座間の駅に着いたのは12時を少し回った頃だった。駅の高架上にある改札口を出ると迷う事なく東側の階段を下り、googleで見た地図を思い出しながら、ボクは、初めて降りた街並をマーキングするかのようにキョロキョロと見渡して、目的地の鈴鹿明神社へ向かってゆっくりと歩いた。地図上では、駅の南側を横切る道路が緩いカーブを描いて北へ伸びていたが、その緩いカーブは小田急線に沿うように縦に走っている道路との交差点から少し先で、少しキツい下り坂になっていた。もしも、昨日のような雨が降っていたら、どんなに気をつけて歩いても、靴はずぶ濡れて、Gパンの裾やくるぶしもびしょ濡れになっていたに違いない。坂道を覆うように茂っていた深い緑を抜けると、白い雲の隙間からこぼれる暖かい日差しをボクは受け、少し身体は熱を帯びていた。
ゆっくりと歩いたものの、両膝が弱いボクには少しキツく感じられる下りの坂道で、神社に参拝する前に、すぐ近くにあったクリーニング屋の軒先のベンチに座って、冷たい缶珈琲を飲みながら少し膝を休めた。・・・座間はキレイな湧き水が出る土地で蛍もいるんだよ・・・とSさんから聞いていたから、
街は自然に溢れていてのどかなのだろうと思っていたのだが、住宅地で車の交通量もわりと多く、ボクの住む地元の旧甲州街道並みの道路が交わる所で、近くにはドライブインが数軒あり、イメージしていた風景とはちょっと違った。のどかさはボクの住んでいる街の方が上だった。
神社の鳥居をくぐると左側に池があって、確かに水がキレイだった。胸の高さ程のステンレスの柵に両手を置いて、真下の池を覗き込んでみると、鯉が水面に口を出してパクパクさせ、我先にというようにボクの足下近くに寄って来て、池の隅では鯉がひしめき合って騒然とした感じになった。
池のほぼ真ん中にあった岩場の上で微動だにしていなかった亀も、その騒ぎに我慢出来なくなったのか、水の中に飛び込んで浮遊しながらゆっくりと鯉の群れに混じった。
人が来るとエサをもらえると思っているのだろう。ボクから数m離れた所に人が来て池を覗き込むと、今度はその人に近づいてエサを投げ入れてくれるのを、口を開けて待っているように見える。そして鯉は、ボクとその人との間をひしめき合いながら周回して、水の音をたて続けた。
池に流れ込む小川の小さいせせらぎと澄んだ水の仄かな匂い、風が運んでくる深い緑の匂いが、ボクの鼻と耳を少しくすぐった。こんな風に自然の息吹を感じたのは久しぶりの事だ。
後から来た人が池から離れると、ボクの足下にはまた鯉がとぐろを巻くように集まってきて、亀は埋もれないように必死に鯉の背に掴まってもがいていたのだが、その光景は、ここ数年の自分自身を見ているような気にもなった。が、そんなに頑張ったと言えるような事は・・・多分ない。
数分の間、ぼんやりとそんな思いに浸った後、ボクは、池から数m離れた所にあった手水舎で柄杓を手にして、そこに掲げてあったイラストの手順に従って右手と左手を清めて口を濯いだ。
鈴鹿明神社の本殿は、そこから50mくらい参道を進んだ突き当たりに位置していた。
本殿の賽銭箱のすぐ真上のあたりに、・・・2礼、2拍手、1例・・・の正しいやり方を示すイラストが掲げてあった。もし、他に参拝する人がいれば、その人の行いを、少し後ろに立って見て真似ようと思っていたのだが、神社は閑散としたもので、ボクの他には参拝する人は一人もいなかったので、小銭を賽銭箱に放り投げると、イラストを見ながらそれを真似て、静かに目を閉じた。
ボクは参拝を済ませて神社を出ると、小川の源流に続いているらしい散策コースの一つ・・・“鈴鹿の小径”・・・を歩いてみる事にした。閑静な住宅街の入り組んだ路地のようだったが、小径のアスファルトには細工がしてあって、間違えずに散策コースを歩いて行けるようになっていた。
小さいながらも道の片側を流れる小川は、本当に透明でキレイな水で、蛍が生息しているのも頷ける。街をあげて湧き水と蛍を守り、自然を大事にしようとしているのがよく解る景観だ。
所々で菖蒲が咲いていて、あじさいが咲きかけ、奥に進むにつれて小川の幅が広くなって、所々に堰があった。閑静な住宅街の中を流れる小川は、所々で水のせせらぐ音が絶え間なく聞く事ができ、カサついた心を洗い流してくれるような、安らぎをボクにくれた。沢ガニやアゲハチョウ、カタツムリなんて、何年振りに見ただろう。その小径に蛍が出る頃に、もう一度行ってみたいと思った。
~中略~
不意に携帯電話にメールの着信があって見てみると、・・・「今相模大野にいるんだけど、これから町田に行く用事があるので、もし時間があるようならメール下さい」・・・Sさんだった。
本当は相模線で橋本へ出て帰ろうと思っていたボクで、2時間近く立って歩きっぱなしだったボクの膝は、どこかで休憩する事を望んでいた。だが、・・・「これから座間へ向かいます」・・・と、Sさんに短い返信をして、最短距離で小田急線の座間駅に向かった。
大通りから右斜め方向へ真っすぐに延びている道路の突き当たりは、鈴鹿明神社へ行く時に下ってきた少しキツい下り坂の、緩いカーブが終わった下部だった。見た目でざっと数百mくらいはあるだろうか。今度は反対に上がって行かねばならない。いい運動量には違いないが、日頃は全く鍛えていない足腰にはキツいに違いない。少し傾斜のキツい坂を上がっていく前に、自動販売機で熱い珈琲を買って飲み、少しでもエネルギーの足しにしようと思ったのだが、やや痛みが走り始めていたボクの両膝には、やはりキツいモノで、体力と筋力の無さを実感したのだった。
~中略~
・・・「町田に着きました~」「2分で行くね~」・・・
きっと相模大野からほぼ同じタイミングで来るのだろう、ボクはそう思い込んで、上り列車から降りて来る人々を目で追いかけてSさんを探していると、不意に・・・●●クン・・・と呼び声がして、その方向を見ると、改札の外で微笑んで手を振るSさんがそこにいた。
駅の近くの喫茶店に入って再会を分かち合いながら、いつものように、占や霊的な事象の話に花を咲かせたボクらだった。昔はボクも・・・こんな事があったんですよ・・・と、体験した事を話したものだったが、今では不思議な夢を見るのが関の山で、不可思議な事象にはまた全く遭遇していないものだから、今ではほぼ聞き役のようになってしまっているのが残念でならない。
Sさんは自らの体験と、息子Mクンの体験した事象について色々と聞かせてくれた。
ある日の夜、所用で帰宅するのが遅くなったSさんに、・・・「お母さん、また連れてきちゃって、ダメじゃん」・・・と言われて、・・・あぁやっぱり・・・と思った事など、エピソードが実に多いのだ。
そんな話しを、ボクは、いつも羨ましいと思いながら聞いている。
・・・「なんかMがね、●●クンを占師みたいに思ってて、尊敬してるみたいなの」・・・
・・・「前に●●クンがMは隠者って言ってたけど・・・」・・・Sさんはそう言ってボクを見た。
・・・「え??尊敬??なんで??何がそう思わせるんだろう??」・・・
・・・「Mクンは隠者??そんな事言ったっけ??」「言ったじゃなぁい」・・・
隠者、タロットカード、記憶を思い出しながら考えてみると、何年か前に橋本で会った時に、確かにボクは印象としてそう言い残していた。その当時、Sさんに1枚引いてもらったカードが・・・隠者・・・だっただろうか??おとなしいながらも、芯はしっかりしていそうなMクンにはピッタリなカードだと思った事も思い出した。きっと、見えてしまう力に苦悩しているに違いない。
・・・「でもいいなぁ、羨ましい。Mクンにも会いたかったな~」・・・
当人にとっては嫌な事だろうと思っているが、ボクには本当に羨ましい事に思うのだ。
・・・「●●クンだって真夜中の富士山の5合目の当たりで兵隊を見たでしょう??」・・・
・・・「だから、きっと今でも見たり感じたりはしているんだと思うよ」・・・
そう言ってSさんは笑っていたが、そうだろうか??気がついていないだけなのだろうか??
Sさんに会う時にはいつもそんな事を言われて、ボクはいつも同じ疑問で首を傾げている。
ゆっくりと歩いたものの、両膝が弱いボクには少しキツく感じられる下りの坂道で、神社に参拝する前に、すぐ近くにあったクリーニング屋の軒先のベンチに座って、冷たい缶珈琲を飲みながら少し膝を休めた。・・・座間はキレイな湧き水が出る土地で蛍もいるんだよ・・・とSさんから聞いていたから、
街は自然に溢れていてのどかなのだろうと思っていたのだが、住宅地で車の交通量もわりと多く、ボクの住む地元の旧甲州街道並みの道路が交わる所で、近くにはドライブインが数軒あり、イメージしていた風景とはちょっと違った。のどかさはボクの住んでいる街の方が上だった。
神社の鳥居をくぐると左側に池があって、確かに水がキレイだった。胸の高さ程のステンレスの柵に両手を置いて、真下の池を覗き込んでみると、鯉が水面に口を出してパクパクさせ、我先にというようにボクの足下近くに寄って来て、池の隅では鯉がひしめき合って騒然とした感じになった。
池のほぼ真ん中にあった岩場の上で微動だにしていなかった亀も、その騒ぎに我慢出来なくなったのか、水の中に飛び込んで浮遊しながらゆっくりと鯉の群れに混じった。
人が来るとエサをもらえると思っているのだろう。ボクから数m離れた所に人が来て池を覗き込むと、今度はその人に近づいてエサを投げ入れてくれるのを、口を開けて待っているように見える。そして鯉は、ボクとその人との間をひしめき合いながら周回して、水の音をたて続けた。
池に流れ込む小川の小さいせせらぎと澄んだ水の仄かな匂い、風が運んでくる深い緑の匂いが、ボクの鼻と耳を少しくすぐった。こんな風に自然の息吹を感じたのは久しぶりの事だ。
後から来た人が池から離れると、ボクの足下にはまた鯉がとぐろを巻くように集まってきて、亀は埋もれないように必死に鯉の背に掴まってもがいていたのだが、その光景は、ここ数年の自分自身を見ているような気にもなった。が、そんなに頑張ったと言えるような事は・・・多分ない。
数分の間、ぼんやりとそんな思いに浸った後、ボクは、池から数m離れた所にあった手水舎で柄杓を手にして、そこに掲げてあったイラストの手順に従って右手と左手を清めて口を濯いだ。
鈴鹿明神社の本殿は、そこから50mくらい参道を進んだ突き当たりに位置していた。
本殿の賽銭箱のすぐ真上のあたりに、・・・2礼、2拍手、1例・・・の正しいやり方を示すイラストが掲げてあった。もし、他に参拝する人がいれば、その人の行いを、少し後ろに立って見て真似ようと思っていたのだが、神社は閑散としたもので、ボクの他には参拝する人は一人もいなかったので、小銭を賽銭箱に放り投げると、イラストを見ながらそれを真似て、静かに目を閉じた。
ボクは参拝を済ませて神社を出ると、小川の源流に続いているらしい散策コースの一つ・・・“鈴鹿の小径”・・・を歩いてみる事にした。閑静な住宅街の入り組んだ路地のようだったが、小径のアスファルトには細工がしてあって、間違えずに散策コースを歩いて行けるようになっていた。
小さいながらも道の片側を流れる小川は、本当に透明でキレイな水で、蛍が生息しているのも頷ける。街をあげて湧き水と蛍を守り、自然を大事にしようとしているのがよく解る景観だ。
所々で菖蒲が咲いていて、あじさいが咲きかけ、奥に進むにつれて小川の幅が広くなって、所々に堰があった。閑静な住宅街の中を流れる小川は、所々で水のせせらぐ音が絶え間なく聞く事ができ、カサついた心を洗い流してくれるような、安らぎをボクにくれた。沢ガニやアゲハチョウ、カタツムリなんて、何年振りに見ただろう。その小径に蛍が出る頃に、もう一度行ってみたいと思った。
~中略~
不意に携帯電話にメールの着信があって見てみると、・・・「今相模大野にいるんだけど、これから町田に行く用事があるので、もし時間があるようならメール下さい」・・・Sさんだった。
本当は相模線で橋本へ出て帰ろうと思っていたボクで、2時間近く立って歩きっぱなしだったボクの膝は、どこかで休憩する事を望んでいた。だが、・・・「これから座間へ向かいます」・・・と、Sさんに短い返信をして、最短距離で小田急線の座間駅に向かった。
大通りから右斜め方向へ真っすぐに延びている道路の突き当たりは、鈴鹿明神社へ行く時に下ってきた少しキツい下り坂の、緩いカーブが終わった下部だった。見た目でざっと数百mくらいはあるだろうか。今度は反対に上がって行かねばならない。いい運動量には違いないが、日頃は全く鍛えていない足腰にはキツいに違いない。少し傾斜のキツい坂を上がっていく前に、自動販売機で熱い珈琲を買って飲み、少しでもエネルギーの足しにしようと思ったのだが、やや痛みが走り始めていたボクの両膝には、やはりキツいモノで、体力と筋力の無さを実感したのだった。
~中略~
・・・「町田に着きました~」「2分で行くね~」・・・
きっと相模大野からほぼ同じタイミングで来るのだろう、ボクはそう思い込んで、上り列車から降りて来る人々を目で追いかけてSさんを探していると、不意に・・・●●クン・・・と呼び声がして、その方向を見ると、改札の外で微笑んで手を振るSさんがそこにいた。
駅の近くの喫茶店に入って再会を分かち合いながら、いつものように、占や霊的な事象の話に花を咲かせたボクらだった。昔はボクも・・・こんな事があったんですよ・・・と、体験した事を話したものだったが、今では不思議な夢を見るのが関の山で、不可思議な事象にはまた全く遭遇していないものだから、今ではほぼ聞き役のようになってしまっているのが残念でならない。
Sさんは自らの体験と、息子Mクンの体験した事象について色々と聞かせてくれた。
ある日の夜、所用で帰宅するのが遅くなったSさんに、・・・「お母さん、また連れてきちゃって、ダメじゃん」・・・と言われて、・・・あぁやっぱり・・・と思った事など、エピソードが実に多いのだ。
そんな話しを、ボクは、いつも羨ましいと思いながら聞いている。
・・・「なんかMがね、●●クンを占師みたいに思ってて、尊敬してるみたいなの」・・・
・・・「前に●●クンがMは隠者って言ってたけど・・・」・・・Sさんはそう言ってボクを見た。
・・・「え??尊敬??なんで??何がそう思わせるんだろう??」・・・
・・・「Mクンは隠者??そんな事言ったっけ??」「言ったじゃなぁい」・・・
隠者、タロットカード、記憶を思い出しながら考えてみると、何年か前に橋本で会った時に、確かにボクは印象としてそう言い残していた。その当時、Sさんに1枚引いてもらったカードが・・・隠者・・・だっただろうか??おとなしいながらも、芯はしっかりしていそうなMクンにはピッタリなカードだと思った事も思い出した。きっと、見えてしまう力に苦悩しているに違いない。
・・・「でもいいなぁ、羨ましい。Mクンにも会いたかったな~」・・・
当人にとっては嫌な事だろうと思っているが、ボクには本当に羨ましい事に思うのだ。
・・・「●●クンだって真夜中の富士山の5合目の当たりで兵隊を見たでしょう??」・・・
・・・「だから、きっと今でも見たり感じたりはしているんだと思うよ」・・・
そう言ってSさんは笑っていたが、そうだろうか??気がついていないだけなのだろうか??
Sさんに会う時にはいつもそんな事を言われて、ボクはいつも同じ疑問で首を傾げている。
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