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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー幽霊屋敷11

2009年05月01日 | 投稿連載
幽霊屋敷 作者古海 充
     11
  今度は、シルバーの鍵がカチンと回った。
僕と秀人は、油臭いタツヤ兄ちゃんの両脇からそれ
ぞれ顔を出してその開かずの扉が開かれるのをカラ
カラに水分のなくなった喉に最後の唾を搾り出して
ゴクンと飲み込み、見つめた。
開いたべぇ。
兄ちゃんは、そううれしそうに言うとドアノブを引
っ張った。しかし長年開けられたことがないので壁
や屋根の重さもかかっているのか、ドア自体が歪ん
でいるのかぴったりとくっ付いてなかなか開かなか
った。
兄ちゃんは、とうとう両手でノブを掴むと片足を柱
にかけて思い切り引っ張った。
ガタンという音とともに音楽の時間に使う音叉棒み
たいに木のドアがぶるぶるるるんと震えて、壁枠か
ら外れた。
僕は、兄ちゃんの腕を握り、秀人は、兄ちゃんの太
ももに抱きついて中を覗いた。
書斎の中は、真っ暗でどのぐらい広さがあるのかさ
っぱりわからなかった。
タツヤ兄ちゃんがサーチライトを照らしながらドア
を全開に広げると、扉上部の桟からクモの巣が垂れ
て運動会の国旗みたいにひらひらと舞い上がった。
そして黴臭い湿った空気が激しい対流を起こして流
れ来た。
そしてライトに照らされたその光の帯の中を小さな
粒がびっしりと舞い飛ぶのが見えた。いつかテレビ
で見たアフリカの砂漠で大発生したイナゴの大群が
空を真っ黒に覆ってしまうあの光景に似てるなと思
った。
兄ちゃんは、自分の顔についたクモの巣が気持ち悪
く右手の指で何箇所も摘み取ろうとしていたがなか
なか取れなくて悪戦苦闘していた。その間ライトは、
書斎の中をぐるぐると宇宙を不規則に飛ぶアダモス
キー型UFOさながら駆け巡った。
僕は、どうしてここが幽霊屋敷としてみんなに噂さ
れ、失敗しても懲りずに冒険家が跡絶えない訳があ
くまで直感だがわかった気がした。
それは、すべてこの開かずの書斎があるためではな
いかと思う。
今見えた兄ちゃんのUFOライトが照らした天井と
いい、壁といい、本来は分厚いペルシャ絨毯だった
床といいどれも緑色のカビがびっしりと生えていて
まるで緑の部屋みたいだった。
言い換えれば緑の鍾乳洞と言ってもよかった。
そしてその緑の床や壁をムカデやシデ虫、シロアリ
が眩しい昼の明かりに慌てて散って行った。
ここは単なる湿った空気に閉ざされていたというよ
りもものすごく激しい霊気に満ちていて、この閉め
られた書斎の僅かな隙間から少しづつその霊気が漏
れていて洋館の屋敷全体に発散していたんだと理解
した。
僕は、ここは入ってたいけないところだと思った。
なによりも入りたくなかった。
「ほれ。壁だと思ってたの、みんな本棚だべ」
タツヤ兄ちゃんは、ライトをしっかりと照らしなが
ら書斎の中に入って行った。
「ほら。見てみろ。」
とカビと一緒にシダや蔦の葉が伸びている壁の緑の
葉と根を毟り取った。
確かに壁だったと思っていたところに一面本棚が天
井まで並んでいて、これが四方同じだとしたら図書
館みたいだ。
「入れ、お前らも。」
兄ちゃんは、入口の僕と秀人を照らしてすぐに緑の
床に明かりを向けてこの通り来いと暗黙で命令した。
ここで僕らは、兄ちゃんの言うことを聞かないわけ
むにはいかない。帰りを約束できるのは、タツヤ兄
むちゃんしかいないのだから。
尻込みする秀人と手をとり緑の絨毯を本棚のあると
ころまで恐る恐る進んだ。
兄ちゃんは、本棚から皮張りの大きな本を手にとっ
て表紙を見ていた。
「何?」
僕が言うと兄ちゃんは本の表紙を僕らに見せてくれた。
そこには、「北海道鉱山史序説」と書かれていた。
「このヤマモト洋館を建てたのは、道央で鉱山王と
言われた山元惣介という人だったんだべ。三菱大夕
張炭鉱開発が最後で、戦争中まではダムや橋の建設
に関わって大儲けしたそうだ。」
「もういないの。そのヤマモトソウスケさん」
「昭和19年と24年に大夕張で木橋が落ちる大事
故が連続して、鉄道開発も含めて鉄橋の架設が進め
られた。それに山元惣介翁が財力をつぎ込んで羽振
りが良かったが、炭鉱がダメになるとどんどん落ち
ぶれて山元興業は20年前に破綻してこのシューパ
ロ湖の別館だけが残ったっさ。惣介翁は、十年前に
死んでここは国有財産に没収されたとあかりちゃん
の父ちゃんの深田画伯から聞いたよ。」
「そうなんだ。それで鉱山や土木の本ばかりなんだ」
僕は、弱い自分のライトで緑の壁の本棚を照らした。
すると秀人が僕とタツヤ兄ちゃんの間に倒れかかっ
て叫んだ。
「誰かいる。デスクにー」



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旅の想い出

2009年05月01日 | 写真コラム
湖畔と駒ヶ岳。


駒ヶ岳の麓。
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