自殺を企て、現場で社会死状態が確認され
救急搬送されなかった場合は治療費が発生することはありません。
一方で、搬送後、病院にて死亡が確認された場合
または幸運にも息を吹き返して未遂に終わった場合も
その治療には(政府または組合管掌)健康保険も国民健康保険も使えないので
高額な「自由診療」の請求が上がることになります。
この「自由診療」の治療費は、保険治療の基になる治療費の10割負担ということではなく
あくまでその病院の「時価」になります。
具体的な例として、ヤフー知恵袋で金額の妥当性を尋ねている次のような質問がありました。
飛び降り自殺(検案書推定時刻16:50)から45分後(17:25)救急搬送にて病院到着
集中治療室で蘇生措置を施すも47分後に死亡(18:12)
初・再診療 10,000円
入院料 222,400円
検査 18,600円
画像診断 9,040円
注射 1,450円
処置 21,740円
手術 334,110円
その他 5,460円
消費税 30,867円
総計 653,667円
そして蘇生して生き延びた場合は人工呼吸器装着だけで毎日10万円
10日間で数百万(!)単位の医療費負担が生じることもあると言われ
これは自由診療の時価が保険治療の2~3倍になるためのようです。
あくまで比較のための参考ですが、今年初め間質性肺炎で他界した義母の場合
42日間ICUでほとんど人工呼吸器を装着され投薬治療、都合約50日間入院後に死亡
後期高齢者医療費として約110万円、自己負担はその1割の約11万円で済んでいます。
政府は2006年に自殺対策基本法を制定し対策を強めているのですが
健康保険法の規定はそのままです。
第116条 被保険者又は被保険者であった者が、自己の故意の犯罪行為により
又は故意に給付事由を生じさせたときは、当該給付事由に係る保険給付は、行わない。
この「自己の故意の犯罪行為」に自殺未遂が含まれています。
ただし…
精神異常により自殺を企てたものと認められる場合においては
116条の「故意」に該当せず、保険給付は為すべきものである。
戦前の通達(昭和10年代)による保険給付の制限なのですがで
現時点でも有効とみなされています。
また、大手企業の健康保険組合の規定においても
自殺(自殺未遂)の場合は
故意に基づく事故であり、その行為による傷病の治療や傷病手当金の支給はしません。
ただし、その自殺が精神の障害により
その行為の結果に対する認識能力のない精神的病気の患者の場合
例外として保険給付を行います。
なお、その後、その自殺の引き金となった精神的病気の療養を受ける場合も
その療養に対する給付を行ないます。
このように、自殺未遂で集中治療等が必要となった場合
家族には精神的ダメージに加え、極めて重い経済的負担がのしかかることになります。
健康保険法の規定は、相互扶助の立場から
給付を必要最小限に抑えようという趣旨で記載されています。
しかし、時代は進歩し、医療保障は社会保障の根幹であり、国民皆保険の理念から考えても
給付の制限はできる限り限定的とすべきです。
少なくとも、自らの命を絶つという行為に対し
例え経済的ペナルティを与えても自殺を予防することはできませんし
かえって新たな悲劇を生むことにも繋がります。
このため、現場となる病院では故意の自殺と見なさない精神疾患だった“ことにして”
これら保険が使えるように配慮し便宜を図ってくれることが少なくないとも言われています。
この「少なくない」が、「自殺の原因・動機」のデータ数字に含まれていて
その実態も実数も当然、明らかにできるわけがないのですから
「自殺の原因・動機の多くがうつ病である」という結論自体
私には疑う余地があるように思えてならないのです。
昨今の世間の経済事情が影響して保険治療における自己負担分でさえ
支払えない人が増え、病院経営が圧迫されている話も聞きますから
取っぱぐれのない保険治療だったことにしてしまう病院側の都合もあるのでしょうが
もちろん、こうした“便宜”を非難するつもりは毛頭ありません。