
今、50歳のあなたは、(もしかしたら)2世紀まで生きるかもしれない――。そうした可能性を示す「今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延びる確率は13%」とした論文が昨年6月に発表されたと、1月7日の日経新聞は報じています。(「成長の未来図⑥」2021.1.7)
調査は米ワシントン大学のマイケル・アース氏らのグループによるもの。世界各国の110歳以上の高齢者のデータをもとに、史上最高齢とされる122歳を今後どれだけ上回れるかを予想したものだということです。
実際、高齢化率で世界トップを走る日本で、1世紀を生き抜いた人々を示す「センテナリアン」が急増していると記事はしています。国立社人研の推計では、日本の満100歳以上の人口は2050年に53万2千人を数えるとされており、1990年代の「きんさんぎんさん」ブームから60年で140倍に膨らむ見込みだということです。
しかし、この日本でいくら長寿化が進むとしても、みんながみんな100歳まで生きられるようになるわけではないでしょう。経済的格差の存在が鮮明化する社会の中で、世の中は「高学歴と低学歴」「富裕層と貧困層」「健康に気を遣う人とそうでない人」「幸せな高齢者とそうでもない高齢者」などに(様々に)分断されていき、結果として「長寿のグループ」と「短命のグループ」の間に深い溝が生まれてしまうかもしれません。
一体あなたは、どちらのグループに入ることになるのか。1月6日の「日刊ゲンダイDEGITAL」は「データがあぶりだす男女の顕著な違い」と題する、コラムニストの荒川和久(あらかわ・かずひさ)氏へのインタビュー記事を掲載しています。
近年の日本では生涯未婚の人だけでなく、離別・死別も含めた独身比率が上昇しているが、未婚化とともに進んでいるのが高齢化。2020年の平均寿命は男性82歳、女性は88歳となっているが、男女の死亡年齢に顕著な違いが表れているというのが氏の指摘するところです。
2018年の人口動態調査から配偶関係別・年齢別の死亡者数構成比を比較した結果、最も長生きなのは配偶者と死別した人で、これは男女ともに変わりがないと氏は話しています。
しかしその一方で、未婚者、有配偶者、離別者の死亡年齢中央値には、男女で著しい違いが出ている。男性の場合、最も早く亡くなっているのが「未婚の人(死亡年齢中央値約66歳)」で、次が「離婚している人(約72歳)」。そして「配偶者のいる人(約80歳)」「配偶者と死別した人(約86歳)」と続いているということです。
一方、女性は「配偶者がいる人(約78歳)」が最も早く亡くなっていて、次が「離婚している人(約81歳)」と「未婚の人(約82歳)」だったと氏は言います。そして、最も長生きなのが「配偶者と死別した人(約92歳)」で、男性は未婚の人が、女性は配偶者がいる人が“最も短命”であるという結果となったということです。
こうした結果となった背景について氏は、「一人暮らしの男性は糖尿病、高血圧、心疾患で亡くなるケースが多く、これらは生活習慣に起因するもの。健康に気を使って自炊や運動をしている人は少なく、ほとんどが外食となる。その点、奥さんがいる人はしっかり食事を管理してもらっているので、この差が大きいと思われる」と話しています。
一方、女性の場合はどうなのか。「女性の場合、老後は夫が亡くなってからのほうが幸せを感じる人が多い傾向が見られる。どちらかといえば、女性は男性よりも、一人で生きていくことに耐性と適応性が強いとみるべきだと思う」というのが氏の指摘するところです。
さて、このインタビューにおける荒川氏の見解をここまで読んできて、少し「…ん?」と感じるところがあったので、改めて私なりに状況を整理してみたいと思います。
男女ともに「配偶者がいる」人が(「いない人」より)早く亡くなっているというのは、例えば30代40代などで早く亡くなった人には(生きている)配偶者がいる確率が高いので、「当たり前」と考えればそんなに不思議はありません。一方、「配偶者と死別した人」が長命なのは、本人が長命なので(つまり90歳、100歳まで生きたので)配偶者は既に亡くなっていると考えれば、ある意味合点もいくというものです。
また、結婚前に若くして亡くなる人も(特に男性の場合)それなりに多いので、未婚者死亡年齢の中央値が既婚者よりも低いのは、当然と言えるでしょう。一方、女性は若年死亡率が男性よりも有意に少なく、さらに人口に占める未婚者の割合が男性よりも低いことから、影響が少ないということも考えられるかもしれません。
そこで問題となるのは「離婚」が寿命に及ぼす影響です。女性の場合、「離婚した人」が、配偶者のいる人(つまり配偶者よりも早く亡くなった人)よりも長生きで、「配偶者と死別した人」(つまり、配偶者より長生きだった人)よりも短命なのは不思議ではありません。「未婚の人」と「離婚した人」がほぼ同じ寿命となっているのも、統計の妥当性を裏付けているような気がします。
最後に問題となるは、(残された)「離婚した男性」が、「配偶者のいる男性」よりもかなり短命だというデータです。
これは一つの仮説なのですが、離婚率は高齢者世代は低い一方で、若い世代では(「3組に1組」などと言われるように)かなり高いことが指摘されています。つまり、(少なくともこれまでは)「離婚した人」に年寄りは少なく、若い人が多かったということ。それは「亡くなった人」でも同じで、離婚経験者のカテゴリーでは他のカテゴリーよりも若い人の割合が高いことが考えられるというものです。
それでは、なぜ「離婚している女性」の死亡年齢中央値が、「離婚している男性」のそれより9歳も上なのかと聞かれると(そこのところは)よくわかりません。女性の方が男性よりも平均寿命が長いことに加え、離婚されるような男性には(経済的にも健康上も)やはりそれなりに問題がある場合が多いということなのでしょうか。
さはさりとて、(いずれにしても)こうした分析からは、「統計データの評価」というものが一筋縄ではいかないことがよくわかります。いずれの推論が正しいかは別にして、寿命が130年にも伸びれば、結婚、離婚、死別、再婚など、多くの人の人生に(さらに)いろいろなことが起こるのだろうなと改めて考えた次第です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます