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ミリーの短編小説 その2

2013-07-30 06:43:55 | ショートストーリー
ルナソル行きのバスの中で、ぼくは「希望の光」という組織をしらべた。昨日ミリーと一緒に歩いていたあの男もいろいろと調べた。

あの男はサジという名前のようだ。希望の光というのは、ルナマフィアの間で最近注目を集めている若い組織のようで、サジが中心になって活動しているらしい。

それは宗教団体のように、ある種の考えを共有する人達の間で広まったもののようだ。その目的は、はっきりと公表されていないらしい。

でも、あの有名なルナマフィアのボスであるスラ・アジアの息子というのは、確かなようだ。でも、それはあまり公表されていない情報のようだ。少なくとも、ぼくは知らなかった。

でも、ぼくは始め夢の中でそのことを知った。なぜなのか?ぼくは無意識に知っていたのか?それとも、もしかして本当にミリーからのテレパシーなのか?

でも、いまルナソルに向かっていても、ミリーからのテレパシーは届かない。睡眠中にだけ聞こえるのか?

そんなことを考えながら、ウトウトとした。ふと、後ろの方の席に見覚えのある女性が座っていた。なぜいままで気づかなかったのか?それは、マリだった。

マリは申し訳なさそうにこちらを見ていた。席がかなり離れていたし、月の周回軌道にはいるタイミングだったので席を立てなかった。でも、話はできなくても、こちらがマリに気付いたのは分かったようだ。

ルナソルのエアポートに着いてバスを降りる時になって、初めてマリと話した。マリは、今日の朝偶然ぼくをエアポートの近くで見かけ、一昨日から様子がおかしいのが気になっていたこともあり、ぼくの後を付けて同じバスに乗ったのだそうだ。

でも、ずっと隠れているのも変だから声をかけようと近くに来たのに、ぼくが全然気づかないので、困っていたということらしい。

エアポートを出て、都心行きの電車の中でぼくたちは話していた。

「あなた、ルナソルに何しに来たの?」

「…マリには関係ない。」

「関係なくはないよ。私はあなたが心配なの。今日のルナマフィアのニュースと何か関係あるの?」

これはダメだ。ぼくはそう思った。このままごまかし続けることはできない。ミリーのことを話すか?でも、どんな風に話すのか?いま、マリが一緒にいてくれることは本当はうれしかった。ぼくにとって、マリはどういう存在なのか?

もういい…。ぼくはありのままを話した。ミリーのこと、マリのこと、昨日のこと、夢のこと…。マリは、それ程驚いた様子もなく、これまでと同じような心配そうな目でずっとぼくの話を聞いてくれた。

「ぼくがこれから何をしたいのか、自分でもよくわからないんだ。でも、とにかく、ミリーに会わなきゃいけない。」

「わかったよ。でも、私もついて行っていい?話をする時は、二人きりにするから。」

ぼくは、これまでで一番マリのことを真剣に考えた。マリの自分に対する気持ちがどれほど本気であるか、良く分かった。でも、いまのぼくでは答えを出せない。

「いいよ。マリがそうしたいなら。」

ぼくはこう言った後、しばらくしてから、マリにキスした。

「ぼくはマリが好きだよ。そう言っていいのかな?」

「いいんじゃない?」

マリはそう答えた。

===

ファーストパークは、思った以上に広がった。でも、中心に高い鉄塔が立っていて、それが普通待ち合わせ場所として使われることはあきらかだった。ぼくたちは、その鉄塔が見える位置にあるカフェに入り、見張ることにした。待ち合わせ時間は聞こえなかったので、時間がもう過ぎている可能性もある。でも、ぼくたちには他にすることがなかった。

マリとは、これまで通りに他愛のない話をした。マリはぼくと過ごす時の、この他愛のない話が好きなのだそうだ。と言っても、話すのはほとんどがマリの方だが。

そのカフェでぼくは3杯のコーヒーを飲み、マリはケーキやらアイスクリームやらいろんなものを食べていた。夕方になっても、ミリーもあのサジという男も現れなかった。マリは一言も不平を漏らさず、ずっと他愛のない話をしていた。

ぼくが4杯目のコーヒーを注文した時、ミリーが店とは反対側から歩いてくるのがみえた。ぼくは、近くにサジもいるんじゃないかと思って、周りを見渡したがサジはいなかった。それで、マリに軽く目配せした後、店から出てミリーに近づいていった。

ミリーはすぐにこちらに気が付いた。でも、あまり驚いてはいないようだ。なにか、予想していたような様子だ。ミリーの前に立って、ぼくは、なんと言えばいいか言葉を失った。でも、しばらくしてこう話し始めた。

「一昨日、君を見かけてから、ずっと君を探していた。いや、本当は半年前、君が突然いなくなったあの日から、ずっと話したかった。でも、いま、ここで話をするのは危険なのかもしれない。少し場所を変えて話したいのだけど、どうかな?」

「だめ。わたしはここで、人と待ち合わせしているの。」

「それは知ってるよ。サジという人だよね?ニュースで見たよ。殺人事件の犯人かもしれない男だ。だから、場所を変えたいんだ。」

でもミリーはすごくはっきりと言った。

「サジは人殺しじゃないよ。」

妙にさめた声だった。そして、こう付け加えた。

「殺したのは私よ。」


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