徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:ガストン・ルルー著(監訳・高野優、訳・竹若理衣)、『黄色い部屋の秘密〔新訳版〕』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

2019年01月15日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

海外ミステリーの古典中の古典にして密室ものの先駆けと言われるルルーの『黄色い部屋の秘密』(原題:Le Mystère de la chambre jaune、1907)を読んでみました。中井英夫の『虚無への供物』を始めとする様々な推理小説で言及されている作品なのでずっと気になっていたのですが、これは文句なしに面白かったです。文藝春秋の『東西ミステリーベスト100』(2012)の海外編には第28位にランクインされています。1985年版の16位から転落してますが、上位作品ではアガサ・クリスティーとウンベルト・エーコしか知らない私には理由は分かりません。クリスティ作品と遜色ない面白さだと思うのですが。

あらすじ:1892年10月24日、パリ郊外、エピネー・シュル・オルジュ近郊、サント・ジュニュヴィエーヴの森の中にあるグランディエ城の離れで、スタンガーソン博士の令嬢マチルドが襲われる事件が発生。令嬢は真夜中に博士が実験室で仕事中に、その隣の「黄色い部屋」で就寝中に襲われた模様だが、令嬢の寝室から助けを求める悲鳴と銃声が響き、博士、老僕、門番夫妻らがただ一つの扉を打ち破って部屋に入ると、令嬢は昏倒し、部屋は荒らされ、黄色の壁紙には大きな血染めの手形が残されていた。窓は外壁にあるため鉄格子がはまっており、しかも閉まっていたので、部屋は完全な密室だった。捜査のためにパリの警視総監は有名なフレデリック・ラルサン刑事をロンドンから呼び戻して現場へ派遣した。一方18歳の若き新聞記者ジョゼフ・ルールタビーユも友人の弁護士サンクレールを伴って現地に向かい、サンクレールが被害者の婚約者であるロベール・ダルザックと知り合いであることを利用し、独自に捜査できるように段取りをする。ラルサン刑事はダルザックを犯人と見なすが、ルールタビーユは彼の無罪を主張し、真っ向から対立することになる。マチルドとダルザックは犯人を知っているようだが、マチルドが秘密を握られているらしく、その秘密が暴露されるくらいならば殺されるのも厭わないほど固く口を閉ざしていた。

そんな中、一命をとりとめたマチルド嬢がグランディエ城館で使用していた寝室に再び犯人が忍び込み、手紙を書いているところをルールタビーユが目撃し、彼を捕まえようと老僕・ジャック爺さん、スタンガーソン博士、ラルサン刑事に協力を仰いで廊下で追い詰めようとするも、三方の衝突地点で犯人は忽然と消えた!?

そして第三の襲撃の際には城館と城壁の袋小路に犯人を追い詰めて銃殺したはずなのに、そこに倒れていたのはナイフで刺された森番だった!?

とまあ、最初の密室殺人未遂ばかりでなく、次々と謎の出来事が起こるので、ワクワクします。それでいて殺されるのは無関係の森番のみで、狙われていた令嬢は無事に生き残るというのも面白いですね。そして令嬢の秘密を守るため、ルールタビーユが犯人をわざと逃がし、ダルザックの裁判で「犯人を捕まえて有罪にするのは警察や裁判官の仕事であって新聞記者の仕事ではない」というようなことをぶちまけるのも粋です。

この作品の中でたびたび言及されているマチルド嬢の付けている香水【黒い貴婦人の香水】がタイトルとなった続編があるのですが、 石川湧訳の『黒衣夫人の香り』は古本屋でしか手に入らないようです。原文はフランス語で読めないので、英語版かドイツ語版の電子書籍がないか探そうかと思ってます。『黄色い部屋の秘密』のように新訳版が出たらいいのですけど。