将棋の藤井聡太八冠が、竜王戦で挑戦者の伊藤匠七段を4-0のストレートで破って防衛を果たしました。
伊藤匠といえば、小学生将棋大会の準決勝で藤井少年を破り、「藤井を泣かせた男」として知られています。
今回の竜王戦でも、予選リーグ5組から強豪を次々に破って挑戦者まで登り詰めた、まさに「藤井世代」を代表する(藤井とは同学年)強豪棋士です。
それが蓋を開けてみれば、藤井の圧勝。特に第3局は藤井自身が後手番ながら「うまく指せた」というほどの完勝。
そして迎えた第4局、互いの研究がうまく噛み合って、きのうの一日目で81手まで進む驚異的な速さでした。
ところがその81手目、藤井八冠の指した手は、誰もが驚く「2四飛」。相手の歩の前なのでいわゆるタダ捨てです。
ここで封じ手になったのですが、巷では「新手の実験か、あるいは自爆か」と騒がれました。
当然AIの評価値も、伊藤七段に60%まで触れました。
今朝の伊藤七段の封じ手も当然、その飛を取る2四同歩でしたが、そこから3二角成とした藤井竜王は次第に評価値を盛り返し、「一手でも間違えたら詰まされる」猛攻を的確に最善手で対応して、最後には37手詰めという恐ろしい攻めをひとつも間違えずに進めて相手を投了にまで追い込みました。
いちど藤井八冠に傾いたAIの評価値が再び伊藤七段に傾くことは、いちどもありませんでした。
タイトル戦19連勝は、大山康晴十五世名人の記録に並ぶ歴代最長です。
これで今年のタイトル戦はすべて終わり、後はJT杯の決勝と一般棋戦を残すだけになりました。
もしも変なところで星を落とすことがなければ、かつて中原誠十六世名人が記録した年間最高勝率0.855を上回ることになり、まるでメジャーリーグでイチローが試合に出るたびに数十年前の記録を次々に掘り起こして塗り替えたような、驚異の快進撃を続けています。
さて、この21歳にして将棋界の頂点に立つ若者から、誰がタイトルを奪取できるでしょうか。
もちろん伊藤七段は今回こそ跳ね返されたものの、数年後に捲土重来を果たす可能性は充分あります。
かつて藤井キラーといわれた豊島九段も、タイトル戦でことごとく敗れてしまいましたが、依然大きな壁であることは間違いない。
そして最先鋒は、永瀬九段でしょう。
年明け早々に行われる王将戦の挑戦者決定リーグで、永瀬九段はトップを狙える位置にいます。
このままいけば、先日行われた王座戦と同カードになるかもしれません。
普段は練習相手として互いの手の内を知り尽くし、互いを高め合ってきたこのふたりの対戦は、今後数年のゴールデンカードになるかもしれません。
もちろん物心ついた頃からAIがある環境で育った若手が、名乗りを上げる可能性も充分あります。
とにかく誰かが藤井八冠を止めないと、早ければ4年後に彼は「永世八冠」というとんでもない記録を立ててしまうかもしれない。
私が生きているうちにそれを拝んでみたい気持ちと、誰が八冠の一角を崩すかを見てみたい気持ちが交錯して、複雑な気持ちです。
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