徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Zの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年01月21日 | 書評ー小説:作者カ行

エラリイ・クイーンの悲劇シリーズ第3作『Zの悲劇』(1933)は『Yの悲劇』から10年後の事件がサム警視の娘にして探偵希望のペイシェンス・サムによって語られます。元俳優の老いた聾者探偵ドルリイ・レーンの苦悩や、冤罪による死刑は免れたものの結局救われなかったアーロン・ドウを鑑みれば、これまでの作品の中で最も『悲劇』というタイトルが相応しい作品と言えます。

あらすじ:悪名高い上院議員ジョエル・フォーセットが殺害され、遺品の中からは、いわくありげな3分割された小箱の一つと、出所したばかりの囚人アーロン・ドウからの復讐をにおわす脅迫状が発見された。このため、残された足跡の矛盾があるものの、アーロン・ドウが殺人犯として起訴され終身刑の判決が出る。
ジョエル・フォーセットの兄アイラ・フォーセットは大理石採掘会社の共同経営者となっており、同社の社長エリヒュー・クレーはサム父娘にアイラの契約案件に汚職の影がないか捜査を依頼するが、捜査中に殺人事件が起こったため、殺人事件の方にも関わるようになり、推理が煮詰まったところでドルリイ・レーンに協力を求めるが、同の有罪判決は覆せなかった。
間もなくアイラ・フォーセットもドウから3分割された小箱の一つと脅迫状を受取り、ドウが脱走した日に殺害された。ドウは「殺しはしていない」と言い張るが、真実はどうなのか。3分割された木の箱の残りの1つは誰に宛てられたのか。ドウの握っているフォーセット兄弟(ともう一人)の弱みとは何か?真犯人は誰で、動機は何か?

第2の殺人でも有罪・死刑判決を受けてしまったアーロン・ドウの死刑が実行される直前に、ドルリイ・レーンが元地方検事のブルーノ知事に死刑を取り止めさせ、真犯人を消去法で明らかにしていく様子はドラマチックです。なのに救おうとしていたドウが心臓麻痺で死んでしまうのは、やるせないエンディングです。


書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Xの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

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書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Zの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

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