古傷そにょ2

生まれて初めての事態に、軽くパニクるわし。痛みを感じる余裕などまるでない。事故そのものの衝撃より、学校に内緒で免許を取っていたこと、そして受験直前の大事な時期だったことで、警察沙汰になったら停学だ、とか今までの受験勉強がすべて水の泡に、とかそんな事で頭の中はあわあわ阿波踊り。顔面蒼白な運転手のおばさんが慌てて降りてくるのと同時に、車の後部座席の子供達が、火が付いたように一斉に泣き叫び始める。ただでさえパニクってる時に、それは駄目だ。子供の泣き声は、こっちの思考を完全に麻痺させるだけでなく、こっちが悪い事しちゃったような気にさせる力を持っているから、駄目なのだ。もう頭の中が完全にショートしたわしは、制止するおばちゃんを振り切って『たいしたことないですからぁぁ』と叫んでその場から逃げ出した。そして随分な距離を走ってから、手袋がもの凄い勢いで濡れて盛り上がってきているのと、アクセルを握っている感覚がほとんどないことに、ようやく気が付く。慌てて目に付いた薬局に飛び込み、消毒・止血と抗生物質で応急処置をしてもらう。『骨は大丈夫だろうけど、縫った方がいいからすぐ病院に行きなさいよー』と見送ってくれた店主に御礼は言ったものの、病院には行かなかった。病院から『足がつく』のを恐れたのだ。お前は看守を殺して脱獄した挙句にヤクザに撃たれて逃げ回っている逃亡犯か、と。足がつく、って。何をそんなに恐れていたのだ、と。そして病院に行かなかったばかりか、そんな馬鹿小心者受験生だったわしがその事故にあったのはそもそも、隣町の図書館に受験勉強をしに行く道程でのことだったのだが、薬局を出た後そのまま予定通り図書館に向かい、着席して参考書を広げて初めて『あ、指がウインナーすぎて鉛筆握れないや』などと悟ってすごすご帰宅したという、涙なくしては語れないほど間抜けな高三の冬の出来事だった。結局、薬を塗ってきつく縛り上げるという安直な方法で無理矢理治したのでこんな傷跡が残っている。今思えばあの運転手のおばさん、100%自分の不注意事故だったのに、警察に行くでもなければ保険を使うでもなく、幸運だったよなぁ。そしてそれから数年後、バイトに遅刻しそうになって信号無視して横断歩道をぜぇぜぇ走り抜けていたところをバイクに轢かれ、顔面蒼白なライダーを『すみませんでしたぁぁぁ』と振り切って右足血まみれになりながらもタイムカードを押しに行ったけどやっぱり遅刻で、わしの流血っぷりを見て店長が失神したという話はまた次回の講釈、なマスターなのでした。こんなに長くなるなら昨夜の時点で本カクにすればよかったなぁ。
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