走るナースプラクティショナー ~診断も治療もできる資格を持ち診療所の他に診療移動車に乗って街を走り診療しています~

カナダ、BC州でメンタルヘルス、薬物依存、ホームレス、貧困層の方々を診療しています。登場人物は全て仮名です。

30年以上も、、、

2014年09月26日 | 仕事
56歳のウイリアムがクリニックのドアを叩く。長身で痩せ型の彼は表情もなく立っている。アドバイザーに言われてここへ来たと。

仕事も家も家族も失って、そう言う人たちを援助するプログラムに支えられ、この9カ月間トレーニングを積み資格を取り社会復帰に向けて働いていたのに、鬱っぽくなり急に仕事を一週間休んで、禁酒の施設なのに酒を飲み、規則違反でプログラムから追い出されることになったと。

目を合わせることもなく、質問からそれやすく、言葉には怒りが込められ、声を高める彼。自分は双極性障害がるという。18歳の頃から「ハイ」の時と「ダウン」の時がはっきり分かれていたと。ハイの時には何十時間もぶっ続けで働くことや勉強することも出来、スーパーマンになった気分で、それがたまらなかったと。しかし最近ハイからダウンの変化が早くダウンの時期がハイの時期より長くて辛いと。

家族歴には複数の双極性障害と統合失調症者がいて4人も自殺によって命を絶っている。

30年以上、、、、家庭医もいたのに、どうして治療をしなかったのか、精神科に紹介しなかったのか、特にこの9カ月間アドバイザーがいたのにもかかわらず、、、、悲しい、特に月末には追い出されてホームレスへ逆戻りする事実が。今日ではなく先週診たかった。

音楽メイジャーの修士号を持っている彼。音楽で有名な大学で9年間も教鞭をしていた。3日前から以前のように美しいフレンチホーンの音色が絶えず聞こえると言う。しかし音楽は大嫌いで思い出したくないと。他の幻聴はなく幻覚もないと言う。死にたいと言うが計画はない。ハイの時には人を殺したくなるとも言う。

オンコールの精神科医と相談して病院へ行くことになった。ウイリアムは抵抗することなくすんなりと病院へ付き添われて行った。

これがノートパソコンや診察器具、サンプルの薬を入れているカバン、クーラーの中には予防接種の薬が入っていて、この上に自分のカバンとお弁当カバンを抱えてえっちらおっちらアウトリーチに向かう。


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