走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

三面鏡

2014年10月27日 | 仕事
ウイリアムが退院した。

ウイリアムの前編はこちら


状況を考慮して彼の退去は月末まで延長された。退院したと言っても今だに薬の調整をしていて、病院から看護師が観察のために毎日訪問しているとか。

無表情な彼は変わっていた。にやにやと笑うのだ。その上自分は賢くお前たちは豚だと言う。音楽の話をする時はベートーヴェンやモーツアルトまでバカにする。私は始めて患者と一緒にいて「怖い」と感じた。マニックの時には人を殺したくなると言っていた彼だからだ。

しかし質問すると、幻覚も幻聴もなく、他人や自分を害する考えはないと言う。
退去するまでに次に住むところが見つかるかどうかが一番の心配だと言う。

診察を終えて、病院から来る看護師に会いに行く彼。一足早く看護師宛にメッセージを残しておいた。


彼は再入院することなかった。翌週の診察に来た彼はまた違う彼だった。普通のおじさんになっていた。ようやく薬が体にあって来た気がする。頭に雲がかかってぼーっとした考えることが出来ないような感覚から抜け出したと。昨日が最後の訪問看護の日で来週は精神科医の診察予約が入っていると。職場にも復帰すると言う。

彼の三つの顔を見た私。精神科の特徴を垣間見た気がした。薬物療法のすごさも感じた。
しばらく週一のペースで診察に来ることを話した。このまま安定して本当に社会復帰をして欲しいと思った。



寒くなって来ました。暖炉に火が入ります。




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