去年だったか、一昨年だったか、美術展で、古代ギリシアの赤絵式の壺を観た。すごいものだと思ったが、ここ、京都ギリシアローマ美術館の展示品は、その比ではない。こんなに完全な形で、修復の跡もなく、よく残っていたものだと感心し、壺の形の美しさ、文様の面白さに感嘆する。
場所は、地下鉄北山駅から、下鴨本通を南へ下り、疏水の少し手前を東に曲がってすぐ。美術館は、閑静な住宅地の一角にあり、ひっそりとした門構えで、危うく通り過ぎてしまいそうだった。
門を一歩入ると、4階建ての洋館が姿を現す。
玄関ロビーには数体の彫像が並んでいる。受付の方がひとり、館内にいらっしゃったが、観覧者は私だけのようだ。展示室に入ると、私一人のために、あちこちの照明が点り、贅沢な気分である。
1階は、ローマ時代の大理石の彫像、石棺、モザイクなどの展示。石棺のレリーフに彫られたミネルヴァ神とミューズたちの中に、美しい顔がそのまま残っているものもあり、見入ってしまった。
2階は、南イタリア陶器、エトルリアのテラコッタ。展示室の一部は空中回廊のようになっており、一足毎にミシミシと音がして、落ち着かない。この美術館は1997年オープンらしいが、なんだか心配になる。床板が抜けて、この貴重な展示品が粉々になってしまわないかと。そのため、この展示室では何を見たか、ほとんど覚えていない。
3階は、エトルリア・ローマの青銅品、コリント・アッティカの黒絵・赤絵陶器など。ここは一番好きだ。例えばBC750~735年のアッティカ末期幾何学様式のピクシス。ピクシスとは、女性用の化粧品・装身具を整理する丸い容れ物のことである。蓋には4頭の馬の飾りがついており、全体に卍・格子・ドット・斜線などさまざまな文様がちりばめられていた。これに興味を引かれて調べてみたら、そっくりなものをルーヴル美術館HPで見つけた。
また、形の美しいノラ型アンフォラ。アンフォラとは2つの把手がついた壺のことで、オリーブ油・ぶどう酒・穀物の貯蔵や運搬に使うものらしい。イタリア・ノラ村で発見された形のものを特にノラ型と言うそうだ。
そして、クラテール。これは水とぶどう酒を混ぜるためのもの。口の直径が1m以上はありそうな、台付きの黒っぽい大きな壺に、葡萄唐草と首飾りの文様が、金押し技法で描かれていた。きれいだった。
4階は休憩室。閉館時間の5時になってしまったので、行けなかったのが残念。また違う季節に、お茶と景色を愉しみに行こう。
古くは自然のモチーフを素材として、次に定規やコンパスを使った幾何学様式で、そして神話を題材に取り、その後は簡素さと華麗さをそれぞれ深め発展させていく・・・。図柄も技法も形も時代によって変化し、興味は尽きない。
それでも、図柄を安定させるのは「文帯」であるように思う。古い壺には乗馬をする人やグリフォンの印判の文帯、時代が下って縄文帯や鳥獣文帯、また大地の限界を示すというミアンダ文帯。
図模様を刻み付ける黒絵式技法、また、人物や、動物、植物などをより絵画的に描く赤絵式技法の解説があった。実物がそこにあるので、とてもわかりやすい。ただ、素人としては、展示品説明ツアーのようなものがあればいいのに・・・と思う。あるいは美術館のHPを作り、そこで詳説してもらえたら・・・とも。展示品の入れ替え時期や、ときどき開催されるというイベント情報も知りたい。
4年ほど前にふらっと寄ってみたときは、入れなかった。1・2月は休館なのだ。下鴨本通りを北山に向かって歩く度に、今度行こうと思い続け、やっと昨日。入館料は1000円と高めだが、かなり満足。陶器好きには、オススメである。
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