走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

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2014年12月31日 | 仕事
ダニエラは診療所の予約をすっぽかした。私は驚かなかった。前回のダニエラについてはこちら

その代わりにダニエラのお母さんに会った。一人娘を心配している。このままではあの子は死んでしまうのではないか、医療に見捨てられた娘と涙ぐむ。ダニエラの両親はずっと前に離婚している。母親は一度彼女を引き取る決心をしたが、拒食症と薬物依存がある彼女を引き取るのは容易いものではなく娘を突き放してしまった。母親として罪深い思いをしているのが伝わってきた。今ダニエラが住んでいるアパートはダニエラの名義。入退院を繰り返している彼女の日常を手伝う目的で父親が転がり込んできたのが6ヶ月前。母親曰く父親はアルコール中毒があり他の薬物依存もあるのではと疑う。父親からの影響でダニエラの状態が悪化しているのではとも。母親は私に何とかしてダニエラを父親から引き離してどこか医療施設か他のアパートに移せないかと頼み込む。

ダニエラの気持ちを確かめる必要がある。その間私は自分の宿題をする。どんな施設があるのか、サポートグループは?他のプログラムからのサポートはどうか?経済的なサポートは?

まず初めに元拒食症の急性治療病棟で働いていたベスにメンタルヘルスセンターからのサポートについて聞いてみた。そこから州の拒食症治療センターのプログラムからのコーディネーターと話をする。次に地域の拒食症プログラムのコーディネーターと話をした。宗教系の治療センターの情報も集めた。必要な書類やパンフレットを集めて準備万端。ダニエラのお宅訪問を計画する。一回目は思いっきり振られた。訪問数時間前に薬物使用による幻覚がひどく近所の通報で彼女は病院へ連れて行かれた。入院は1日も続かなかった。幻覚症状がなくなって自己退院したそうだ。

2度目の今日は彼女を玄関で捕まえた。どうしても友達のところへ行かなければならないので2分で帰ってくるからと逃げられた。家に閉じこもりがちの彼女が妙にドレスアップしていた。私たちはダニエラの代わりに彼女の父親に会った。父親曰くあと10日でアパートから強制撤去されるのに次の家も探さず、、、ああやって出かけるのは薬物の購入に行くんだから、、、、月々にもらう生活手当は薬につぎ込みたった4日で使い果たす。あとは体で稼ぐ金で買うなんて、、、、どんな娘なんだ、と言う。自分はこんなところとはおさらば、他の州に移り住むよとあっけらかんと話す。20分待ったがダニエラは帰ってこなかった。ダニエラがホームレスになってしまうことは明らかだ。警察も強制撤去のことは知っていた。

父親にホームレスアウトリーチのオフィスの場所や何を手伝ってくれるのか説明しておいた。

ダニエラは州と地域の拒食症のプログラムで名の知れた人だった。有名なのは頻回に紹介されても一度もフォローアップに来ないと言う点で。強制的に治療させることはできない。彼女自身が自ら治療を望むことが必要だと何処からも言われる。

私がしなければならいことは十分わかっている。彼女の心の準備ができているかどうか確かめること、できるようにサポートしていくこと。
母親が医療に見捨てられた娘と言った言葉を思い返す。見捨てられたのではない。自らこの道を選んでいるダニエラ。私達医療者がロープを下ろすことはできる。しかし彼女がロープを掴まなければ引き上げることはできない。まだまだ先は長くなりそうだ。



スキーシーズン到来

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