暴力の被害届け

彼女は短パンにタンクトップと夏らしい出で立ち。しかし髪は乱れ身体中に青あざ。控え室で大声で泣いています。

診察室に入って最初に言った事は、助けて！

彼が暴力を振るうから、、、彼を助けて！と。彼が病気だと言う。優しいと思ったら次は殴りかかると。

彼を傷害で警察へ引き渡すような事はしない、だって彼は病気だから、、、。

悲しいですが、カナダではどんなに彼女に懇願されても私が彼に対して出来る事は１つもないのです。被害者がマイナー(乳児、幼児、学童児、若年層)もしくは意思決定のできない大人であれば、本人の意思に関係なく被害届を出すことができます。それ以外は個人の意思決定を尊敬しなければなりません。リスクがある中に身を置くことも本人の意思であれば、個人の自由です。もし彼が精神病に病んでいても、本人が治療を受けようとしない限り強いる事は出来ません。

たった１つの例外は、彼が幻覚状態で殺人を起こしかねない状態です。その場合は本人の意思に関係なく強制連行となり精神科医の診察を受けなければなりません。その為にも強制連行が出来る警察を呼ぶことが大切です。

彼女は断固として拒みます。だってそんな事をしたら彼に嫌われて捨てられるから。彼の事を愛してるのよーと泣き続けます。

暴力被害者の一時的シェルターの電話番号を教えて、身を守る方法(内臓や頭部にダメージを受けない姿勢、彼と一対一になる機会を少なくする、などの安全策を話し合って、診察は終わりです。

彼からの暴力は今回が初めてではないと言う。だんだんエスカレートしているのは事実。
愛という呪縛に縛られて、世では正しいと言われる行動に出れない。悲しい現実です。