庁の刑事でしたし、「森孝魔王」の伝説になぞらえた事件の真相は犯人の死後に告白文が石岡に届けられることで明らかにされます。因縁深い龍臥亭、因習と迷信に囚われた村社会が現代に生きる貝繁村という舞台に、100年前に龍臥亭の前身となる湯殿を立てた関森孝にまつわる伝説と死体を動かし悪者を成敗するという森孝の鎧に関する信仰が絡み合うストーリ展開と雰囲気は興味深いですが、石岡はもうちょっと頭を使ってもいいのではないかと少々不満が残ります。そうでないなら御手洗潔をもっと出して欲しいみたいな。

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