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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

スピーチバルーン 大滝詠一

2010年05月28日 | お宝テレビ館

この曲の後からバブルへ突進。
バブル狂乱の味を知らない子供たちが今多数。
かつて
「戦争を知らない」子供たちと言われたように。

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さすらいー若葉のころ18

2010年05月28日 | 投稿連載
若葉のころ 作者大隅 充
      18

 私と輪竹さんとが最初に会ったのは、4月も終わり
のゴールデンウィークの始まる前だったと思う。ひょ
ろりと痩せててボタンダウンのチェック柄のシャツに
ナイキの厚手のジャンバーを着て、一番南側のテーブ
ルに年配の作業服の水産庁の職員と座り、こちらがメ
ニューを渡す前に「ぼく、カレー」と注文して顔を上
げたとき眼を初めて合わした。少年のような澄んだ眼
をしていた。私はあのとき、輪竹さんの眼を見ると同
時に感じたゆれる感覚を今でも鮮やかに思い出す。
 あれ、この人昔から知っている。
 絶対子供時代どこかで逢ったハズ。
 だってはじめて会う人なのに懐かしいなんて。でも
よく考えると年が違いすぎる。
 子供時代といってもきわめて小さな幼少期。少なく
とも小学生低学年のころにとっても仲良く遊んでいた
友との柔らかくて至福の心象なのだ。そうすると十歳
は離れている私と彼ではあり得ない記憶になる。なら
ば幼い日の誰かと似ているのだろうか。それもそもそ
もそんな仲のいい幼馴染自体が存在しない。
「ここは眺めがいいですね。」
彼は、年配の職員がメニューと睨めっこしていつまで
も注文を決めかねている間に私に常連のようにニコニ
コして話かけてきた。白い歯が印象深かった。
 輪竹龍彦。彼が首から提げていたIDカードに顔写
真入りでそう書かれていた。水産庁のロゴがついていた。
「うん。展望レストランの特等席ですもん」私は、つ
い友達言葉になって返事してしまって、シマッタと思
ったが彼はまったくそんなことに気にするでもなく「
そうう。そうだよね。入り口に展望レストランって書
いてあったよね」と人懐っこく目尻をさげて、また清
潔な白い歯を見せて笑った。
「ここの裏がウミネコの繁殖地なんです。」
「へえ。そうう。今度見に行ってみよう。」
「水産庁の方ですか。」
と年配の作業服の職員の胸のバッチと輪竹さんのID
カードを見比べて私は切り出した。
「ぼく?ぼくは違います。海洋調査隊の研究員です」
 なるほど漁業関係者でも役人でもなくはたまた船乗
りでもない。あの、ラフでありながら几帳面な物腰は、
研究者と言われればそうかと納得する。後で彼がNP
Oの海洋地質調査財団の海底資源の研究者だったこと
を教えてくれて、やっぱりとその気性の純粋さを改め
て知った。
「あの、お姉ちゃん。俺、ほっけの焼き魚定食。食後
コーヒーで。」
 私と輪竹さんの会話を怪訝そうに眺めながら水産庁
の職員がやっとランチを注文した。私は、いつものレ
ストランの店員に戻って笑顔で注文を繰り返して、輪
竹さんにランチメニューを見せて忘れていた食後の飲
み物を選んでもらった。
「どれになさいます?」
「えーと。レモンジュースのシロップ抜きで。」
 それってレモン汁ってこと?
「はい。それでお願いします。」
 彼の白い歯は酸っぱいのも平気そうだった。
 それから一週間後に二回目に彼が一人で来たとき。
私は「食後はレモンジュースのシロップ抜きですね」
と合言葉のように彼の注文に言い添えた。
 そしてお店以外で私的に会ったのは、二ヶ月後の
一時帰京する前日だった。
 予てから約束していたウミネコの繁殖地がその最
初になった。マリエントの定休日である月曜の午後
私は輪竹さんと岸壁の遊歩道を降りて行き、そのウ
ミネコの群れ飛ぶ岩山の海岸を案内することになった。
 初夏の潮風は洗いざらしの彼の髪をサラサラと靡
かせて、キラキラとした太陽は彼の大きな瞳をより
純粋な輝きに変えて、野生の馬のように凛々しく波
打ち際に彼は立っていた。そう。28才の一人の男
というよりも一匹の艶やかな栗毛の野を走る馬とい
うのが彼に対する正しいたとえだと思う。彼は、海
洋調査のために二ヶ月から三ヶ月おきに東京の大学
と八戸の海上保安庁の寄宿舎を一年間行ったり来た
りして海洋地質調査の準備をしているということだ
った。
 だからこの日私が作って行った炊き込みご飯のお
弁当は、寮の食事に飽きていた彼には殊のほか好評
だった。
 そして輪竹さんとのデートには、私の手作りのお
弁当が必須になった。
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