朝。
まず座れることのない朝の列車内において、鈴木は立ち位置を決めている。
それはドア横もしくはシルバーシートの端、つまり連結部分の際である。
上記は優先順でもあるのだが、先日はドア横に先約ありだったため、流れ流れて連結の際まで流れ着いたちょっと残念な鈴木である。
まあ、そんな時でも車内はとかくおもしろい。
鈴木の車内暇つぶし三大アイテムとして
音楽・本・人間観察
が挙げられるが、中でも三つ目の
「人間観察」
は、その素材さえ充実してれば時間がほんとにあっ!という間に過ぎてゆく。
人混みや雑踏はネタの宝庫だったりするので、ちょいと長い片道75分の車内の時間は鈴木にとって少々外せない時間なのである。
さてさてその日は、小田急線の某駅から勢いよく隣の車両に乗り込んできたギャル一名をロックオン。
気になる要素が1つあれば、取りあえず見守る…それが鈴木式だ。
そのギャル、イヤホンをあわただしく装着しながら高いヒールをガコガコ言わせ騒がしく乗車してきた。まるでルパンみたいな脚の形になっちゃっててきつい。ついでに無表情だ。
これが瀬戸内寂聴さんみたいなお顔立ちなのだが、笑顔がない上に不機嫌顔に近い。
ちなみに顔は土色だ。
ギャルは、そんな覇気のない表情とはうらはらに人混みをダダダとかき分け、鈴木の向かいの連結部分に寄っかかって止まった。
ドアがないため、連結部分を隔ててギャルと対峙してしまった鈴木。
50センチ前に寂聴さん似の土色ギャル(薄幸そう)。
もう見るしかない。
まるまるノーメイクのこのギャルは、定位置につくないなや斜めがけカバンを前にグルッ!と回した。
「これは…」
鈴木の予想はこうだ。
「メイクだね」
車内メイク観察は、使用前・使用後だけおさえておけば十分なため、使用前の姿を目に焼き付けておく。
激しく音漏れするヘッドホンからは、浜崎あゆみがガンガン流れ、髪は比較的サラサラの茶髪でロング、ミニスカワンピと靴は黒。汚い感じではない。顔から手足までまんべんなく日焼けしており、これは
「日サロ。」
と、どーでもいいことまで観察する。
しかし…ここからが問題だった。
続いてジッパーをビャーっと開けたギャル。そのカバンの開口部からドバッ!と出てきた光景にビックリ…!
一見してなんかきたないのだが、メイク道具というメイク道具の数々が開口部までギチギチに、はたまた乱雑に詰め込まれていたのだ。
ひっくり返ってごっちゃごちゃである。
そんな、日本海の渦潮みたいなメイク道具に哀れを感じながらもハッとした鈴木。
「メイクの表面張力や…」
と心の中で呟いた。
なぜなら、ギャルがおみくじのように手を突っ込んでメイク道具を引っ掻き回しても落ちないその荒波の数々!
ドキドキの鈴木。
「うわぁ~…」
抱えたカバンは結構大きいのだが、よくよくみると雑多なメイク道具のはしっこに、どうやらコスメポーチの「蓋」らしきものがチラッと見えた。
もはや蓋は閉まるわけもなくなんとも無慈悲。
鈴木の目が、半目になる。
更には、そのチラ見えしたポーチの色にギックリして二度見!
もともと白地に黒のモノグラムだったであろうその地の色は、今や
「草木染め」
を彷彿とさせるマダラっぷりである。
「き、きたない!」
ビニール製にも関わらずここまでの色を出すとは…幾年月かかったものか…
視点が遠くなる。
「もしやこのギャル、もと汚ギャル…?」
懐かしい単語がよみがえる中、よくよくみたらさらにすごいものを発見した!
スポンジである。
何にも包まれず、メイクの海から生身でとりだされた。
「…汚い!!」
続いてとりいだしたるリキッドファンデーションは、よく使うからかメイクの山の頂点に乗っかっていたが…
キャップがない。
よって、当たり前だがリキッドが出ちゃっており、プッシュする部分たるやシャンパンタワーならぬ
「ファンデーションタワー」
なんである。
見てはいけないものを見てしまった衝撃はでかく
ひゃああ~
っと引いた鈴木の視界にフレームインしてきたのは、本体のカバン。
斜めがけしたカバンは、黄土色のゼブラ的な柄だと思っていたが、よーくみればそれまた草木染め、つまり
「汚れ」であった…
ぐあああ…
とばかりに更に引いた鈴木は、ギャルが左手にしている時計の革のバンドが裂けているのも発見。
「もうダメだァ~」
呆れ果てた見納めにと、おギャルのお顔を見てみたらおメイクは完成していた。
アイラインが、目の中央だけいやに高く描かれていた。
「…?」
なんか不可思議な顔に何がおかしいのか気づくまで数秒。
原因はアイラインであった。
黒く塗られた目の上は、
横から見た甘食
みたいなフォルムのラインがくっきり。鈴木は目の上の変な形の黒い山を静かに眺め、これがホントの絶句しだよ、に陥った。
「目の上に富士山がついていますよ」
溜息を漏らしながら、残念な観察を終えた。
まず座れることのない朝の列車内において、鈴木は立ち位置を決めている。
それはドア横もしくはシルバーシートの端、つまり連結部分の際である。
上記は優先順でもあるのだが、先日はドア横に先約ありだったため、流れ流れて連結の際まで流れ着いたちょっと残念な鈴木である。
まあ、そんな時でも車内はとかくおもしろい。
鈴木の車内暇つぶし三大アイテムとして
音楽・本・人間観察
が挙げられるが、中でも三つ目の
「人間観察」
は、その素材さえ充実してれば時間がほんとにあっ!という間に過ぎてゆく。
人混みや雑踏はネタの宝庫だったりするので、ちょいと長い片道75分の車内の時間は鈴木にとって少々外せない時間なのである。
さてさてその日は、小田急線の某駅から勢いよく隣の車両に乗り込んできたギャル一名をロックオン。
気になる要素が1つあれば、取りあえず見守る…それが鈴木式だ。
そのギャル、イヤホンをあわただしく装着しながら高いヒールをガコガコ言わせ騒がしく乗車してきた。まるでルパンみたいな脚の形になっちゃっててきつい。ついでに無表情だ。
これが瀬戸内寂聴さんみたいなお顔立ちなのだが、笑顔がない上に不機嫌顔に近い。
ちなみに顔は土色だ。
ギャルは、そんな覇気のない表情とはうらはらに人混みをダダダとかき分け、鈴木の向かいの連結部分に寄っかかって止まった。
ドアがないため、連結部分を隔ててギャルと対峙してしまった鈴木。
50センチ前に寂聴さん似の土色ギャル(薄幸そう)。
もう見るしかない。
まるまるノーメイクのこのギャルは、定位置につくないなや斜めがけカバンを前にグルッ!と回した。
「これは…」
鈴木の予想はこうだ。
「メイクだね」
車内メイク観察は、使用前・使用後だけおさえておけば十分なため、使用前の姿を目に焼き付けておく。
激しく音漏れするヘッドホンからは、浜崎あゆみがガンガン流れ、髪は比較的サラサラの茶髪でロング、ミニスカワンピと靴は黒。汚い感じではない。顔から手足までまんべんなく日焼けしており、これは
「日サロ。」
と、どーでもいいことまで観察する。
しかし…ここからが問題だった。
続いてジッパーをビャーっと開けたギャル。そのカバンの開口部からドバッ!と出てきた光景にビックリ…!
一見してなんかきたないのだが、メイク道具というメイク道具の数々が開口部までギチギチに、はたまた乱雑に詰め込まれていたのだ。
ひっくり返ってごっちゃごちゃである。
そんな、日本海の渦潮みたいなメイク道具に哀れを感じながらもハッとした鈴木。
「メイクの表面張力や…」
と心の中で呟いた。
なぜなら、ギャルがおみくじのように手を突っ込んでメイク道具を引っ掻き回しても落ちないその荒波の数々!
ドキドキの鈴木。
「うわぁ~…」
抱えたカバンは結構大きいのだが、よくよくみると雑多なメイク道具のはしっこに、どうやらコスメポーチの「蓋」らしきものがチラッと見えた。
もはや蓋は閉まるわけもなくなんとも無慈悲。
鈴木の目が、半目になる。
更には、そのチラ見えしたポーチの色にギックリして二度見!
もともと白地に黒のモノグラムだったであろうその地の色は、今や
「草木染め」
を彷彿とさせるマダラっぷりである。
「き、きたない!」
ビニール製にも関わらずここまでの色を出すとは…幾年月かかったものか…
視点が遠くなる。
「もしやこのギャル、もと汚ギャル…?」
懐かしい単語がよみがえる中、よくよくみたらさらにすごいものを発見した!
スポンジである。
何にも包まれず、メイクの海から生身でとりだされた。
「…汚い!!」
続いてとりいだしたるリキッドファンデーションは、よく使うからかメイクの山の頂点に乗っかっていたが…
キャップがない。
よって、当たり前だがリキッドが出ちゃっており、プッシュする部分たるやシャンパンタワーならぬ
「ファンデーションタワー」
なんである。
見てはいけないものを見てしまった衝撃はでかく
ひゃああ~
っと引いた鈴木の視界にフレームインしてきたのは、本体のカバン。
斜めがけしたカバンは、黄土色のゼブラ的な柄だと思っていたが、よーくみればそれまた草木染め、つまり
「汚れ」であった…
ぐあああ…
とばかりに更に引いた鈴木は、ギャルが左手にしている時計の革のバンドが裂けているのも発見。
「もうダメだァ~」
呆れ果てた見納めにと、おギャルのお顔を見てみたらおメイクは完成していた。
アイラインが、目の中央だけいやに高く描かれていた。
「…?」
なんか不可思議な顔に何がおかしいのか気づくまで数秒。
原因はアイラインであった。
黒く塗られた目の上は、
横から見た甘食
みたいなフォルムのラインがくっきり。鈴木は目の上の変な形の黒い山を静かに眺め、これがホントの絶句しだよ、に陥った。
「目の上に富士山がついていますよ」
溜息を漏らしながら、残念な観察を終えた。