行雲流水

仏教をテーマとした記事を掲載しています。

地獄・極楽とは(一)

2017年02月03日 | 仏の心
松原泰道師の言葉から。

 あるとき、一人の若い侍が「地獄があるのか。極楽もあるのか。」

と、白隠禅師に尋ねました。

 禅師はそれには答えずに、逆に質問を投げかけます。

「おまえさんはだれだ。何だ」

「侍だ」

「その侍が地獄がわからんとは、おまえさんたいした人物じゃなかろう」

そういって禅師は、さんざんに彼を罵倒したのです。

この若者は、腹を立てながらも、ここは辛抱だと思ってじっとがまんして聞いています。

だが、禅師はますますいいつのり、罵詈讒謗するのです。

ついにたまりかねた若侍は、おのれとばかりに刀を抜き、斬りかかりました。

 白隠禅師はとびのいて、本堂の中をあちこちと逃げ回ります。

若侍は追いかけるものの、家の中だから思うように刀は振り回せない。

しかし、とうとう追い詰めて、一刀両断とばかりに切り落とそうとする。

 そのとき裂帛の一声が降ってきたのです。

「そこが地獄だ!」

ハッとばかり、侍はひるみました。

なるほど、天下の名僧を殺せばどうなるか。主君に迷惑をかける。自分は切腹だ。

家は断絶するかもしれぬ。

なるほど、今の怒りが地獄だったのか。

そう気づくと、刀を置き、居住まいを正して、

「わかりました。」

するとそのとたん、

「そこが極楽だ」

と白隠はほほえみながらいいます。

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