日本で最も美味しい琥珀色のコーヒーをたててくれた人として僕は標交紀さんのことを懐かしく思い出します。彼のたててくれたダイヤモンドのようなコーヒーはとても美味しく絶品だったなと思いますね。とても温厚な方で素敵な人柄でした。彼はNHKの”ウィークエンドサロン”という番組の中で珈琲について「味の世界というのはお金がいくらあっても造れないと思います。」と述べ、また「コーヒーの中で目立ちたがり屋の豆だとか、どうも控え目の豆だとか、味は全く馬鹿みたいな豆だとか、そういうコーヒーがあるんです。そういう馬鹿なコーヒーだけど、ちょっと入れることによって、他のコーヒーをグゥーと引き出させてくれて、おいしくさせてくれる豆があるんです。それをブレンドする。ひとつの味にしてから何回も何回も飲んで、お客様に出す前ですよ。そこでどっか飽きたら偽物だということなんです。それを何年間飲んでも「飽きないな、うまいな」って思って初めてメニューに値段をつけてお客様に提供する。これが私は大事だと思うんです。」と徹底した彼独自のこだわりの美学を披露しています。
吉祥寺の井の頭公園への入り口ちょっと手前、坂の途中に自家焙煎店『もか』という喫茶店がありました。何年くらい通ったかな。風格のある店構えで数ある喫茶店のなかでチャンピオンというか、横綱と呼んでもいいお店だったんじゃないかなと思います。おそらく標さんのたててくれたコーヒーを目当てで、都内はもちろんのこと、日本中に標ファンがいたんじゃないかなって思います。彼が焙煎した「サンハラールモカ」と「アディナブレンド」のお豆を買い求めるのが至福の喜びでしたね。約2年前に亡くなられ、信じられない気持です。僕は標さんとは割と親しくおしゃべりさせてもらいました。標さんはおいしい珈琲を求めて世界中を旅行されたそうです。全存在をかけて、究極の珈琲を追い求め珈琲の達人として、美しい生涯を終えたのです。
明日、今は亡き標さんの旅のエピソード『長崎出島・珈琲フォーラム 珈琲事始め 講演録』の中で標さんがお話ししているモロッコの旅の部分を紹介させていただきます。とても痛快な話です。