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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-25-

2008年08月29日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者 古海めぐみ
       25
 中島の運転する軽トラの助手席に健太が乗ると、
バス通りに出てドラム缶橋の浮橋へ車を走らせた。
祐二と春は、サーブで神社の入口からバス通りへ出る
のに方向転換に手間取ってかなり遅れて湖岸沿いの道
へ出てきた。
歪曲した道で軽トラが見えなくなって、祐二はスピード
を上げてカーブを曲がろうとしたそのとき崖の向こうで
中島の軽トラが鳴らすクラクションがけたたましく聞
こえたと思った次の瞬間、突然崖道の陰からミニワゴン
が対向車線をはみ出て突進して来た。
慌てた祐二は、サーブのハンドルをきって湖面側の
ガードレールに一度ガリガリとかすって、暴走ワゴン
をかわすとカーブをやっとの思いで曲がった。
「バカ野郎!危ないだろっ!」
春ちゃんが横にいるのも忘れて上田祐二は、ナマの
感情を剥き出しにして罵声を発した。
夜の山道でスピードを出そうとしていた外車と狂った
ように猛進したワゴン車とが湖畔の狭いカーブで接触
しそうになりながらすれ違ったのだ。どちらもハンド
ルを持つ手がほんの数センチでも緩慢になっていたら、
正面衝突していてもおかしくなかった。
そんなギリギリの場面で助手席にいた猫田春は、すれ
違い様間近でミニワゴン車の運転席の男の姿を目にした。
あたかもストロボ分解写真のように目の前を強張った
色白の男の顔がガムを噛みながらハンドルをきって
後ろへ流れて行った。
しかし一コマだけ春と色白の男は目が合った。
春は、瞬時にシートベルトの胸がカチカチに凍った。
男の深い井戸のように暗い黒目が、その一コマの中で
笑ったように見えた。
あの男だ。
バールを振りかざして春を夜の菜の花畑で襲った、
あの男だ。
春は、カーブでダッシュボードに両手をついて体を
支えながらアリアリとその男の姿が甦って来た。すると
車がぶつかりそうだった恐怖よりもっと大きな懼れで
全身に鳥肌がたった。
「大丈夫?」
祐二が浮き橋が見える直線道路で安定走行に入って、
隣で俯いたまま固まっている春を見て云った。
「あの男だった。バール、持った、」
「何?」
「今すれ違った車、運転していた人ー。」
「あの男って、春ちゃん襲った変態男?」
と祐二は、車を停めた。
「間違いない。」
春はシートベルトを外して大きく息を吐いた。
祐二は、前進して橋の袂の広くなったスペースでUタ
ーンして、ミニワゴンを追いかけようとギアチェンジ
しようとしたが、春が祐二の腕をとって制した。
「あのスピードじゃ、もう追いつけないわ。」
「でも・・・」
「ちょっと息が苦しいの。」
とドアを開けて外へ大股でゆっくりとサーブから抜け
出した。サーブはプスンと言ってエンジンが切れた。
「おーい。」
浮き橋の渡り場から健太が走って来た。
「今逃げたワゴン車、何かドラム缶橋から湖に捨てて
逃げたぜ。」
祐二がキーを抜いて車から出てきた。
「あれ。あのワゴン車、運転していたの、春ちゃんを
襲ったヤツだって。」
「本当かよ。今のが、あの変態野郎ってか。」
春は、サーブの車体に凭れて小刻みに震えていた。
「確かか。春ちゃん。」
「あの、黒目、忘れられない。」
健太も祐二も春の震える唇が確信に満ちているのを
感じ取った。
「あんな、冷たくて、救いのない、暗い黒目って、
そうそうあるもんじゃないわ。」
闇空を見ていた春がようやく祐二と健太に顔を向けて
現在に戻ってきた。
祐二がサーブの後ろの席からテニス用の長袖のウェア
を取り出して春の背中にかけた。
「ミニワゴン、つうったっけ。変態男のも。」
健太の質問に青い唇で春は頷いた。
「そう云えばさ。あの車、ぼくらがここへ来る時青梅
街道で追い越して行ったやつだよ。」
祐二がそう言うと、健太もそれ、それとクイズ番組の
司会者が正解を出すみたいに手を顔の前で大きく振っ
て同意した。「でもなんでこんなとこに・・・」
「私もそれがわからないの。むしろその偶然の方が
気味悪くて・・・」健太の前まで歩いて春はしっかり
と両手で自分の両肩を掴んで呼吸を整えた。
「こんな寂しいとこでよりによって。」
春が空を見上げると、いつの間にか雲の割れ目から
三日月が顔を出して蒼い湖の上を低く照らしていた。
「あった!あったぞ。」
ドラム缶橋から下手に二十メートルほど離れた岸辺
で中島が叫んだ。
「ああ。あいつが捨てたダンボールだ。」
健太は、そう言って走り出した。
歩道から草が生い茂った岸へ行く健太を追って祐二
も春も後を追った。
 岸では中島がグラスファイバーの釣竿をいっぱい
に伸ばしてぷかぷか浮いているダンボールを引き寄せいた。
その異物は月明かりにキラキラと波うつ湖面にくっきり
とひとつだけ漂っていた。健太たちが合流した時点では、
中島がガムテープでしっかりと梱包されたダンボールを
両手で挟んで確保していたところだった。
「何ですか?」健太が屈みこんで言うのを黙って中島は、
箱のガムテープを剥がした。
「やっぱり。犬だ。」
祐二の背中から春が覗くと、ダンボールの口から顎の
ないチワワの硬い毛が見えた。
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お茶犬やき~シーちゃんのおやつ手帖61

2008年08月29日 | 味わい探訪
横浜ビブレ地下のフードコート内にお茶犬カフェがあります。
様々な味のお茶犬型の人形焼きや、ミニ鯛焼きが食べられます。
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