盗人宿

いまは、わかる方だけ、おいでいただければ。

燃え尽き症候群

2019-03-07 12:28:33 | にゃんころ
自家醸造の話は得意分野なので文章が次々に浮かびましたが、終わってみると次に何を書こうかなかなか思い浮かびません。

こういう時はまた、江戸の人たちの知恵を借りる事にしましょう。


ある店に久七という下男がおりまして、いたって人間が正直。
働き者なので主人夫婦のお気に入りとなり、かわいがられています。

ある日、主人が外出して家にはおかみさんがひとり。まだ歳は若い。
そこに居間の障子をすーっと開けて入ってきたのが久七。うつむきながら申し訳なさそうに、

 「あの、おかみさま、お恥ずかしいことながら、私の心底、包まず申し上げとうございます。
  どうぞお情けをもちまして、お聞き届けくださいまし……」

頼みはなんじゃい、なんて訊ねなくても大抵何しにきたのか、おかみさんは察しがついたのでしょう。
上目遣いで久七を見やる目のなんと艶っぽいことか。

 「かようなこと、お許しくださいますかどうか、もし許されなかったら、覚悟も致しておりまする」

久七の目は、何かを思いつめたように光っております。
かみさんは耳元まで桜色に染めて、

 「それほどまでに思うなら、また別の日にでも……」
 「いえ、旦那様もお留守で、このうえもない首尾にございます」
 「でも、ここでそのようなことを」
 「いえ、いま、ここで、ぜひお許しを」

いいながら久七、じりじりとにじり寄ります。

 「あの、おっつけてくださりまし……」

すっかり観念しですべて許してやろうと、おかみさんが帯に手をかけたその耳元で、

 「実は、ごはんをいただくのに、あなたがあまりに軽くくださるので、腹が減ってなりません。
  明日からどうぞもちっと、しゃもじでおっつけてくださりまし……」

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