メカニック日記

メカニックです。仕事ネタから感じた事思った事など気まぐれに更新していきます…

スーパーグレート…ポンプモジュール修理。

2019-12-06 11:18:00 | ふそう
尿素SCRシステムの基幹部品であるポンプモジュール…
尿素水を吸い上げ加圧してドージングモジュールまで送るための機構です。

今現在、世界中の自動車に搭載されている尿素SCRシステムは全てBOSCHの尿素SCRシステム…
つまり、シェア100%…

初期の頃のシステムはdenoxtronic1なんて言って、コレは尿素SCRシステムを始めて採用したUDのクオンやふそうのスーパーグレートに搭載されています。
見た目はデカイ弁当箱みたいなポンプモジュールなんですが…
この頃のポンプモジュールは尿素水をタンクから吸い上げてドージングモジュールまで圧送し、マフラー内に噴射する時は圧縮エアーを使い噴射しています。
その為、ポンプモジュールには尿素水経路とエアー経路が組み込まれています…
過去にも記事にしましたが、このタイプのポンプモジュールで定番の故障はドライヤーを通り抜けたオイル成分を含んだエアがポンプモジュールに入り込みエアー経路内で酸化劣化する事で経路を閉塞させてしまうトラブルで…(ちなみにコレもエンジンオイルが蒸発する事で起きるトラブル)
尿素水を噴射するためのエア圧が確保出来なくなりチェックランプを点灯させます…


まあこの手のトラブルは少々注意事項はあるもののエアー経路を掃除してやればほとんどのケースで改善されます。

その他のトラブルとしては起こるのはセンサーやアクチュエータのトラブルで、内部のセンサーやアクチュエータ類が機械的な不具合を起こすケース。
実はこれも問題のセンサーやアクチュエータを交換する事により修理する事は可能なんですが…
残念ながらメーカーからはポンプモジュール内部の部品供給がありません。

そのため、ディーラーさんに持ち込めば問答無用でポンプモジュールASSYでの交換となり修理代がとんでもない値段になります…
ちなみに、このdenoxtronic1のポンプモジュールはUDさんの純正新品定価は約56万、ふそうさんのポンプモジュールは約72万となっています。
UDさん内部ではメーカーリビルトがあり値段は知りませんがディーラーにのみリビルト品の供給販売があるようです。
また、BOSCHの指定サービス会社さんに問い合わせるも、契約上の問題でメーカー経由の依頼しか受けられないというなんとも歯がゆい対応。

その結果どういう事が起きているかというと良くも悪くもディーラーさんに修理を依頼するしかなくASSY交換で高額な修理費用が必要になっているわけです…
まあコレもメーカーさんの囲い込みの一種だとは思いますが選択肢が無いというのはユーザーにとって必ずデメリットになります。


実は今回の車両、このブログ経由で修理のご依頼を頂いた車両で…
ディーラーでの修理見積りは80万超え…

メッセージで相談を受け、話を聞いた時点では内部センサーの不具合だろうという判断でした。
それなら何とかなるかな…ということで受け入れたんですが、今回はちょっと特殊なケースだったので記事にしてみることに。

関東より自走で愛知県まで来て頂きました…



症状としてはSCRのチェックランプが点灯したり消灯したり、その後はずっと点灯していたり…という症状がランダムに出る状況でした。
写真撮り忘れましたが最初に診断機で確認した故障コードは…
P1BB1  SCRシステム
P1B86  尿素水温度センサー(P/M内)
P1BA8  CAN通信(SCR ECU)
P1BA3  識別センサー(CAN)

といったようなコード。

P1BB1とCAN系のコードはとりあえず無視…

チェックランプが点いたり消えたり…という事は、同一サイクル中の復帰性があるエラーコードと絞れる訳で、そうなってくると気になるのは温度センサーのコード…

データを点検すると尿素水タンク内の温度に対してポンプモジュール内での尿素水温度がマイナス表示。


更に詳しくデータを注視しているとポンプモジュール内の尿素水温度が目まぐるしく変わり、温度としてはあり得ない変化を起こしていました。



コレは明らかにおかしなデータとなっており、センサーは機能していない事は容易に想像できます。

この時点ではセンサーを交換すれば直るだろうと安易に考えていたんですが…

今回のケースはそう簡単にはいきませんでした…

まずはポンプモジュールの取り外しから…



カバーを外して…



問題の尿素水温度センサーの単体点検をしてみると…



見事にオーバーレンジ。



と、思いきや突然導通しだして抵抗値が目まぐるしく変化…

↓はその時の抵抗値の変化を撮った動画。



とりあえず、原因を確定させる為にウチがストックとして持ってるテスト用のセンサを取り付け…



モジュールを車両に仮付けしてセンサーの数値の変化を見ることに…




このセンサは可変抵抗に5V電源を加え電圧変化から温度を測定するオーソドックスなタイプ…





ちなみに仮に付けてあるセンサはちゃんと生きているモノです…
外気温約21℃で2.3kΩ。



ところが正常なセンサなのに電圧が全く変化せず…
データ上の温度もマイナス固定で変化が無い…
試しに色々と手持ちの抵抗を間に入れて意図的に抵抗値を高くしても5Vのまんま…



⁉︎

センサ交換で直ると思っていたものが中々厄介な状態と判明…

もしかしてDCUがご臨終…⁉︎

その後も色々と検証をした結果コンピュータが悪さをしている可能性があるという事で、今回は初の試みでしたが、特殊な方法で修理してみる事に…





こちらは上手くいきました…



更に分解ついでによく詰まるエア経路のお掃除も行い…



全て組み付けて、フィルターも新品に交換。



で、車両にドッキング…


接続を再度確認して…


診断機を接続して過去コードやメモリをリセット…






故障コードも消え…



エンジン始動…
無事に温度も正常な数値に戻りました。


当然タンク内温度との差も正常値になり…



無事にチェックランプも消灯。



その後システムテストを行い全て正常に機能する事を確認…
作業サポートによる尿素水の添加量もキチンと確認していざ試運転。

トータルで200km以上試運転しましたがチェックランプも点かず、尿素水も正常に減っており問題なし…


あとは各部に漏れや締め忘れがないか最終確認をして…





無事に修理は終わり…
先日、無事に引取りも済んで完了。

今回はイレギュラーな作業の為修理費用も少々かかってしまいましたが、それでも新品交換と比べ修理費用は約半額。
またケースによってはもっと安価に修理する事も可能な事も分かりました…
部品さえ出れば修理可能なモノも部品が出ないからという理由で80万はやっぱり納得出来ませんよね…


今回のトラブルは初のケースで私自身も色々と勉強になり非常に貴重なデータが取れました。


で、今後もこういった特殊な修理に対応するため日本では入手困難な部品を海外の会社と協力して仕入れる準備もしています…
まだまだ100%対応は難しいですが出来る事から少しずつ進めていきます…

この辺りの修理技術や体制を確立出来れば交換する必要のない部品は交換しなくて済む訳で、それはイコール修理コストの削減に繋がります…

修理技術はやっぱり実践していかないと確立出来ませんからね…



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20 コメント

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Unknown (taka284)
2019-12-06 22:11:05
こんばんは業務お疲れ様です
海外フォーラム眺めていると、え?それ部品で取れるの?という事がよくあります。
作っている国がEUだからでしょうが、日本でも内部部品の供給してくれ!って

最近ふそうから低床4軸車新車で購入したので、整備解説書一通り読んだのですが、対処方が「問題が発生した場合はASSY交換して下さい」ばかりで、ため息しか出ませんでした。

ディーラーのレベルが落ちているのか、いちいちO/Hするのは金にならないのか知りませんが、商用車なんだから、せめて内部キット位は出せよって思います。
 


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Unknown (元UDさーびすまん)
2019-12-06 23:14:36
目玉飛び出る値段ですね
ミラーが一体になった現行車になった時「値段がスーパーグレート」と揶揄した物ですが、ここまでに
なると「MMC三菱ふそう」が「忌々しい三菱ふそう」となって来ます
何か共通する物が無いものか?
一考するトラブルですよね
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Unknown (CHAU)
2019-12-07 12:01:33
こんにちわ!
三菱はこのヘン相変わらずですね。
80万なんて金額、説明しても理解してもらうのに
ある意味無駄な時間費やして他の仕事が止まるのが
嫌なので三菱に投げてしまいます。
でもこの記事は非常に興味深いです。
同様の症状に遭遇した時は参考になります。
が!?
この原因を引き起こすのはやはりエンジンオイル
なのでしょうか?
オイルによってだとすると、夏の勉強会の時の資料で
見ると三菱純正オイルってアレでしたし・・・・・
ウチでDPD装置に異常きたしてないものの、
一か月の間にエンジンオイルをレベルゲージの下限
以下まで減るH22年以降のイスズ車(4t/大型のみ)が
あり、試しにオイルを今までウチで使っていた
三菱純正オイルから別のオイルメーカーで
グレードが上のオイルを使用して二カ月様子を
見てみましたが変化がなかった為、パワーDや
シェルのリムラ5の購入に躊躇してます。
パワーDでも変化が現れるのにある程度期間を
見る必要があるのでしょうか?
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Unknown (mikiaxis)
2019-12-09 09:36:48
taka284 さん お疲れ様です。

そうなんですよね…
海外では普通に単品で売ってるんですよ。
とにかく国内ではBOSCH品番などの情報は皆無でしたから…
おそらくメーカーとBOSCHとの契約で国内では内部部品単品での販売はしない方針なんだと思います。

メーカー系は今後もASSY交換が主流になるでしょうね…
トラブルシュートしても最後はASSY交換になるのでそれ以降は調べるだけ時間の無駄と感じてしまえば意欲のあるメカニックはモチベーションを下げられます。
メーカーとしてはサッサと交換して出庫させて次の車両という感じでしょうか…
メカニックは技術職なのでそんな状態では上がるモノも上がらないですよね。
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Unknown (さとた)
2019-12-09 10:54:30
お疲れです。

あのでっかいユニットは、それ用だったんですねー。
値段はそれ相応するとは思ってましたが、まさかそんな数字とは.....。

一般的には 一番高価な費用は工数、と言われた事も有るようですが、
最近はそうでもないなー、と。

マキシチャンバみたいに、物理的に危険 なら致し方ないですが、
政治的理由により 分解禁止は、何かと問題あるなーと 思う次第。
保証の話もあるので 一概には言えませんが、
一つだけ断言できるとすれば エコ じゃないなー と。

ブレーキ周りでいえばABSなんかもそうですが、
それはデリケートな部品なので非分解(分解禁止)と言いながら、
実際にブレーキが作動するアクチュエータの仕掛け
(ブレーキ内部のアレコレや、エキスパンダなんかもそうですが)
は バラバラにして点検せよと言う。
(VCS-Ⅱはのちにリペアキットが出ているようですが.....)

なんだかなー。
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Unknown (mikiaxis)
2019-12-09 12:15:09
元UDさーびすまんさん お疲れ様です。

このタイプのポンプモジュールで言えばDCUのプログラムが違うだけで構成部品はUDさんのポンプモジュールと全く同じです。

そういう意味でふそうさんもUDさんから買っているシステムなのであまり勝手な事は出来ないでしょうね…
それ故に同じ物でも値段を上げざるを得ない状況もあると思います。

ただ、そのシワ寄せがユーザーにくるのはなかなか納得出来ませんよね…
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Unknown (mikiaxis)
2019-12-09 12:27:01
CHAUさん お疲れ様です。

今回のケースの原因はエンジンオイルではありません。
今回はあくまでもセンサーもしくはDCUどちらかが先に不具合を起こした結果です…

オイルが減る車両の件は…
1つ気をつけてもらいたいのは、エンジンオイルが減る原因をキチンと特定した上で対策をするという事です。
外部に漏れがない事が前提ですが、オイルの減り方からするとオイル上がりやオイル下がりの可能性やターボからの内部リークの可能性もあり得ます…
当然、蒸発しないオイルを使用してもオイル上がり下がりなどの場合はオイルの減りは改善されません。
1ヶ月に数リットルも減るようであればそれは蒸発が原因では無い可能性が高いんです。
逆に言えば蒸発しないオイルを使う事で内部リークという部分に絞れるという事はありますが…
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Unknown (mikiaxis)
2019-12-09 12:40:59
さとたさん お疲れ様です。

普通に考えてあのポンプモジュールがあの値段ってどう考えても納得出来ませんよね…

確かに全然エコじゃないですよねぇ…
例えて言うなら吸気温度センサだけが悪いのにエンジンASSYで交換するようなものですよ。
その結果部品を卸売りしている所は儲かるでしょうね…
つまりはそういう事なんだと思います。

でも私はその選択肢に縛られるような状況は大嫌いです…
それだと技術もへったくれもない訳ですからね…
それこそチェンジニアです…
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Unknown (にわか整備士)
2019-12-09 20:25:57
お疲れ様です^ ^
6M系のモジュール…必死こいてクレーム対応に
してた思い出しかないっすねww
この世代のSCR関係は何かにつけて高いイメージが
6R系になってまだ価格は下がったものの
今度はNOXセンサやらオイルミストによる
ドージングと尿素サプライポンプのトラブル…

当時はお客様に何て説明しよう…
会社は交換(内部の部品は入手不可)
今思うとメーカー自ら技術の低下を引き起こして
いたんですね…

少し元ディーラーマンとして悲しく恥ずかしいです

一度管理者様とざっくばらんにお話してみたいものです^ ^
私も私なりに今はアクスルモジュレータや
サイドブレーキバルブ等のリペアがある限りはOH対応にしています^ ^

ちなみに300Cは結婚して長男を授かったら嫁に売られてしまいました…無駄にデカイ燃料タンク
高級車の割には装備はカローラクラスww
でも!あのアメ車のスタイルとHEMIのE/Gは
所有する喜びがありました^ ^
車は運転する喜びがないと、ただの移動の道具に
なりますからね…
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Unknown (mikiaxis)
2019-12-11 21:15:15
にわか整備士さん お疲れ様です。

メーカーがASSY交換を推奨するのは診断に要する時間や誤診による再入庫、修理にかかる時間など、トータル的に工数を減らす事で出来る限り効率を上げたいんだと思います…
ただ、仰るようにそれではメカニックとしての診断技術や修理技術、ノウハウなどは実際に作業しない限り育ちませんから…
その結果がチェンジニアと呼ばれる所以でしょう。

まあ効率優先というのも考え方としては分からなくもないですが、個人的には現場でお客様の声を聞いているとやはり選択肢は残すべきだと思うんです…


一度お話しますか⁉︎笑
この仕事のあり方について一晩中話せますよ…笑
私がいつも思うのは向上心のある人と話す事は非常に有意義なものになる事は間違いないんですよね。
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