兄の不思議な出来事から玄米菜食の世界へ
「元気ねぇ、あなたは百までも生きるよ」と、友人にからかわれる。「わぁ、大変だぁ。それじゃ、あと三十年もあるわ」と大げさに応じる。お世辞を半分差し引いても、うれしい言葉だ。親譲りの腰曲がりも目立ってきたが、病院と縁のない老後を迎えたことをありがたく思う。もともと、私はあまり丈夫な体ではなかった。学校や職場を休むことも多く、「Iさんは弱い」というレッテルを貼られていた。それが、百歳まで生きそうな体になったのには、一つの転機があったのである。
三十五歳のときである。「玄米菜食」という自然食を知ったのだ。玄米をメーンとし、野菜や海草、そのほかを副菜とする食生活である。今では「マクロビオティック」という呼び名で広く知られるようになり、都市部では健康にいいオーガニックレストランとして急速に増えていると聞く。私がこの食養法を知った四十年前は、一部だけのマイナーな世界であった。「玄米と野菜だけ?鳥のエサみたい」とか、「あんなまずいものを食べているのか」などと笑われ、変人扱いされる時代だった。
そんな風変わり?な食事に入るきっかけは兄にあった。兄の体に起こった不思議な出来事から端を発する。当時、兄は重い蓄膿症を患っていて、病院からは手術を勧められていたが、それを玄米食で治したのである。そのことは周りを大いに驚かせた。そのいきさつは、こうである。実は、兄は高校時代に蓄膿症にかかり、鼻の手術をしている。鼻の手術は相当な痛みを伴うらしい。そのつらさを嫌というほど味わったため、再発したとき、手術回避の方法を調べに調べ尽くしたそうである。そして、一つの道として玄米食を知る。早速、町で唯一の自然食品店に足を運び相談したところ、オーナーのKさんにきっぱり言われたという。「Iさん、食事で体質改善をしなければ、手術をしてもまた繰り返しますよ。どうですか、私にだまされたと思って、一ヶ月試してみませんか?」兄はそのことばに従って、食事療法に取り組んだのである。一日二食。一汁一菜とたくあん、梅干し、大好きなタバコはもちろんのこと、肉も魚もコーヒーもご法度。空腹との闘いだったという。しかし、この修行僧のような食事をまじめに実行して一カ月。驚くことに、蓄膿の症状があらかた消えてしまった。痛み緩和に「ビワの葉温灸」という手当をし、三カ月目には完全に治ってしまった。
「食べ物が病気を治す」…逆に言えば「口から入れるものが病気をつくる」という事実を目の当たりにし、私の食事革命「食い改め」が始まることになる。
(つづく)
「元気ねぇ、あなたは百までも生きるよ」と、友人にからかわれる。「わぁ、大変だぁ。それじゃ、あと三十年もあるわ」と大げさに応じる。お世辞を半分差し引いても、うれしい言葉だ。親譲りの腰曲がりも目立ってきたが、病院と縁のない老後を迎えたことをありがたく思う。もともと、私はあまり丈夫な体ではなかった。学校や職場を休むことも多く、「Iさんは弱い」というレッテルを貼られていた。それが、百歳まで生きそうな体になったのには、一つの転機があったのである。
三十五歳のときである。「玄米菜食」という自然食を知ったのだ。玄米をメーンとし、野菜や海草、そのほかを副菜とする食生活である。今では「マクロビオティック」という呼び名で広く知られるようになり、都市部では健康にいいオーガニックレストランとして急速に増えていると聞く。私がこの食養法を知った四十年前は、一部だけのマイナーな世界であった。「玄米と野菜だけ?鳥のエサみたい」とか、「あんなまずいものを食べているのか」などと笑われ、変人扱いされる時代だった。
そんな風変わり?な食事に入るきっかけは兄にあった。兄の体に起こった不思議な出来事から端を発する。当時、兄は重い蓄膿症を患っていて、病院からは手術を勧められていたが、それを玄米食で治したのである。そのことは周りを大いに驚かせた。そのいきさつは、こうである。実は、兄は高校時代に蓄膿症にかかり、鼻の手術をしている。鼻の手術は相当な痛みを伴うらしい。そのつらさを嫌というほど味わったため、再発したとき、手術回避の方法を調べに調べ尽くしたそうである。そして、一つの道として玄米食を知る。早速、町で唯一の自然食品店に足を運び相談したところ、オーナーのKさんにきっぱり言われたという。「Iさん、食事で体質改善をしなければ、手術をしてもまた繰り返しますよ。どうですか、私にだまされたと思って、一ヶ月試してみませんか?」兄はそのことばに従って、食事療法に取り組んだのである。一日二食。一汁一菜とたくあん、梅干し、大好きなタバコはもちろんのこと、肉も魚もコーヒーもご法度。空腹との闘いだったという。しかし、この修行僧のような食事をまじめに実行して一カ月。驚くことに、蓄膿の症状があらかた消えてしまった。痛み緩和に「ビワの葉温灸」という手当をし、三カ月目には完全に治ってしまった。
「食べ物が病気を治す」…逆に言えば「口から入れるものが病気をつくる」という事実を目の当たりにし、私の食事革命「食い改め」が始まることになる。
(つづく)