昨年の11月、休日を利用して、愛知県常滑市にあるINAXライブミュージアムへ行ってきました。
INAXライブミュージアムとは、2007年1月9日にこのブログでも紹介した「土・どろんこ館」、「ものづくり工房」、「陶楽工房」、「釜のある広場・資料館」、「世界のタイル博物館」から成る一般にも開放された「観て、触れて、感じて、学び、創りだす-5つの発見館」です。
私はこの日、「土・どろんこ館」で「光るどろだんご」をつくる体験をしました。その施設では、たくさんの子どもたちから大人まで一つのどろだんごを一生懸命磨きます。
その姿は、誰も変わらない子どものよう。楽しくて、自然と笑顔がこぼれます。
館内の説明をしてくださっていたINAXの方の言葉が印象的でした。
「本来、ものづくりは、誰にとっても楽しいものだからね。」
さて、あの日から約2ヶ月が経過してしまいましたが、今日は特にタイルのはなしをしたいと思います。
私がそこを訪れたのは、偶然にも、世界のタイル博物館が11月3日にリニューアルされたばかりの頃のことでした。
施設の敷地内に足を踏み入れ、そのスケールの大きさに十分驚かされていたはずなのに、それにも増して、この世界のタイル博物館には、驚かなければなりませんでした。タイルの奥深い美しさを目の当たりにした瞬間です。
受付を済ませると、説明をしてくださるスタッフの方が出てきて下さいました。
ふと、受付のサイドに立てかけられた案内に目をやります。
・・・撮影禁止・・・
残念・・・。この素晴らしさを、存分にご紹介したかったのに。
ところで、説明のために出てきてくださった方なのですが、お会いした瞬間、なんだか初めてではないような気になりました。ネームプレートを見ます。やっぱり何かが引っかかる・・・。
館内の説明が始まりました。
まずは、装飾壁の原点、「クレイペグ」による壁面を再現した空間です。
(写真は、INAXのホームページより)
色は、ミッドナイトブルー(5PB1.5/2)、マルーン(5R2.5/6)、エクルベージュ(7.5YR8.5/4)
といったところでしょうか。
3色で幾何学に彩られた空間。クレイペグとは、もともと壁補強のために用いられた円錐状の焼き物、粘土くぎのことをいいます。今から5500年も前のこと、当時の人々がより美しくしようと考え付いたのが、この粘土くぎに着色をして装飾することでした。
メソポタミア地域、ウルクの人々はこれを200万本以上積み上げ、空間を作り上げたそうです。INAXはそれを再現すべく、当時とのように一本一本手作りでクレイペグをつくりました。この作業は、スタッフのみならず、たくさんの子どもたちを含むボランティアによって、5万本を超える「クレイペグ」がつくられ、再現されました。
冒頭から、興味深いお話しでした。
スタッフの方は、何かの資料を見るでもなく、歩きながら、そして立ち止まって説明を続けます。その内容の全てが、私にとって、初めて知ることばかり。
鞄から手帳を引っ張り出して、ペンを走らせたのは、ほとんど反射的な行動でした。
こんなに興味深い話を、ただこの瞬間の感動に終わらせたくなかった。そして、その方から出てくるこれほどの知識をその瞬間に記憶することは不可能でした。後からその時の行動に理由をつけるとすれば、おそらくそういったところでしょう。
それから、館内を一周する間、お話し頂いた内容をたっぷり書き止めて帰ってきました。
私自身の頭の中の整理と、手帳に記したことばたちの整理も含めて、以下にご紹介します。
世界最古のタイル
約4,600年前、ピラミッドの地下空間にはめ込まれていたのが世界最古のタイルだと言われています。ここで用いられているブルーの色、エジプトではブルーが「生命の色」と考えられていました。
イスラームのドリーム天井
イスラームのモスク(=イスラム教の礼拝堂)や宮殿を飾るタイル。
当時世界をリードした幾何学に基づいたタイルは、10形状から成り、10形状あればあらゆるデザインが可能だといいます。ここに再現された天井も、その色や配置を変えることで全く異なったデザインに変化します。
デザインは、平面で検討されましたが、実際に天井には360°になる必要があります。その再現に大変苦労されたそうです。
オランダのタイル
17~18世紀に、一般家庭にもタイルが登場します。それはフェルメールの絵画「ミルクを注ぐ女」の中にも、床の巾木にタイルが使われている様子が描かれています。白地にコバルトブルーで花や風景が描かれているのが特徴です。
(フェルメール 「ミルクを注ぐ女」)
イギリスのタイル
1850~1910年 アール・ヌーボー様式のレリーフタイルが特徴。
タイルの利用は、公共施設にはじまり、やがて、一般住宅に普及します。
透明感のある色調に目を奪われますが、これは原料に鉛を使って製作されたために表現することができました。現在では、環境汚染に繋がるため、製作することができないそうです。
機械によるタイルの大量生産が可能となり、1900年前後の建築ブームの中、美しい食器でお馴染みのミントンやウエッジウッドもタイルを生産していました。
(ミントン社製)
一方で、改めて手作りを評価するアーツ・アンド・クラフツ運動がおこり、全て手描きによるタイルが登場します。下のタイルは、タイル界を代表するデザイナー、ウィリアム・ド・モーガンによるもの。この他、数々の傑作を残しています。
イランのタイル
青釉のタイルが特徴。
砂漠の民には貴重な水、空の色である青を用いました。
永遠の生命や天国へのあこがれを表現したと言われています。
13~14世紀には金属の光に似た輝きを焼き物でつくりあげたラスター彩タイルが登場します。
これは、モスクなどの壁面に用いられました。確かに、とても神秘的な雰囲気のあるタイルです。
クエンカタイル<スペイン>
「クエンカ」とは土手をつくり、色を独立化したものを言います。
象嵌(ぞうがん)タイル<イギリス>
金太郎アメのように、切っても切っても色が出てくるものをいいます。
エマイユ・オンブラン手法
釉薬の厚みを変えることで微妙な色調を表現しました。タイルの表面を触ってみるとその凹凸を感じることができました。
これらが、なんとか手帳に書き留めることができたタイルのお話です。文字だけでは表現しきれないので、INAXのホームページに掲載されている画像の中から特徴的なものを利用させて頂きました。更に詳しいタイルのお話しは、http://www.inax.co.jp/museum/でご覧になれます。とても素敵なページです。
さて、やっぱりとても気になっていましたので、翌日会社の引き出しの中の名刺の束を探しました。
そして、見つけた「伊賀工場長」の名刺。
5年以上前、初めて三重県上野にあるユニットバスの工場に訪れた時に、ご説明頂いた方でした。人の顔や名前を覚えることは、あまり得意ではないハズの私。
きっとそのとき、ユニットバスの説明にも、新たな発見や驚きがあったせいなのでしょう。
振り返ってみても、たくさんの驚きに詰まった一日でした。
このブログの中で唯一、私が撮影した写真がトップに利用したタイル博物館の外観です。とてもお天気に恵まれた夕暮れ、施設を後にする時、せめて外観だけでも。と、撮影した一枚です。
今日も最後までおつきあいいただき、ありがとうございます。そして、応援のワンクリックお願い致します。
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INAXライブミュージアムとは、2007年1月9日にこのブログでも紹介した「土・どろんこ館」、「ものづくり工房」、「陶楽工房」、「釜のある広場・資料館」、「世界のタイル博物館」から成る一般にも開放された「観て、触れて、感じて、学び、創りだす-5つの発見館」です。
私はこの日、「土・どろんこ館」で「光るどろだんご」をつくる体験をしました。その施設では、たくさんの子どもたちから大人まで一つのどろだんごを一生懸命磨きます。
その姿は、誰も変わらない子どものよう。楽しくて、自然と笑顔がこぼれます。
館内の説明をしてくださっていたINAXの方の言葉が印象的でした。
「本来、ものづくりは、誰にとっても楽しいものだからね。」
さて、あの日から約2ヶ月が経過してしまいましたが、今日は特にタイルのはなしをしたいと思います。
私がそこを訪れたのは、偶然にも、世界のタイル博物館が11月3日にリニューアルされたばかりの頃のことでした。
施設の敷地内に足を踏み入れ、そのスケールの大きさに十分驚かされていたはずなのに、それにも増して、この世界のタイル博物館には、驚かなければなりませんでした。タイルの奥深い美しさを目の当たりにした瞬間です。
受付を済ませると、説明をしてくださるスタッフの方が出てきて下さいました。
ふと、受付のサイドに立てかけられた案内に目をやります。
・・・撮影禁止・・・
残念・・・。この素晴らしさを、存分にご紹介したかったのに。
ところで、説明のために出てきてくださった方なのですが、お会いした瞬間、なんだか初めてではないような気になりました。ネームプレートを見ます。やっぱり何かが引っかかる・・・。
館内の説明が始まりました。
まずは、装飾壁の原点、「クレイペグ」による壁面を再現した空間です。
(写真は、INAXのホームページより)
色は、ミッドナイトブルー(5PB1.5/2)、マルーン(5R2.5/6)、エクルベージュ(7.5YR8.5/4)
といったところでしょうか。
3色で幾何学に彩られた空間。クレイペグとは、もともと壁補強のために用いられた円錐状の焼き物、粘土くぎのことをいいます。今から5500年も前のこと、当時の人々がより美しくしようと考え付いたのが、この粘土くぎに着色をして装飾することでした。
メソポタミア地域、ウルクの人々はこれを200万本以上積み上げ、空間を作り上げたそうです。INAXはそれを再現すべく、当時とのように一本一本手作りでクレイペグをつくりました。この作業は、スタッフのみならず、たくさんの子どもたちを含むボランティアによって、5万本を超える「クレイペグ」がつくられ、再現されました。
冒頭から、興味深いお話しでした。
スタッフの方は、何かの資料を見るでもなく、歩きながら、そして立ち止まって説明を続けます。その内容の全てが、私にとって、初めて知ることばかり。
鞄から手帳を引っ張り出して、ペンを走らせたのは、ほとんど反射的な行動でした。
こんなに興味深い話を、ただこの瞬間の感動に終わらせたくなかった。そして、その方から出てくるこれほどの知識をその瞬間に記憶することは不可能でした。後からその時の行動に理由をつけるとすれば、おそらくそういったところでしょう。
それから、館内を一周する間、お話し頂いた内容をたっぷり書き止めて帰ってきました。
私自身の頭の中の整理と、手帳に記したことばたちの整理も含めて、以下にご紹介します。
世界最古のタイル
約4,600年前、ピラミッドの地下空間にはめ込まれていたのが世界最古のタイルだと言われています。ここで用いられているブルーの色、エジプトではブルーが「生命の色」と考えられていました。
イスラームのドリーム天井
イスラームのモスク(=イスラム教の礼拝堂)や宮殿を飾るタイル。
当時世界をリードした幾何学に基づいたタイルは、10形状から成り、10形状あればあらゆるデザインが可能だといいます。ここに再現された天井も、その色や配置を変えることで全く異なったデザインに変化します。
デザインは、平面で検討されましたが、実際に天井には360°になる必要があります。その再現に大変苦労されたそうです。
オランダのタイル
17~18世紀に、一般家庭にもタイルが登場します。それはフェルメールの絵画「ミルクを注ぐ女」の中にも、床の巾木にタイルが使われている様子が描かれています。白地にコバルトブルーで花や風景が描かれているのが特徴です。
(フェルメール 「ミルクを注ぐ女」)
イギリスのタイル
1850~1910年 アール・ヌーボー様式のレリーフタイルが特徴。
タイルの利用は、公共施設にはじまり、やがて、一般住宅に普及します。
透明感のある色調に目を奪われますが、これは原料に鉛を使って製作されたために表現することができました。現在では、環境汚染に繋がるため、製作することができないそうです。
機械によるタイルの大量生産が可能となり、1900年前後の建築ブームの中、美しい食器でお馴染みのミントンやウエッジウッドもタイルを生産していました。
(ミントン社製)
一方で、改めて手作りを評価するアーツ・アンド・クラフツ運動がおこり、全て手描きによるタイルが登場します。下のタイルは、タイル界を代表するデザイナー、ウィリアム・ド・モーガンによるもの。この他、数々の傑作を残しています。
イランのタイル
青釉のタイルが特徴。
砂漠の民には貴重な水、空の色である青を用いました。
永遠の生命や天国へのあこがれを表現したと言われています。
13~14世紀には金属の光に似た輝きを焼き物でつくりあげたラスター彩タイルが登場します。
これは、モスクなどの壁面に用いられました。確かに、とても神秘的な雰囲気のあるタイルです。
クエンカタイル<スペイン>
「クエンカ」とは土手をつくり、色を独立化したものを言います。
象嵌(ぞうがん)タイル<イギリス>
金太郎アメのように、切っても切っても色が出てくるものをいいます。
エマイユ・オンブラン手法
釉薬の厚みを変えることで微妙な色調を表現しました。タイルの表面を触ってみるとその凹凸を感じることができました。
これらが、なんとか手帳に書き留めることができたタイルのお話です。文字だけでは表現しきれないので、INAXのホームページに掲載されている画像の中から特徴的なものを利用させて頂きました。更に詳しいタイルのお話しは、http://www.inax.co.jp/museum/でご覧になれます。とても素敵なページです。
さて、やっぱりとても気になっていましたので、翌日会社の引き出しの中の名刺の束を探しました。
そして、見つけた「伊賀工場長」の名刺。
5年以上前、初めて三重県上野にあるユニットバスの工場に訪れた時に、ご説明頂いた方でした。人の顔や名前を覚えることは、あまり得意ではないハズの私。
きっとそのとき、ユニットバスの説明にも、新たな発見や驚きがあったせいなのでしょう。
振り返ってみても、たくさんの驚きに詰まった一日でした。
このブログの中で唯一、私が撮影した写真がトップに利用したタイル博物館の外観です。とてもお天気に恵まれた夕暮れ、施設を後にする時、せめて外観だけでも。と、撮影した一枚です。
今日も最後までおつきあいいただき、ありがとうございます。そして、応援のワンクリックお願い致します。
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