土屋龍一郎のブログ

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うまいもの

2006-02-02 00:43:45 | Weblog
 友人のA君は僕と同郷で、気骨あふれる紳士である。
 私が彼の住む街を訪ねた時に、うまいスパゲッティを食べにいこうと言ってちょいと名が知れてきた郊外のレストランに連れて行ってくれた。その時点で私はけっこう酔っぱらっていたのだが大人数で押し掛けて再会のお酒を飲んで、いよいよスパゲッティが出てきた。
 一目見るなり彼の顔がこわばり、フォークに絡めて顔色が曇ったと思ったら、急に顔を真っ赤にして「すまんがチーフ呼んでくれ」と言い出した。顔見知りのようであったフロアチーフがくると、「今日は、誰がこのスパゲッティ作ったの?ちょっと食べてごらん」と私たちの前に出されていた皿をチーフに差し出した。私はそれなりにうまいと思っていたが、「おれはさ、わざわざ友達を連れてきてんだけど、いつもと違うだろ」とA君は静かに、だけれど強くて地面からわき上がるような迫力でチーフを問いつめた。チーフによると実は何かの都合で見習いコックさんが作った一皿だったとのことだ。
 
 そのあと、ずいぶんと遅い時間だったにも関わらず彼はお詫びしたいと言って、自分が関係しているこじんまりとした別のレストランまで移動して後片付けしていたシェフに頼み込んでスパゲッティを一皿作ってくれた。
 ほ・ん・と・うに、うまかった。
 はじめに大人数で押し掛けたあのレストランはきっと二度とあのパゲッティを客に出さないだろう。次に出かけたらきっと名誉挽回する味を出すだろう。
 うまいものなどの文化は作り手の厳しい修行はもちろんんだがそれを育てる厳しい旦那衆がいて初めてよりおいしくなってゆくのだろう。なんでも喜んでいるだけじゃなくて、おかしいと思ったら言う勇気も必要だな。