港町の秋の夕暮れ
鳴っているのは鐘の音
啼いているのは名も無い小鳥
泣いているのは淋しい女
坂を下るバスは海に落ちていくような速度で
女は乗れやしないようだ
傾斜がきつくて上ることもできないようだ
それであんなに泣いているのか
坂の途中で立ち尽くして手放しで
どんどんと日が暮れるよ
暗くなったらますます動けやしないよ
山からは冷たい風と闇が吹き降りてくるし
海からは波が吼えてくるだろう
その泣き声よりも大声で
早く助けを呼びなさい
私は助けを呼べないままで
目の前に急停車した夜を走るバスに
行く先も確かめず乗り込んだの
そうしたら
運転手のいないバスは
人の目には映って消えて
幽霊船のように夜の港町を彷徨い走り続けるバスでした
今や行方不明人として口の端にものぼらなくなりました
そこで泣いている女
早く助けを呼びなさい
港町のあやかしに からめとられないうちに早く
このバスの中は
海の底より淋しいから