館シリーズの第9弾『奇面館の殺人』(2012、文庫は2015年発行)は、本シリーズの原点に返って、島田潔こと推理作家の鹿谷門実が探偵として活躍する本格ミステリーで、ファンとして納得できる作品です。
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あらすじ:舞台は1993年4月、東京都の山奥に建つ中村青司の館の一つである奇面館で、その名前から想像できるように故主人・影山透一の仮面のコレクションがあった。現主人の影山逸史はそこで奇妙な会合を3年前から開いており、その年鹿谷門実の同業者で顔立ちがそっくりの日向京介をその会合に招待するが、日向は急な病気のため、急遽鹿谷門実に代役を頼む。参加すれば謝礼金二百万円がもらえるという話なので、駆け出しの日向はそのお金をあきらめきれなかったのだ。鹿谷門実はその館が家の中村青司の手によるものだと知って、このなりすましに同意する。
奇面館では主人を始めとして客は全員仮面を被り、同じ服、同じスリッパを身につけることになっていた。使用人たちも仮面をつけていた。季節外れの吹雪のため、彼らは「吹雪の山荘」そのままにその館に閉じ込められてしまう。翌朝、影山逸史と思われる死体が壁一面に仮面がある「奇面の間」発見された。首なしだったため、誰の死体なのか確信をもって言うことができなかったのだ。指もすべて切り取られていた。
そして客たちは寝ている間に仮面を被せられ、しかも施錠されていたため、脱ぐことができない状態だった。
電話が壊され、しかもまだ吹雪いていたため警察に連絡することが叶わない中、鹿谷門実は捜査を始める。その行動が怪しまれたので、自分の正体を明かすところで前編が終わっています。
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後編では地道な探索や証言を集めて時系列作りなどで事件の形が徐々に明らかにされて行きます。中村青司のカラクリや抜け道が今回もふんだんに使われています。こうした手がかりから鹿谷門実が執事役の鬼丸の協力を得て事件を解明し、犯人を突き止める、というオーソドックスなストーリー展開でしたが、すべてが終わって鹿谷門実が日向京介に経緯を説明する際に明かされるあの会合の意味や集められた人たちの共通点が明かされ、本来のミステリーとは違った意味でびっくりさせられました。【あり得ない状況】だったことが最後に明かされるというか。そこに至って、そういえば鹿谷門実以外の客たちのフルネームは明かされていなかったなと思い至る私は鈍いのか...そういう意外性も面白かったです。