先日、現代の住宅寿命における問題に対して、「定住」と「住み替え」という切り口のセミナーを聴講してきた事をレポートしました。
それとは別に、全国には「重要伝統的建造物群保存地区」という古い街並みが比較的良好に残っていて、積極的に保存・維持している地区があります。私も学生時代に、近江八幡市や奈良井宿、佐原市などを巡り、古い建物を研究テーマにしていました。実際に、間取りや動線などの設計スタイルは、この古い建物の影響を受けています。
ところで昨日まで私はETCの恩恵を受けて福井県の方まで行ってましたが、福井県には「日本最古の天守を持つ丸岡城」、「禅の里 永平寺」など有名な建物が多数あります。
当時から価値のある建物の見学は、その技術に感心させられてばかりですが、私が今回どうしても訪れたかったのが「一乗谷朝倉氏遺跡」です。
技術的な観点とは別に、私が「一 住宅の設計士」として一番興味を惹かれ、影響を受けているのが「普通の生活(住宅)」です。
一乗谷朝倉氏遺跡は町の規模が南北に3km、東西に500mで、町の歴史も103年と決して大きなものではありません。いわゆる重要伝統的建造物群保存地区の様な商家町や宿場町と言った都会ではなく、ほんと当時のボリュームレベルとも言える小さな街並みが復元されています。
復元というのは、織田信長に敗れた後、町をすべて焼き払われた為で遺跡調査に基づいて町が復元されています。
103年という歴史ですが、その町は5代に渡って住み継がれました。その地で「定住」し、「住み継がれて」来たわけです。
建物1軒1軒は、住んでいた人の職によって多少の違いはありますが、基本的には土間があって、脇に茶の間と寝間があり、土間を通り抜けると庭に厠と井戸があるだけの小さくて簡単な間取りです。店舗専用で住宅は別にあったとの話も伺いましたが、いずれにしてもとにかく単純です。
ただ、簡単に単純ではありません。街並みを眺め、建物を眺めるほどに、動線的に整理された完成形が「小さくて単純」なんだと分かります。
これは、規模が違えど他の重要伝統的建造物群保存地区の建物にも言えますし、京都の太秦撮影所の建物にも同じ事が言えると思います。
そこには「コンパクト」と「単純」という要素があるわけですが、「コンパクト」である事は何よりもメンテナンスが楽である事が挙げられます。日常の掃除から長いスパンでの補修まで、コンパクトであればある程、生活の負担は抑えられます。また、「単純」である事は使い勝手がいい事、更に空間がフレキシブルで多用途である為に、1日の中での使い勝手や時節毎の使い勝手まで広くをカバーできています。
いかかでしょうか。
長期優良住宅の制度がスタートし、住宅寿命を伸ばすための性能規定が定められました。ハウスメーカーでは、税制上の優遇措置や補助金を受けられるその制度を活用するために仕様を規定して販売が始まっています。
制度を利用する事で、住宅の性能が上がり、補助金などの優遇措置が受けられる事は素晴らしい事ですが、住宅の寿命を延ばす本質はそれだけではありません。
間取りや使い勝手がその家族の「普通の生活」に対応できてこそ「住み継がれて」いき、住宅寿命を延ばす事が出来るんだと思います。
そして、「普通の生活」を理解して、その中で個性を光らせるのが現代の設計士の仕事だと思います。
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