ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【献本などお礼】難波先生より

2017-12-31 14:17:21 | 難波紘二先生
【献本などお礼】
1)「医薬経済」12/15号(医薬経済社):ご恵送に感謝します。
 高橋幸春さんの「移植医大島伸一回顧録」が12回目となり、完結した。大島伸一氏(現・国立長寿医療研究センター名誉総長)が06年の「病腎移植」批難の過ちを認めて謝罪する発言は引き出せていないが、当時「人体実験だ」と批判したのが本意ではなかったと認めており、実質的には当時の移植学会会長田中紘一と同様に、自分の非を認めたものだと理解した。

 厚労省が10月に「病腎移植」を先進医療として認可し、12月に海外渡航移植を保険給付の対象として認定したことは、日本の臓器移植医療がいかに追いつめられているかを如実に物語っている。http://www.sankei.com/politics/news/171212/plt1712120018-n1.html
 移植用臓器の「自給自足」を定めたのが2008年の「イスタンブール宣言」である。
渡航移植の保険適用は明らかにこの宣言に抵触するから、寺岡慧(日本移植学会理事長・当時)や相川厚(東邦大医学部教授・当時)などは病腎移植(修復腎移植)に対して猛烈に反対した(「Pharma Medica」2011, No.11)。
 彼らに論理的な首尾一貫性があれば、10月と12月の厚労省の認定に対して強烈なリアクションがあってしかるべきだと思う。

 だが現実にはそうはならなかった。なぜか?
 科学史家のトマス・クーンが『科学革命の構造』(みすず書房、1971/3)で述べたように「パラダイム・チェンジは<負けた方が相手の論理を承認する>という形にはならず、古いパラダイムを信奉する世代が死に絶え、新しいパラダイムの信奉者が多数派になる」というかたちで進行するからである。地動説の元祖コペルニクスが宗教裁判にかけられず、彼の説を受け継いだガリレイが裁判にかけられたのは、コペルニクスが新教国にいて、ガリレイがカトリック国にいたという違いのためだ。
 万波誠が、もしミシガン大学で「修復腎移植」を実施していたら、何の問題にもならなかっただろう。日本で、しかも宇和島という片田舎の市で、やったから大騒ぎになっただけである。

 2008年頃、私は日本における「修復腎移植」の可能性として3つを考えていた。
1) 修復腎移植が、安全性を確かめた上で学会により承認される。
2) 海外で普及し、手法が逆輸入される。
3) 海外に留学した移植医が、各地で独自に実施し始める。
2,3は未だに実施されていない。それは厚労省によるしばりがあったためである。

 高橋さんの「大島伸一回顧録」では、大島が一番こたえたのは、「修復腎移植の禁止に対する患者訴訟」だったという。私もそうだろうと思う。「患者のため」として「修復腎移植禁止」を唱えた移植医なら、患者サイドからのオブジェクションにもっとも敏感なはずだ。
 修復腎移植の普及のためにもっとも重要なのは患者団体の運動だと思う。高橋さん、長期連載ご苦労様でした。

 2)「日本社会の生活習慣病No.29」:高松市の印藤君からご恵送を受けた。医学部卒同期で、内科医をしている。身辺雑記からいろんな社会的話題まで取り上げた随筆集だ。ついこの前No.28を頂いた気がするが、恐るべき執筆力だと思う。
 「乳がん対策について」という章があり小林麻央(34)が、2014年に乳房のしこりを自分で見つけ医療機関に受診したところ「経過を見ましょう」といわれ、放置していたら、2016年になって「ステージ4の進行がん」と診断され、それから1年も経たないうちにがん死した事例が論じてある。

 せっかくの機会だから私見を少し述べたい。50年前、医学生の頃、がんについて教わったのは「がん細胞は最初に誕生した時から20年くらいかけてゆっくりと成長し、1cm大になると早期発見される。それ以後、放置しておくと悪性度が進行し、局所浸潤や遠隔転移を経て、全身に広がり個体の死をもたらす」というものだった。
 ところが1980年代に入り、がん遺伝子、がん抑制遺伝子が相次いで発見され、しかもそれらはヒトの細胞、全てにあることがわかった。ついで1995年頃「がん幹細胞」という特殊ながん細胞があり、これが浸潤・転移の主役をなすことが明らかにされた。

 転移の仕組みについては「エクソソーム説」が有力になってきている。
http://first.lifesciencedb.jp/archives/11957

 エクソソームというのは細胞質内に正常にある微細小胞で、最初に電子顕微鏡で見つかった時には「細胞内のゴミを集めて細胞外に放出するゴミ袋」と理解されていた。がん幹細胞にもエクソソームがあり、この小胞は血中に放出されている。
 これが臓器転移に大きな役割を果たす機構については、二つの学説がある。
 第一はエクソソームの膜表面にある細胞接着分子が臓器特異的で、血中のエクソソームが付着した場所(血管内皮など)に選択的にがん幹細胞の転移が起こるとする説。
 第二はエクソソームはまず骨髄に作用して、骨髄細胞を「教育」し、洗脳された白血球が転移すべき臓器に微小炎症を起こし、がん幹細胞の転移をここに誘導するという説。
http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/2012/20130129_01.html
 この2仮説は相互排斥の関係になく、おそらく二つの機構が共同することで遠隔臓器への転移が成立するのではないかと私は考えている。

 エクソソーム内には転写された普通のRNAだけでなく、マイクロRNAと呼ばれる長さ30塩基対程度の短いRNAが含まれており、タンパク質の生産量などを調節している。エクソソームは特異的な細胞接着分子で転移すべき場所にとりつき、普通のRNAとマイクロRNAを駆使して、その部位をがん幹細胞の転移に都合のよいように、突貫工事をおこなう。
 マイクロRNAにはがん特異性があるから、原理的には血液一滴を調べれば、「がん由来のミクロRNAがあるかどうか検出可能であり、どの臓器のがんに由来するか」も判定可能だ。いわゆる「液体生検(リキッド・バイオプシー)」がそれだ。

 近藤誠さんは『患者よ、がんと闘うな』(文芸春秋、1996/3)で、がんには診断時に「早期がん」でもすでに臓器転移している「スピードがん」と周囲に浸潤し、局所リンパ節転移がある「進行がん」でも、臓器転移のない「のんびりがん」があることを指摘した。(いわゆる「がんもどき理論」)
 小林麻央さんの乳がんのような例を見ると、これが「スピードがん」というものだ、と思わざるをえない。乳がんでも肺をすっ飛ばして、いきなり脳転移が表に出るようなケースもある。これを上手く説明できるのは「エクソソーム説」だと思う。
 私は近藤理論を基本的に支持するが「がん幹細胞説」を取り入れたらどうか、と進言したことがある。今はこれを取り入れているが、「エクソソーム説」を取り入れたら、より完璧なものになると思っている。


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