第三部 未知への挑戦(15) 再開への船出 海水は事故前に戻る
海洋生物環境研究所(海生研・東京)研究調査グループ研究参与の日下部正志(63)は27日、福島県沖の洋上にあった。東京電力福島第一原発事故で放出された放射性物質の海水、海底土への影響を調べる調査船に乗り組んでいた。
海底の表層を乱すことなく土を採取できる「マルチプルコアラー」と呼ばれる器具を使い、土が入った幾本もの管が船上に引き上げられた。採取した土は海の現状を知る貴重なサンプルになる。海生研は原発事故直後から緊急モニタリングを続けている。
日下部は年に4回程度、洋上の人になる。原発事故後、従来の調査業務に加え、放射性物質に関する調査・研究業務に追われる日々だ。しかし、「風評を払拭(ふっしょく)するためには、現状を正しく、科学的に伝えることが必要だ。データが原発事故からの復興につながれば」との思いが自らを海に向かわせる。
■ ■
海生研が集めたデータは、原発事故後の海の状態を指し示している。モニタリングの対象地点は福島第一原発の半径30キロ以遠の42地点に及ぶ。表層(水深0~5メートル)で最も海水の放射性セシウム濃度が高かったのは、事故直後の平成23年4月15日に採取した1リットル当たり186ベクレルだった。これまでに目にしたことがない数字に、日下部らは原発事故の影響をまざまざと見せつけられた。
事故から約1年10カ月が経過した25年1月の時点で放射性物質濃度は同0・001~0・01ベクレルにまで下がった。予想通りの減り方だった。福島第一原発から放出された放射性セシウムは、ほとんどが水に溶けて海水とともに動き、それに伴って薄まった。
海生研は昭和58年から全国の原発周辺海域で海水のモニタリングを実施している。調査結果では、福島第一原発周辺の海水の事故直前の濃度は同0・001ベクレル。日下部は「現在は、ほぼ事故前と同じレベルに戻っている」と話す。
■ ■
一方、海底土の放射性物質濃度は、海水に比べて高いことが分かっている。海水に溶けなかった放射性セシウムは、プランクトンの死骸や排せつ物をはじめ、陸から巻き上げられた土砂に吸着して粒子状になる。粒子となった放射性セシウムは、海底に沈殿するからだ。
本県沖の海底の土は原発事故前が1キロ当たり1~2ベクレルだったのに対し、事故後は最大で同500ベクレルにまで上昇した。ばらつきはあるが、現在は大部分が同100ベクレル以下という調査結果が出ている。時間経過とともに低下傾向にある。だが、海水と違って希釈されず、海流などで遠くまで移動することがない。放射性物質の濃度が低下する速度は鈍い。
中でも福島第一原発北側の海底土は、濃度が高い傾向にある。日下部は「原発事故後に濃度の高い放射性セシウムを含む海水があったのに加え、海底土がセシウムを吸着しやすい粘土質だったのではないか」と分析する。
海の環境の変化は魚介類にどのような打撃を与えているのか-。県水産試験場(いわき市)と県農業総合センター(郡山市)の検査で次第に明らかになりつつある。(文中敬称略)
2013/05/28 11:25 福島民報
海洋生物環境研究所(海生研・東京)研究調査グループ研究参与の日下部正志(63)は27日、福島県沖の洋上にあった。東京電力福島第一原発事故で放出された放射性物質の海水、海底土への影響を調べる調査船に乗り組んでいた。
海底の表層を乱すことなく土を採取できる「マルチプルコアラー」と呼ばれる器具を使い、土が入った幾本もの管が船上に引き上げられた。採取した土は海の現状を知る貴重なサンプルになる。海生研は原発事故直後から緊急モニタリングを続けている。
日下部は年に4回程度、洋上の人になる。原発事故後、従来の調査業務に加え、放射性物質に関する調査・研究業務に追われる日々だ。しかし、「風評を払拭(ふっしょく)するためには、現状を正しく、科学的に伝えることが必要だ。データが原発事故からの復興につながれば」との思いが自らを海に向かわせる。
■ ■
海生研が集めたデータは、原発事故後の海の状態を指し示している。モニタリングの対象地点は福島第一原発の半径30キロ以遠の42地点に及ぶ。表層(水深0~5メートル)で最も海水の放射性セシウム濃度が高かったのは、事故直後の平成23年4月15日に採取した1リットル当たり186ベクレルだった。これまでに目にしたことがない数字に、日下部らは原発事故の影響をまざまざと見せつけられた。
事故から約1年10カ月が経過した25年1月の時点で放射性物質濃度は同0・001~0・01ベクレルにまで下がった。予想通りの減り方だった。福島第一原発から放出された放射性セシウムは、ほとんどが水に溶けて海水とともに動き、それに伴って薄まった。
海生研は昭和58年から全国の原発周辺海域で海水のモニタリングを実施している。調査結果では、福島第一原発周辺の海水の事故直前の濃度は同0・001ベクレル。日下部は「現在は、ほぼ事故前と同じレベルに戻っている」と話す。
■ ■
一方、海底土の放射性物質濃度は、海水に比べて高いことが分かっている。海水に溶けなかった放射性セシウムは、プランクトンの死骸や排せつ物をはじめ、陸から巻き上げられた土砂に吸着して粒子状になる。粒子となった放射性セシウムは、海底に沈殿するからだ。
本県沖の海底の土は原発事故前が1キロ当たり1~2ベクレルだったのに対し、事故後は最大で同500ベクレルにまで上昇した。ばらつきはあるが、現在は大部分が同100ベクレル以下という調査結果が出ている。時間経過とともに低下傾向にある。だが、海水と違って希釈されず、海流などで遠くまで移動することがない。放射性物質の濃度が低下する速度は鈍い。
中でも福島第一原発北側の海底土は、濃度が高い傾向にある。日下部は「原発事故後に濃度の高い放射性セシウムを含む海水があったのに加え、海底土がセシウムを吸着しやすい粘土質だったのではないか」と分析する。
海の環境の変化は魚介類にどのような打撃を与えているのか-。県水産試験場(いわき市)と県農業総合センター(郡山市)の検査で次第に明らかになりつつある。(文中敬称略)
2013/05/28 11:25 福島民報