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新潟市の住宅設計事務所ネイティブディメンションズ=狭小住宅や小さい家、構造計算、高気密高断熱が好きな建築士のブログ

「定住」と「住み替え」

2009-09-28 19:12:03 | こだわり設計

先日、住宅技術評論家の南雄三先生のセミナーに行って来ました。

今年、長期優良住宅が施行されましたが、先生は数年前から家の価値についてのお話をされていて、そのお話を聞く事が出来ました。

セミナーの概要は、「日本における住宅の価値観」と「欧米における住宅の価値観」の違いがベースになっています(と思います)。結論として、欧米的な価値観や施策を持つ(実施する)事で日本の住宅寿命が延びるという事ですが、そもそも文化の違いが根本にあり、素直に日本人が受け入れられるかという課題があるように思えました。ただそれだけに、住宅業界だけでの話ではなく、個人が一度考えてみて、どんな感想や意見を持たれるのか興味がありますので、ご紹介したいと思います。

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まず日本の住宅文化ですが、家を建てる時は「夢のマイホーム」。人生一世一代の大仕事で、世界にたった一つの家づくりを夢見ます

つまり、基本的には「定住」する事を前提で家づくりを考えます。この家で子供が生まれて成長して、やがて子供が独立して、再び夫婦の生活に戻る。

ごくごく当たり前のプラン(夢)ですがここで指摘されていたのは、

・世界にたった一つだけの家づくりをするばかりに、街並みの景観は雑然とし、夢のマイホームであっても、夢にあふれる街並みには見えない事。

・夢のマイホーム作りでありながら住み始めると借金生活のスタートで、家の価値と言えば年々下がるばっかりで、借金が終わる頃には、家の価値もなくなっている。

・夢のマイホーム作りのスタートは、「アパートの家賃を払うなら、住宅ローンを借りて家を建てた方がいい」という理由の場合があり、その時の体力が定住する家の形となる為、その内、自分たちの生活に合わなくなる。

・新しい団地等が造成されると、同年代の新しい家庭が増え活気に溢れるが、時が進むと高齢者層タウンになってしまう(これは、町内会レベルの話ではなく、例えば多摩ニュータウンや東京の三鷹市などの大規模な団地の事を言っていて、住人が若い世代の時は税収に問題ありませんが、その住人が一斉に定年を迎えると税収が減るばかりでなく福祉の負担が増えて、行政が2重苦の負担を負ってしまう事を言っています。いわゆる団塊世代の2007年問題です)

そして、日本の家は短命である事がたびたび指摘されます。住宅の平均寿命が26年と言うのは、先進国では断トツの短さです。しかし、先生は短命の原因を考えると決して性能が悪いからとは言い切れないとの事。と言うのも、ほとんどの方が自然に家が崩れ落ちる姿なんて見たことないからです。寿命が短い(住宅を建て替える)のは、生活に合わなくて、飽きたからという事です

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そして、日本の住宅事情の問題点を解消する為にいくつかの欧米の事例が紹介されました。

・欧米の住宅事情は、新築市場よりも中古市場の方が活発です。理由は、「定住」の文化ではなく「住み替え」の文化だから。生活スタイルが合わなくなれば、生活スタイルに合った住宅に買い替えます。アメリカでは、住み替えのペースが5年に1度とも言われています。

まず日本じゃ考えられませんが、これを可能にしている理由が住宅は投資の一部という考え方です。例えば、2000万円で購入した住宅が2000万円で売れたとしたら。さらに、3000万円で売れたら1000万円の儲けになります。これなら、住み替えは可能です。

日本では、メンテナンスやリフォームは現状維持+α程度ですが、欧米では高く売却する為の投資としてリフォームが行われます。

これを可能にするのがリバース モーゲージローンやノンリコース ローンと言われる金融面での仕組みです。

・リバース モーゲージローンとは、家を担保にして毎月融資をもらい続け、死亡した際に家を売却して清算する仕組みです。例えば、住宅を住み替え続ける事で、儲けが出て、その儲け分で最後の家を買い、その家を担保にして融資を受ければ、年金がなくとも生活が可能で、かつ、死んだ際に住宅を売り払えば、借金が残りません。つまり財産も残さなければ借金も残さない生活スタイルと言えます。

・融資を受けてから万が一破産した場合、日本では絶望しか残りませんが、ノンリコース ローンの場合、あくまでも貸し手(銀行)が住宅の価値に対して融資を行うので、自己破産した場合、個人に返済義務は残りません。あくまでも貸し手側が責任を取る事になります。

この二つの仕組みは、日本では考えられない都合のいい様な話に受け取れますが、アメリカではごく当たり前の仕組みであり、これがあるからこそ、住宅寿命が60年以上あるという事です。

また、住宅からは話が逸れますが、ヨーロッパでは福祉が非常に充実して、かたや、日本では老後の生活に不安があり、貯金する事で自ら安心を確保します。但し、ここで言うヨーロッパの福祉とは、介護の事を指しません。あくまでも寝たきりになる前の段階での福祉が充実しています。医療費をただにして健康第一である事が福祉のテーマになっています。要は、寝たきりになれば一番お金がかかるので、医療費をただにする事で寝たきりを防ぎ、みんなが元気に働けば、国も所得税収入が得られるという考えで、老後に不安がなく、元気に過ごせれば貯金する必要もなく経済が回る仕組みを作り出しています。

先生は、長期優良住宅が施行されたものの、この様な資産価値を生み出せる仕組みが今後必要になるし、さらにその価値を落とさない為のデザインや一過性の流行やメーカーの独りよがりなオリジナル工法に捉われない住宅全体の標準化が必要とも語っていました。

≒3時間30分のセミナーだったので、もう少し細かな話もありましたが、まとめるとこんな感じです。

いかがでしょうか。

私の感想ですが、モーゲージ ローンやノンリコース ローン等はサブプライムローンで視えた問題点を消化しつつ、日本でも取り入れてくれたらと思いますし、国交省告示208号で、モーゲージローンについては触れられているので、現実的な話と期待しています。

住宅寿命の短さについては、「生活が合わなくなり飽きたから」とのことでしたが、戦後、産業が発達する為にはやむを得ない事だったと思いますし、今こそが長命住宅を普及させるスタートラインにいるんだと思います。

定住か住み替えかは施策ではなくて個人の考えなので、先祖代々の土地を守るのも正解ですし、生活スタイルに合った住み替えも正解だと思います。どちらにしても、飽きさせない家であれば資産価値のある住宅に繋がると思うので、私の設計が今後のストック型の住宅として残せていければと感じたセミナーでした。


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