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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー若葉のころ16

2010年05月14日 | 投稿連載
若葉のころ 作者大隅 充
      16
 八戸自動車道は、大嵐のせいで速度制限されてい
てノロノロ運転に身を任せるしかなかった。八戸
から乗ってまもなくすぐに車列が止まってしまう。
 特に大型タンクローリーの後ろについていたので
先がどうなっているのか全くわからないまま私は、
カーラジオを天候情報を探してチューニングを切り
替える。雨は大粒の水槍になって降り落ちては、広
い道路を川のように流れていく。
 十分も動かないままでいると、前のタンクローリ
ーの茶髪の若い運転手が雨に打たれながら運転台の
窓から這い出てタンクの屋根に上って先を見通そう
と立ってしまう。私はAMの青森局にチューニング
を合わせて八戸自動車道の道路情報に耳を傾け、こ
の先六キロのところでトラックと乗用車の追突事故
が発生して散乱したトラックの荷物の除去作業を行
っているという渋滞原因を知る。ちょっどそのとき
路肩を救急車が走り抜けていく。このラジオの情報
を同じく耳にしたのか、タンクの上から事故現場が
見えたのか、前のタンクローリーの運転手が大きな
声でチェっと言うと唾を吐き捨てて屋根から下りて
又運転台へするりと入る。
 私は、FMにラジオを切り替えて湿った車内音楽
をに流す。しばらく待つしかない。
とにかく事故処理が終わって車が動きさえすれば家
に帰えることができる。音楽が松田聖子の赤いスウ
ィートピーになって、この暗い車内を少しは懐かし
くて明るいものにしてくれる。無意識に唇が歌を口
ずさんでいる。高校生の自分に戻って、あの校舎の
丘を吹き渡る夏の風を思い出す。
 しばらくして後ろのワゴン車から警笛を鳴らされ
る。見ると前のタンクローリーが十メートルほどゆ
っくり進んでいた。
 私は、慌ててアクセルを踏んでそろりと車を進め
る。しかしさっきまでと違ってタイヤがすごく重い。
どうも車が水を引っ張っている。それは、道溝の排
水が詰まっているらしく道路自体に水が溢れ、タイ
ヤの先が水に沈んでいるからだ。雨に霞んでいるが
福地パーキングエリアの標識がガードレールに立っ
ているのが見える。今度は反対斜線の路肩を高速パ
トカーが走っていく。
少しは事故処理が進んでいるらしい。車列も停まっ
ては動きを頻繁に繰り返す。
 ただ気になるのは、タイヤがより重くなっている
ことだ。道路の水かさが増している。雨は太陽を夜
の淵に落として闇空から泣き叫ぶように降ってくる。
ヘッドライトがお互いの車のお尻を照らしてタイヤ
の半分近くを洪水が飲み込んでいるのを目にする。
どこまでつづくのか。パーキングエリアまでくれば
水は少しは引いてくれるのではないだろうか。
 低く垂れ込めた黒い雲。
 大粒の雨とはげしい風。
 フロントガラスを打つ水の音。
 不機嫌な赤いスウィートピー。
 再び路肩をレスキュー車が脇を掠めてゆく。その
パトランプの赤い回転の鮮やかさがすっかり夜にな
ってしまったことを伝える。そしてほどなく車列は
ビタリと又止まった。
 もう何時間もこの道路に閉じ込められている気分
になる。右のわき腹がキリリと痛む。完全に停車し
たのでワイパーを止める。蒼い雨でガラスの前が見
えなくなる。私は、不意に支配人の言う女の言葉を
思い出す。
 ふざけないで!いい年して見っとも無いことしな
いで!
 若い「ワタケ」という綺麗な女の子。
輪竹由香しか思いつかない。しかし私が暴漢から助
けた子だから私を非難する筈がない。いったい誰な
のだろう。輪竹龍彦さんは独身の技術者で東京には
両親が外郭団体の職員で同じ職場の上と下の階で毎
日働いていると聞いている。私のことを話している
とは思えない。それに私は夫がいることを彼も知っ
ているし、年が違うがクラスメイトみたいな付き合
いしかしていないし、私の心の中のかなり深いとこ
ろへ彼が住みついてしまっていることは私自身でし
か知らないこと。彼だって私のことを親切なお姉さ
んとしか見ていないと思う。たとえもし探偵に依頼
してここ数ヶ月の私と輪竹さんとの付き合いを偵察
していたとしてもこの私と輪竹さんとの関係は、変
な憶測を呼ぶようなものには決して見えない筈。手
さえ握っていないんだもの。だからもしそんな輪竹
さんに関して嫉妬されたり、私を非難されたりする
ことなんてあり得ない。
 だとすればワタケという女と輪竹さんとは別人で
私のすみれという名前を誰か他の人と勘違いしてい
るとしか考えられない。
 私の心の中を覗くことのできる人しかそんな輪竹
さんに対する私の渦巻くトキメキを知ることなんか
できない筈だもの。
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ホイップるんのマカロン~シーちゃんのおやつ手帖137

2010年05月14日 | 味わい探訪
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