最近、ある着付け講師の先生が、
「礼服着物の着用シーンの際、私はお金を出してでも着付け師に着せてもらった方が絶対にいいと思う。自分も勿論着られるが、その着姿は着せてもらった仕上がりには叶わない」
と仰っていました。
『確かに、一理あることよね』
と正直今の私ならそう思います。
私はもともと自分で着物が着られるようになりたくて着付けを習い始め、着物を着ることができるようになってからは礼服着用シーンであろうとなかろうと自分で着てきました。
つまり長いこと私自身は、
「自分で着ることができるのにわざわざお金をかけて着せてもらうなんてあり得ない」
と思っていました。
ですが、ここ10数年くらい前からか、着付け師として着付けの現場で自身が仕事をしたり、着物のスタイルブックなどを見たりするにつけ、きちんと着せてもらったお客さまやモデルさんは本当にお皺一つなくとても美しい仕上がりとなされているのに気づきました。当時の私には持ち合わせていなかった数々の着せ付けの技術にショックを受けて、現場で活躍される着付け師の先生にその技術を教わりに行くことになったのです。
そこでは昔からその時まで私が習ってきた着せ付けのやり方が全否定されるくらい、当時の私の技術が現場のそれと大きく違っていることに衝撃を受けました。
「日本は昔、みんなが着物を着てきたのだ。着物を着たり着せたりすることは日常のことなので着付けは技術ではない」
という考えももはや昔の考えで、昔の着方、着せ付け方しか出来ない状態では
「着付け師」
としては正直通用しない現場もあるようなことにまでなってしまっています。
また、更に細かいことを言えば、着物を着るシチュエーション…例えば撮影なのか、撮影ならどんな動きを想定するのか、特にどこの角度から美しく見えるような仕上がりにすべきなのか、お出かけなのか、お出かけ先はどんなところなのか、どんな立場で参列し、どんな動きをすることを想定するのかなどなどで着せ付けの技術も変わり、またその技術も進化しているのが現状です。
仕事をしながら周りの同業者たちと切磋琢磨して常に技術を磨いて最新の技術にリセットするようなことも必要で、学びに終わりはありません。あまり現場に出ていない着付け講師や着付け師の中にはこの、シチュエーションによる着付け方の違いを知らないで仕事をしている人も少なからずいらっしゃるかもしれません。
そして、美しく着せたいと思う気持ちは、自分自身も美しく着たいという気持ちにも当然繋がります。
ですが、やはり自分の全身の姿は自分では見えないし、悲しいかな、
「自分で着物を着る」
という動作によって着崩れるということもあります。そんなことから着姿は、
「自分で着るより着せてもらった方が綺麗だ」
ということになるのかもしれません。
「しかるべき時は人に着せてもらったほうがいい」
という考えは、そのようなところからもきています。
しかし一方で、私は自分自身が着る時については、長時間着ていて楽なことを大変重視するのですが、そちらに関しての最良の着付け師はやはり自分自身だと思っています。自分自身の腰紐を締める心地よい位置、帯を巻く心地よい位置、それぞれを締める最適な力加減などは、やはり自分が一番よく分かっています。
最近、私の着物の着用シーンは自分が主役であることは殆どなくなっています。それでも一張羅としての着物を着たい時に天候が悪かったり、炎天下のなか移動しなければならなかったりする場合は、私は動きやすい洋装で現地の式場やホテルなどの更衣室に赴き、涼しいところで着替えをするということを非常に良くやります。
自分で着れれば着付け師とともに移動しなくて済むのもメリットです。
いずれにしても、私自身は自分で着る技術を持っていて良かったな、と思ったことが数知れません。
これからもどんな時も自分で着たいと思っています。
川口着付個人教室
http://www.wbcs.nir.jp/~yoko