医食同源 2013年5月1日発行号に掲載された記事です。
「甘いもの断ち」の実験は大成功だった。生理は、実にさわやかに通り過ぎていってくれた。腹痛もなく、暗い憂うつな一週間もなかった。まるでウソのような快適な数日だった。経血の色もきれいだった。それまでのどす黒い塊もなかった。
体験の力は大きい。食養の大切さを、しかと学ばせてもらった。そして本を読み、先達の話を聞き、料理教室に通い、その健康法を夢中になって学んでいった。
今、私の食卓にハンバーグやお刺身、チーズやハムなどは、ほとんど登場しない。今流のファッショナブルなご馳走に比べると地味な「おふくろ定職」のような食事である。でも、心底おいしい。体も心も満足してくれる。
両親を看取って一人になったとき、「ちゃぶ台カフェ」という遊びを始めている。訪ねて来る若い人たちにニッポンの伝統的な食事を饗しながら交流する場である。
「肉や魚、牛乳なしではタンパク不足になりませんか?」
「大丈夫。味噌、醤油、納豆や麩で、私の場合は十分間に合っているみたい。健康診断はオール合格だから」
「でも、今の子どもや若者には肉なしの食事は無理ではないでしょうか?」
「そうね。楽しみとして食べてもいい。ただし、肉には十分な野菜、魚には大根おろし、生姜というふうにバランス中和が大切。陰陽の調和といってね。今、怖い放射能も、この物差しで克服していけると思うよ」
「パンや牛乳はダメなんですか?」
「いいえ。欧米の人にはいいんです。ただ、温帯モンスーンという気候風土に住む私たちには、お米のほうが断然体に合うのです。身土不二といってね・・・」
「食べ物で健康が決まるという単純な論法には抵抗があるんですけど・・・」
「私も同じよ。息食動想(そくしょくどうそう)といって、健康は心身全体のものだから。どんなによい食事をしても、ストレスで血がよどんでしまうし」
「長生きをする人は腹八分目、こまめに動く、クヨクヨしないでゆったりと暮らすのがコツと言ってますものね」
話は食べ物を切り口に、農薬や環境汚染のこと、漢方や東洋医学の世界まで広がっていく。「日本人の体は死んでも腐らないそうよ。たくさんの防腐剤が入っているから」と言うAさんのジョークにみな複雑な表情になる。
悲観的な憂国感情にとらわれてしまうこともあるが、若い人は明るい。「ほら、置かれた場所で花を咲かせなさいと言うでしょ。まず、一人ひとり足元からできることをしようよ」『ちゃぶ台カフェ』のスローガンで締めくくる。
● クルマを降りて、歩こう
● お日様と一緒に起きよう
● 旬(しゅん)の曲がったキュウリを食べよう(夏の場合)
● おばあちゃんの暮らしの智恵に戻ろう ・・・などなど。
『ちゃぶ台塾』の塾長として偉そうなことをを言う私であるが、今も甘いお菓子の頂き物があると、いっときの快楽に落ちることがある。しかし、体は正直に、優しくたしなめてくれる。胃荒れや鼻づまりとなって。どうも百になるまで、私の食い改めは続きそうだ。
(終わり)
「甘いもの断ち」の実験は大成功だった。生理は、実にさわやかに通り過ぎていってくれた。腹痛もなく、暗い憂うつな一週間もなかった。まるでウソのような快適な数日だった。経血の色もきれいだった。それまでのどす黒い塊もなかった。
体験の力は大きい。食養の大切さを、しかと学ばせてもらった。そして本を読み、先達の話を聞き、料理教室に通い、その健康法を夢中になって学んでいった。
今、私の食卓にハンバーグやお刺身、チーズやハムなどは、ほとんど登場しない。今流のファッショナブルなご馳走に比べると地味な「おふくろ定職」のような食事である。でも、心底おいしい。体も心も満足してくれる。
両親を看取って一人になったとき、「ちゃぶ台カフェ」という遊びを始めている。訪ねて来る若い人たちにニッポンの伝統的な食事を饗しながら交流する場である。
「肉や魚、牛乳なしではタンパク不足になりませんか?」
「大丈夫。味噌、醤油、納豆や麩で、私の場合は十分間に合っているみたい。健康診断はオール合格だから」
「でも、今の子どもや若者には肉なしの食事は無理ではないでしょうか?」
「そうね。楽しみとして食べてもいい。ただし、肉には十分な野菜、魚には大根おろし、生姜というふうにバランス中和が大切。陰陽の調和といってね。今、怖い放射能も、この物差しで克服していけると思うよ」
「パンや牛乳はダメなんですか?」
「いいえ。欧米の人にはいいんです。ただ、温帯モンスーンという気候風土に住む私たちには、お米のほうが断然体に合うのです。身土不二といってね・・・」
「食べ物で健康が決まるという単純な論法には抵抗があるんですけど・・・」
「私も同じよ。息食動想(そくしょくどうそう)といって、健康は心身全体のものだから。どんなによい食事をしても、ストレスで血がよどんでしまうし」
「長生きをする人は腹八分目、こまめに動く、クヨクヨしないでゆったりと暮らすのがコツと言ってますものね」
話は食べ物を切り口に、農薬や環境汚染のこと、漢方や東洋医学の世界まで広がっていく。「日本人の体は死んでも腐らないそうよ。たくさんの防腐剤が入っているから」と言うAさんのジョークにみな複雑な表情になる。
悲観的な憂国感情にとらわれてしまうこともあるが、若い人は明るい。「ほら、置かれた場所で花を咲かせなさいと言うでしょ。まず、一人ひとり足元からできることをしようよ」『ちゃぶ台カフェ』のスローガンで締めくくる。
● クルマを降りて、歩こう
● お日様と一緒に起きよう
● 旬(しゅん)の曲がったキュウリを食べよう(夏の場合)
● おばあちゃんの暮らしの智恵に戻ろう ・・・などなど。
『ちゃぶ台塾』の塾長として偉そうなことをを言う私であるが、今も甘いお菓子の頂き物があると、いっときの快楽に落ちることがある。しかし、体は正直に、優しくたしなめてくれる。胃荒れや鼻づまりとなって。どうも百になるまで、私の食い改めは続きそうだ。
(終わり)