徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:島田荘司著、『最後のディナー』(文春文庫)

2019年01月26日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

御手洗潔シリーズの13冊目『最後のディナー』(1999、文庫は2012年発行)は、『龍臥亭事件』後の石岡和己と犬坊里見のエピソード「里見上京」、「大根奇聞」、「最後のディナー」の3篇を収録した短編集です。

「里見上京」はタイトルの通り犬坊里見が横浜にある女子大に転学し、石岡に会いに来た時の彼の気持ちの動きなどが綴られたもので、事件性は彼の内面を除けば一切ありません。気欝な中年男がトラウマを若い女性との(友人としての)付き合いで克服できる希望を見出した、みたいな話です。『龍臥亭事件』のスピンオフというかサイドストーリー的な位置付けですね。

「大根奇聞」は里見の大学の教授が石岡のところに持ち込んできた桜島大根に関する日本史というか薩摩郷土史上の謎についての話で、桜島が噴火してすべての作物が全滅した中、桜島大根だけは火山灰で巨大に育ち、民が飢え死にしていく中、「ご禁制」とされ、大根を盗む者は死罪とされていた中で一人の老婆が旅の僧侶とその連れ子を死なせないために大根を盗んで食べさせたが、彼女はどうやら死罪にならなかったらしく、それはなぜだったのかという謎です。この謎は御手洗潔が素早く説いてしまいますが、「なんとまあ!」と驚嘆に値するいいお話です。

ちなみにこれはとある民話に着想を得たフィクションとのことで、薩摩藩にそのような飢饉はなかったとのことですが。

「最後のディナー」は里見に強く誘われて英会話教室に通うようになった石岡が同じ(低レベル)クラスの老人と親しくなり、その老人が横浜を離れることにしたので、記念に石岡と里見をディナーに招待するというエピソードです。後日この老人は殺害されてしまい、石岡和己に電話で事情を聴いた御手洗潔が瞬く間に推理を働かせて捜査の方向性を示唆して、その示唆をもとに事件が解決につながるわけですが、この話の主眼は事件解決ではなく、老人の人情と努力が、本人は死んでしまったにせよ少なからず実を結んだというほっこりするお話です。

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