葵祭に先立って、下鴨神社に神霊を迎える神事が、今日(5/12)行なわれた。
上高野の御蔭山(御生山:みあれやま)が、鴨の大神降臨伝承の地だ。下鴨神社でお祓いした一行は、その山の中にある御蔭神社に向かう。御蔭神社本殿で荒御魂を神木に遷す神事を行い、神馬に乗せた神木を下鴨神社に運ぶ途中、高野の賀茂波爾神社(赤の宮)に寄り、路地祭を行なう。下鴨中通の北大路通南辺りから馬や馬車を仕立てた旧来の徒歩行列となり、下鴨神社の参道に入る。糺の森で切り芝神事を行い、下鴨神社本殿に荒御魂を遷す、という具合に儀式は進む。
下鴨神社楼門、9時頃。儀式の間、この楼門から入ることはできない。
門の後方から、樹下の神事を見ることができた。斎串を振ってから息を吹きかけて半分に折り、後で御手洗川へ流すのだそうだ。「樹下」というぐらいだから、かつては糺の森にある川の傍で行なわれたのに違いない。斎串に穢れを移して、水に流すのだ。
神事が終了すると、行粧は参道にスタンバイしている車やバスに分乗して、御蔭神社に向かう。御蔭通を東へ、御蔭橋をわたって川端通を北へ進んだようだ。なるほど、御蔭祭で通る道路だから「御蔭」なのか。
御蔭神社は、叡電八瀬比叡山口駅の南西にある。叡電をはさんで、エクシヴの向かいにあるという感じだ。三宅八幡駅からは徒歩15分程度。上り坂が続くが、充分歩ける。三宅八幡から線路沿いに東へ延びる道はやがて細い山道となり、その先すぐに案内板。そして鳥居が見える。あまりに寂しい道。
鳥居を過ぎればまだ上り坂。 坂の突き当たりに手水所があり、左手の階段を登ると、本殿。
本殿内では、下鴨神社宮司が、正午に祭神二柱の荒御魂を神木に遷し、白い布を掛けた小さな櫃に入れて、幕から出てきた。儀式終了後の本殿(写真下・右)。下鴨神社と同様、東西2つの本殿がある。下鴨神社の法被を着た方に聞くと「東は玉依日売命荒御魂、西は賀茂建角身命荒御魂」とのこと。では、下鴨神社の場合と反対になる。本当なのか?
本殿のある高台から、坂を下る列が見える。鳥居前の由緒書(写真下・右)、本殿前の立て札、山道の案内板、それぞれ「カゲ」の文字が違うのが不思議。
『拾遺都名所図会』に「御蔭神社御祭」の絵図がある。「御本社」が二つ、行列の様子(木の枝を持つ先導、太鼓)など、今と変わらない様子も描かれている。http://www.nichibun.ac.jp/meisyozue/kyotosyui/page7/km_01_452f.html
「御蔭山」の解説文もある。http://www.nichibun.ac.jp/meisyozue/kyotosyui/page7/km_01_441.html
山道を下ると再びバスに分乗、北泉通でバスを降りて、大原道を赤の宮へ向かう。行列が到着したのは2時頃。赤の宮には露店がぎっしり。儀式の間に客の呼び込みをするのは止めてほしい。
本殿での儀式、雅楽の演奏、そして舞の奉納があった。写真下・右は、儀式が終了した後の本殿。
3時半を過ぎて、一行は、御蔭通り西から、参道に入った。
行列が通った後、参道の中ほどで見物客は進入禁止になる。回り道をして、切芝神事の行なわれる所へ急いだ。時すでに遅し。人垣の間から神事を見ることになる。神馬を前に、東游 の舞が行なわれ、最古の祭儀式と言われる三代詠が奏された。
神事が終わり、順に下鴨神社へ向かう。朝のお祓いと切芝神事には、マイクを持った神職さんの解説があった。観光客に親切。よく分かって、ありがたかった。
行粧は、このまま本殿に入り、4時半頃、本殿の門は閉ざされた。ちゃんと門番がいる。門前両脇の木には、御幣のようなものが沢山かかっている。荒御魂を本宮に遷御する神事は、5時頃終わった。待っていた人たちは門の中に入り、拝殿前で参拝。祭で使用した小道具が拝殿に置かれていた。
上賀茂神社でも 、同日の夜中、神山から神霊を迎える御阿礼神事を行なうそうだ(非公開)。立命館大学文学部リレー講義「日本文化の源流を求めて」というシリーズのHPに、下鴨神社の宮司さんの話が載っていた。「御生(みあれ)」とは「流れている水が大切だということ」「水にはそういう生命を生み出す大きな力がある。太陽にはそれを育てる大きな力がある。そこにこめられた力、威力、それが神さん」とあった。
境内で下鴨神社の法被を着ておられた方に伺うと、「神さんは毎年生まれ変わる」とのこと。本宮に和御魂がおられるところに荒御魂を迎えて「若返る」、という表現もどこかで読んだ。
神とは、本来、荒ぶる神だ。祟る神もいただろう。そういう大きな力、恐ろしい力を鎮めるため、祭りというものが行なわれた。供物を備え、舞を奉納し、鎮まって頂く。荒御魂から和御魂になって頂く。そうして実りと安定を願ったのだろう。今は田植えの時期。これから育つ稲をどうかお守りください、という意味が込められているのでは。あるいは、生命の息吹がそこここに感じられるこの季節に、神さんも、新たな生命力を得るということか。
最後に、それぞれの神社のフタバアオイの神紋を、比べておこう。
写真上・左は、下鴨神社。きちんと撮れていないが、右の葉は左に比べて立っている。また、蕾は左の茎から右側へ。
写真上・右は御蔭神社。蕾の出方が違うが、それ以上に陰陽の2色の葉が印象的だ。
写真下は、赤の宮。左右の葉のバランスは下鴨神社と同様だが、蕾が茎の上の方についている。ただ、ここの舞殿の幕(写真の左下の白い帯部分)は、この意匠と、反転した意匠とが交互に描かれていた。上賀茂神社の、葉と蕾が反転している意匠(葉脈の模様は違うが)を思い出させる。
ついでに、下鴨神社拝殿手前の門の両脇に立てられていた剣鉾の吹散(旗)には、徳川葵と上下逆の三つ葉葵の刺繍が(門番のいる写真)。また、当日の小道具に使われた旗には、片面に徳川葵、もう片面に神紋の双葉葵が刺繍されていた。
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