走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

微力でも

2018年03月21日 | 仕事
彼は労災にあい、後遺症の為未だに数メートル歩くことさえ十分に出来ない状態です。労働保険が営む最高のリハビリプログラムへ5ヶ月間通いました。一日も欠かさず。

このリハビリプログラムへは医師、看護師、薬剤師、理学療法士、作業療法士、カウンセラー、栄養士のゴールデンチームで構成されています。

しかしそれでも病状の回復は亀の如く。プログラムが終了したので私のケアの元に戻ってきました。

診察中、彼の態度も言葉も怒りに満ちています。弁護士を雇ったと彼は言いました。労災がこのまま自分のケースをお箱入りにするだろう、自分はこのままで終わらせない!と。

そりゃあそうでしょう。仕事中の事故で人生が変わったのだから。何度も事故の夢を見るそうです。彼の反応が遅ければ必ず死んでいたような大事故。プログラムは終了してもカウンセリングはあと10回続くと言う。

診察の後私は彼に言いました。あなたの痛みの声が聞こえてくると。健常人から障害者へ、将来への不安(以前の仕事には戻れないことは確定、労災からの保証はどれくらい?何年支払われるのか?)、アイデンティティーの喪失、、、と最後の言葉を言った時彼の表情が驚きの顔に変わりその後表情が少し和らぎました。

そうアイデンティティーの喪失は働き盛りの彼の怒りの部分の大半を占めている。労災保険からの支払いは生涯続くでしょう、賠償訴訟も必ず通るでしょう、しかし社会に貢献する側から社会にお世話になる側への変換は簡単なものではありません。こんな状態で生きる意味は何なのか?彼はここまで感じているのです。

人間苦しい時、気持ちや考えが絡んだ毛糸玉のようにぐちゃぐちゃになりがち。そんな時に少し絡みをほぐしてその糸を考察する事が出来ると心が軽くなる時もあります。少しだけですがそれが出来たように思えました。彼の怒りや悲しみは巨大で私のできることは微力だけれど、プライマリーケアを施す医療者として一緒に寄り添っていきたいと思いました。


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