走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

広がる輪

2014年12月18日 | 仕事
何を見ているのか自分の目を疑った。荷物が置いてあると思ったのに、それが動いている。頭?でも位置がおかしいし顔がない。

ティナはあまりの寒さにホッケーバッグの中に座り込み、何枚も厚着をして座ったまま寝ていたのだ。首が前に折れかかるようにして。かぶっていた毛糸の帽子のボンボンが下向きで髪の毛が垂れていて、その上足も手も首も見えず、人間だと確信するのに時間がかかったのだ。声をかけて顔を上げたティナの顔を見てまたもやびっくり。乱れた髪にお岩さんのように腫れあがった顔。びっくりさせるにもほどがある。

診療車の中で診療する。

24歳の彼女は一緒に住んでいた父親が3ヶ月前に亡くなりそれ以来ホームレス。薬物使用歴は長い。昨日の朝ヘロインを打ったのが最後だという。

顔の腫れの原因はわからない2日前起きたらこうなっていたと。腫れているのは顔だけではないという。両方の脇の下も。膀胱炎のような症状が3ヶ月以上続いている。膿のような尿が出てとても痛いと。違法薬物を静脈注射するのは右腕を使うという。見てみると腕の血管が頻回の使用のため硬くなっている。脇の下が腫れ上がっている時ナイフでついて見たら膿が出てきたからと今朝顔の腫れもナイフで切ってみたと眉毛の上にナイフの跡がある。腫れ上がっていない反対側の目は大きくて綺麗な青い瞳で可愛い顔立ちだとわかる。

コンドームを使用せず複数と性交も繰り返している。膣には異常はないという。最後にHIVや性病を調べたのはいつかと聞くとあやふやな答え。

HIVがあるなんて脅かさないでという。おいおい、こんな生活をしていて罹患していない方が不思議だ。

診察を終え、持参している性病用の抗生剤をその場で飲んでもらい1週間飲み終わるまでは性交は禁止。その後もコンドームを必ず使用するように勧める。HIVを始め性病の検査用紙を渡す。ハイリスクな生活をしていれば定期的な検査が必要と説明。ハームリダクションの安全注射薬セットも渡した(薬物使用がやめられなければ二次疾病とも言える注射のシェアで起こるHIVやBやC型肝炎の防止のために滅菌使い捨ての注射セットを配布すること)。

あれから3日経つが彼女は検査に行っていない。抗生物質が効く性病だけで、HIVでなければ良いが、、、こうしてHIVの輪はどんどん広がって行く、、、、。



冬のイングリッシュベイ。夏と違いとても寂しそう。

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