Storia‐異人列伝

歴史に名を残す人物と時間・空間を超えて―すばらしき人たちの物語

トマシーナ ー ポール・ギャリコ

2014-02-13 22:07:24 | ねこちゃん
トマシーナ (創元推理文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社

 

ジェニィさんのあとは、あたしトマシーナのところに寄ってくれたってわけね。ジェニィがその後どうなったかは、ヒ・ミ・ツだけど、しあわせな結末だったはずよ。はっぴいえんどというバンドがあったわね、カァゼーを~を、あつめてぇ~、でも大瀧さんもどっかへ行ってしまったのね、二月はあんまりいい月じゃないんでしょ、のり坊くん。きょうなんか、おとうさまの命日じゃない、おせんこぐらいあげたの?もういいや、じゃないってば。なごんちゃんに叱られてつまんないのも、いいかげんにしないと・・・あたし、トマシーナの物語いっきによんで、どうだった?

そう!、そうなの、おしまいには、すばらしいひとに変わって行くじゃない、文字だけ読んでも映画観たような気になったでしょ、スコットランド西部、海と森と渓谷とそこで暮らす高地人たち、音楽や、小鳥のさえずりや、ひとたちやけものたちの大騒ぎの声まで聞こえて来て、街で生まれたあたしだけど、I was born in the city ・・・自然と田園はほんとに豊かなものよ。それよりなにより、トマシーナのこのものがたりは、生きとし生けるものの「たましい」のお話なの、これはこころの救済のものがたりなのね・・・Redemption song・・・

あたしが、はじめのほうでした自己紹介みれば、おもな登場人物と登場動物(!)もわかるでしょ、三人組のお友達少年もいたわね、それと肝心な魔女っ子おねえさん。このお話、時は西暦1957年だから、ジェニィからは猫でいうと二世代ぐらい下なの。でもあたしは、時空を超えて、じつは紀元前1957年のエジプト第十二王朝、ブバスティスの猫の女神だったかもしれないことよ・・・スコットランドはテリアたちの生まれ故郷、日本の柴いぬゲンちゃんもこのあいだ雪の中で遊んでたでしょ・・・犬たちって救いがたいほど、能天気なのね・・・ま、それは、どうでもいいわ・・・

>>>>「トマシーナ ポール・ギャリコ/山田蘭訳 創元推理文庫」より引用

 あたしもまた大叔母(ジェニィ)のように、めったにない冒険を経験したの。少なくともあたしの身に起きたのは、このうえなく興味ぶかい不可思議な出来事だったといっていいわね。
これ以上もったいぶるつもりはありません。これは、殺害にまつわる物語なの。
ただ、そこらで読まれている殺しについての本とちがうのはーー 殺されたのが、このあたしだということ。

 そもそも、あたしにこのトマシーナという名がつけられたいきさつも、滑稽ながら許せない勘違いが原因でした。これは、あたしたちが幼いころに雌雄を見分けようとする人間が、あまりにも多く犯しがちな誤りね。グラスゴーに住んでいたマクデューイ家の娘、当時三歳だったメアリ・ルーのもとにもらわれてきたあたしは、最初はトーマスと名づけられたの。やがて、それがまちがいだったことがわかると、家政婦のマッケンジー夫人がさっさとトマシーナと女性形にしてしまいました。あたしが気に入るかどうかなんておかまいなし、おうかがいなんて立ててくれるはずもなく。
 幼いあたしたちの雌雄を見分けるのがどうしてあんなに下手なのか、人間って本当に困ったものね。いいかげんな当てずっぽうはやめて、ちゃんと見ればすむことなのに、ちょっとした手間を省きたがるからそういうことになるの。牡だったらその部分が離れているし、牝だったらぴったりくっついている、それだけのこと。どんなに身体が小さくたって、理屈は同じです。

 獣医のアンドリュー・マクデューイ先生なら、まちがいなく一目で見分けられたはず。でも、あの人は動物のお医者さんとしてはとんでもない変わりもので、愛情も、感傷も、関心も、動物に対しては抱いていないんです。あたしがこの家に来た日からずっと、まともに目を向けてもらったことはなかったけれど、こっちも全然気にしていません。無関心なのはお互いさま、ってことね。

 そのころ住んでいたのは、やはり獣医だった父親からマクデューイ先生に遺された、ダニア・ストリートのだだっ広くて陰気な家でした。一階と二階は事務室や診察室、入院室などがあり、あたしと家族 ーー先生と奥さん、メアリ・ルーは三階と四階に住んでたの。ここの家族は、三人とも赤毛でね。あたしもそうだけど、もうちょっと黄色がかっていて、胸のところに白いぶちがあるんです。でも、誰が見てもすてきなのは、四本の足先と尻尾の先が、おそろいで白くなっているところかしら。見た目や物腰を誉められるのにも、もう慣れっこになってしまったけれど。

 そのときはまだ、生まれて半年しか経っていなかったけれど、メアリ・ルーのお母さんだったアンのことは、いまでもよく覚えています。炉辺の銅鍋のような色の髪をした、美しい女性だったわ。とても明るくて、家の中ではいつも歌をうたっていたから、たとえ雨が降っているときだって、あの家にいてもそれほど暗く陰鬱には感じられなかったの。ひっきりなしにメアリ・ルーを抱っこしてはさんざん甘やかし、内証話ごっこをしてるところは、まるで愛を語り合っているみたいに見えたわね。あの先生がいてさえ、けっして不幸せな一家なんかじゃありませんでした。でも、それも長くは続かなかった。あたしが家にやってきてまもなく、アンは入院していたオウムの病気に感染し、亡くなってしまったから。

 言わせてもらえば、あれはあたしにとってもずいぶんつらい時期ではありました。マッケンジー夫人がいなかったら、あたしはどうなっていたことか。マクデューイ先生はなかば正気を失っているとみんな噂していたけれど、それもまんざら大げさには聞こえなかったくらい。ひどく荒れて周囲に当たりちらしていたうえ、これまで妻に抱いていた愛情を、そのまま娘に振向けたものだから、メアリ・ルーはすくみあがってしまっていたし、それはあたしも同じこと。家に寄りつかず、入院している動物の様子さえ見にいこうとしなくなって何日も経ち、やがてどうしようもなくひどい状況に陥りかけたころ、故郷から先生の旧友が訪ねてきたの。それが、ペディ牧師だったのね。それをきっかけに、いくらかましな状態になってまもなく、大きな変化がありました。

 ペディ牧師とマクデューイ先生は、ふたりがエディンバラ大学に入学する以前からの友だちらしくてーーーあたしの一族とも何匹か顔見知りかもねーー自分の住んでいる町で獣医の診療所が売りに出ているから越してこないかと、牧師は先生を誘いに来たの。
 そんなわけで、マクデューイ先生はグラスゴーの診療所を売り、生まれ育ったダニア・ストリートの家を後にして、アーガイルシャーにあるファイン湾の西岸、ここインヴァレノックの町に移ってきたんです。あたしの身に悲劇が起きたのも、ここでの話。

 そのころメアリ・ルーは六歳、もうじき七歳になろうとしていました。あたしたちが住んでいたのは、アーガイル・レーンの突きあたりから二軒目の家。お隣に住む先生の友人、アンガス・ペディ牧師は、ファンという名のいやらしいパグ犬を飼っていました。ああ、ぞっとする!
 うちは、実際には棟続きの二軒家でした。白塗りの壁に石板葺きの屋根、二階建ての細長い造りで、それぞれの端に立つ背の高い煙突には、たいていカモメがとまっているの。片方にはあたしたちが住み、もう片方はマクデューイ先生の仕事場として、事務室、待合室、診察室、入院室が置かれていました。でも、もちろん診療所のほうには、あたしたちは行ったことはないけれど、けっして来てはいけないと、メアリ・ルーは固く言いつけられていたから。グラスゴーであんなことがあった以上、家族の住む場所に二度と病気の動物を入れまいと、マクデューイ氏は心に誓ってたのね。

 あたし自身ふりかってみて、グラスゴーに比べると、インヴァレノックのほうがはるかに暮らしやすいところだと思います。ファイン湾は、グリーノックの脇を通ってケアンドウにいたるまで、海がぐっと内陸に食いこんだ入江だから、飛びまわるカモメを眺めることも、潮の香りを楽しむことも、浜辺を駆けまわって魚や奇妙な鳥たちを追いかけまわすこともできるのよ。その後ろには暗く恐ろしげな森や渓谷、岩山が広がっていて、狩りをするのにぴったり。グラスゴーでは一度も外に出してもらったことがなかったけれど、ここでは好きなように駆けまわってかまわないの。あたしもたちまち、根っからの高地っ子(ハイランダー)になってしまいました。自分以外のすべてを高みから見下す、それが高地っ子というものなのよ。

 ペット連れの観光客も多いから、マクデューイ先生にとって、夏はいちばん忙しい季節でした。もちろん、たいていは犬だけれど、猫や小鳥のこともあるし、サルが連れて来られたことも一度あったかしら。せっかく休暇にいっしょに来ても、気候が合わなかったり、森の中で何かに噛まれたり刺されたり、たいして強くもないくせに、愚かしくもあたしたち高地っ子に喧嘩をふっかけたり、そんなことがあるたびに、飼い主たちはそのペットを先生のところへ連れてくるの。先生はペットが大嫌いだし、獣医という職業にもうんざりしていたから、こういうことにはほとほと嫌気がさしていたみたい。診療所でそんなペットたちの相手をするよりは、町を出て農場主や小作人とすごすほうが楽しそうでした。

・・・
 メアリ・ルーが飛びぬけて器量よしじゃないなんて言ったのは、よく考えたら礼儀に外れていたかもしれないわね。だってあの娘はあたしのことを、世界で一番器量よしの猫だと思っていてくれたのに。でも普通とはちょっとちがう角度から考えるなら、あの娘もやっぱり飛びぬけて器量よしだったかもしれません。メアリ・ルーはどこにでもいそうな女の子だったけれど、その瞳をのぞきこんでみさえすれば、何か飛びぬけてすばらしいものがこの娘のなかに隠れている、この娘を包んでいるのだということが、あたしにはたしかに伝わってきたから。じっとのぞきこんでいようと思っても、つい目をそらしてしまうような瞳なのよ。まばゆい、このうえなく鮮やかな青でありながら、あの娘が何かあたしに理解できないこと、想像さえつかないことを考えているときには、荒れた日のファイン湾のような暗い色に変わるの。

それを除けば、外見についてはとりたてて何も書くことはありません。つんと上を向いた鼻に、そばかすの散った顔、いつもぎゅっと突き出している下唇、眉とまつげは薄くて、ほとんど見えないくらい。茶色がかった赤い髪は、緑か青のリボンで結び、二本のおさげにしてあります。脚はひょろっと長くて、いつもお腹を突き出しているの。
そうそう、メアリ・ルーのすてきなところといえば、もうひとつ、あのいい匂いがあったわね。マッケンジー夫人がたえず洗濯とアイロンがけに精を出し、あの娘の服や下着の引出しにラヴェンダーの匂い袋を入れていたおかげで、メアリ・ルーからはいつもラヴェンダーの香りがしていたんです。
・・・

>>>>

 

(ほとんど関係ない情景だけど・・・)


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